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.社会  投稿日:2020/12/27

小池知事・都医師会へ「なぜ医療崩壊が起きるのか?」東京都長期ビジョンを読み解く!その95


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・新規入院患者の病床確保には、急性期病院だけでなく一般医療も使う必要があるとの医師会発言。

・コロナ患者受入で従来の患者を失うことは一般病院の経営圧迫に繋がり、受入進まず。

・都は患者の受け入れる医療機関に金銭支援を行うことを発表も、受入病床確保に向けた具体根拠示されず。

「真剣勝負の3週間」(東京都医師会尾崎会長、緊急記者会見:令和2年12月22日での発言)

尾崎会長の「社会はつながっている」というメッセージは素晴らしいし、「ただ医療緊急事態宣言を出しただけではだめ。危機感を都民・国民に共有していただきたい」という点など心から同意した。新型コロナウイルスで医療現場は本当に本当に大変だろう。病院で過酷な労働条件を強いられ、頑張っていらっしゃる医療従事者の方には心から敬意を示したい。

▲図 東京都医師団緊急記者会見資料4ページ目抜粋 出典:東京都医師団・緊急記者会見資料

特に、猪口副会長の説明は非常にわかりやすかった。

要点は

・医療提供体制が4段階のうち最も深刻な「体制が逼迫(ひっぱく)している(レベル4)」に引き上げられた。

・(猪口さんは)病床数は3000床用意されているはずだが、あと1000残っていると質問を受けた。

・しかし、3000床がほぼ確実に足りなくなることがわかった。

・都内で110病院が急性期病院(だいたい200床以上の有力な病院)。患者を診るのは非常に労力がかかる。1病棟せいぜい3人くらいでみるのが精いっぱい。それくらいの回転で見るしかない。

・110の病院があっても、実際受け付けられるのは300くらい。理論上も実際もそう。

・300くらいのところに新規陽性者のなかで入院してもらう人たちを入院してもらうように調整するしかない。なかなか切迫している。

・残りの病床が足りないうえに、かなりの新規陽性者が見つかっている。4割の方に入院してもらわなければならない。操作をしながらなんとか入院を保っている。それも新規陽性者が増えてくると厳しい。

・今、ベットを4000床に増やすよう、各病院に要請している。

・4000床確保においては、一般医療を使ってやっていかないといけなくなる。

というのが「医療崩壊」の危惧のようだ。

▲図 新型コロナウイルスの感染状況と医療提供体制の分析図 出典:令和2年12月17日(木曜日)開催、東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議(第24回)資料。「02_感染状況・医療提供体制の分析」1ページ目より抜粋

しかし、この東京都医師会さんの会見を聞いていて、同時に疑問も出てくる。

欧米と比較して圧倒的に数が少ないのに、なんでこんなに危機になるのか???と。

危機だ!だから皆さんこうしてくれーというのはおっしゃる通りなのだが、納得できるエビデンスが示されないでは行動に従わない人もいるだろう。

■医療崩壊する理由は何なのか?

▲グラフ 医療提供体制・入院患者数の推移 出典:東京都医師団・緊急記者会見資料2、18ページより抜粋

東京大学大学院法学政治学研究科教授・内科医の米村滋人教授が、ビデオニュース・ドットコム「マル激トークオンディマンド」にて凄いことを言っていた。

【米村教授の発言趣旨】

・日本の医療逼迫の最大の原因は、日本の医療体制とそれを巡る法制度に問題がある

・現在の医療法では都道府県は医療機関に対して病床の転換やICU(集中治療室)の設置、感染症患者の受け入れなどをお願いすることしかできない

・日本は欧米と比べると公立の医療機関よりも民間の医療機関が圧倒的に多いため、コロナ患者を受け入れることで従来の患者を失い、結果的に経営が圧迫される可能性がある民間の医療機関は、政府からお願いをされてもコロナ患者を受け入れようとはしない

・結果的に今日本では、強制はされなくても患者の受け入れを決めた一握りの医療機関にコロナ感染者が集中し、そこだけで「医療の逼迫」や「医療崩壊の危機」が起きている

(米村教授ご発言についての出典:ビデオニュース・ドットコム、マル激トークオンディマンド「日本のコロナ対策論議に根本的に欠けているもの」

ということなのだ。

渡辺さちこ、アキよしかわさんの新著「医療崩壊の真実」では

・自治体が病床確保を要請できるのは公立・公的病院、大学病院の一部

・ユニットがあっても、集中治療・救命救急・呼吸器内科医の専門医がいないという病院や集中治療専門医がいても1人というところも。ミスマッチがある

ということも指摘されている。

東京都の要請に協力するよう病院に徹底的に頭を下げたり、経済的支援するなりすればいいのではないかと考えるのは当然のことだろう。

韓国では、一部報道によると「医療崩壊」を避けるため1万あまりの病床を確保する計画を明らかにした。今後3週間で重症者用の専門病院など1万床以上を確保し、軍医や医大生なども投入して人手不足に備えるらしい。

なぜできないのか?と思う。

■エビデンスと具体性のある説明を

12月21日に小池都知事は「年末年始、特に重症患者のための病床の確保がより一層困難になるとの見通しも示されております」と話し、年末年始に患者を受け入れる医療機関に対して重症患者1人につき1日30万円、軽症・中等症の患者さん1人につき1日7万円を支援することを発表した。

▲図 入院患者受入体制における対策説明 出典:令和2年12月21日東京都知事会見資料より

ただし、その後の質疑応答で

【健康危機管理担当局長】

はい。私の方からお答えさせていただきます。医療体制の確保でございますけれども、先ほど知事が説明したようなことが想定されますことから、各医療機関の方に、さらなる病床の確保、これをお願いしたところでございます。

具体的には12月16日(水曜日)の段階で、各医療機関の方に、私ども、重症250床、中等症等3750床と合わせて4000床の確保をしていただくようお願いしたところでございます。

(健康危機管理担当局長ご発言の出典:東京新聞の小倉さんの質問への健康危機管理担当局長の返答/小池知事記者会見:令和2年12月21日)

お願い・要請しかできないのか?

どのような病院にお願い・要請しているのか?

お願い・要請を受け入れた割合は?断られた理由は?

お願い・要請されなくても協力してくれる病院はどれくらいなのか?

がさっぱりわからない。

主張するなら、根拠、エビデンスを明確にした呼びかけをしてもらいたい。EBPM(Evidence-based Policy Making、エビデンスに基づく政策立案)、EBM(Evidence-Based Medicine、根拠に基づく医療)を原則に業務を進めている都知事や東京都医師会は当たり前のことですよね?。人を動かすには事実の裏付け、そしてエビデンスが必要なのはわかっていますよね?

トップ写真:病床(イメージ写真) 出典:Pixaday




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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