[小泉悠]<ウクライナ問題で接近する中露>尖閣周辺での中露軍事合同演習や最新鋭武器の輸出
小泉悠(未来工学研究所客員研究員)
混迷を増すウクライナ問題だが、日本ではどこか「対岸の火事」といった受け止められ方をしているように思う。
たしかにウクライナは遠い東欧の国であり、万が一大規模な軍事衝突が発生したとしても、日本が交戦当事国になる可能性はごく低い。しかし、より広い視野で見るならば、ウクライナ問題は日本を取り巻く戦略環境に大きな影響を与えうるということをここで指摘しておきたい。今回の危機は中露のさらなる接近を促す可能性があるためだ。
近年、米ロ関係は人権問題やシリア問題、ミサイル防衛問題などを巡って再び緊張局面を迎えつつあり、シェールガス革命によって以前ほど天然ガス市場としての欧州に期待することも難しくなっていた。
一方、これを補う形で、ロシアは中国との関係を少しずつ深めつつある。なんといっても中国は巨大なエネルギー需要国であり、政治的にもロシアと多くの利害を共有している。そして今回のウクライナ危機でロシアの孤立化が本格化すれば、ロシアは政治・経済・安全保障上のパートナーとしてさらに中国に深く依存するようになるのではないかという観測が欧米の安全保障専門家の間で見られるようになってきた。
この予測は、日本の安全保障上、非常に重要な意味を帯びている。
これまでロシアは中国との安全保障協力を深めつつも、そこには一定の自制が働いていた。武器輸出にしても最新鋭の装備は供与してこなかったし(中国の違法コピー問題が浮上すると輸出はさらに減少)、日中間の領土紛争でもロシアは可能な限り中立を守ろうとしてきた。また、中国との関係を深める一方、日米との安全保障協力(日本との間では2013年に初めての外務・防衛閣僚会合を実施)や、中国と領土問題を抱える東南アジア諸国への武器売却、中国の戦略的ライバルであるインドとの友好関係などを通じて、バランスを取ろうとしてきた。
ところが今回のウクライナ危機前には、日中が尖閣を巡って争う東シナ海で中露合同演習を実施することが発表されたほか(それもこれまでのように中国が一方的に宣伝するのではなく、ロシア軍東部軍管区が自ら発表)、まだロシア軍にも十分配備が進んでいないS-400防空システムの中国への売却が決定したと伝えられた。