【岸田政権への提言】GDPで負けたドイツに追いつくために徹底賃上げと転職市場拡大を【日本経済をターンアラウンドする!】その21
西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・ドイツにGDPで抜かれ、日本経済の厳しい現実を突きつけられた。
・物価高を超える徹底的な賃上げが必要になる。
・転職市場の活性化で、企業経営者が賃上げをしなければならない。
ドイツにGDPで抜かれた。まさに日本経済の厳しい現実を突きつけられた形だ。人口が3分の2の国に劣るということは、相当わが国はどこかがおかしいということだ。そのためにやるべきことは、人的資本経営に尽きる。社員が楽しく仕事ができ、やる気をもって、相互に協力し合って、仕事をしていく、そういう職場を作っていくしかないということだ。労働生産性を上げるために、無駄な作業や時間を効率化し、新規事業やイノベーションに挑戦していかなければならない。日本経済全体としては、輸出促進、産業競争力を上げていくことをもっと真剣に考えないといけない。
□ドイツに負けた原因
まず、ドイツに追い抜かれた理由は、円安要因など様々であるが、大きく3つになる。
①グローバル市場での競争力低下
②企業の改革が進まない、産業構造が固定化
③企業の行動選択
である。
①については特に国際競争力のランキングで日本企業は一気に凋落したことが示すように、世界市場を席巻した「日本製」電化製品は過去の話。価格決定権のある立場ではなく、品質がよい、そこそこ良い下請けに成り下がってしまった。②については、大企業もメンバーは相変わらず、産業構造が固定化しているといってもよいだろう。特に③は簡単なことだ。
・企業は値上げを避ける
・内部でのコストカット、特に人件費圧縮に走る、新規商品開発に力を注げない
・あまり声が大きくない労働者にしわ寄せがいく
・労働者は団結できず賃上げを要求できず
・経営者は自分たちの利益確保を優先する
デフレ下でそうなるのであった。労働組合の力が弱いため、デフレ下で、韓国・中国など製造業は追いつかれたり、追い抜かれたりする中、短期的な利益確保のため、企業はこうなるのは必然の事だろう。
なので、価格アップを許容しつつも、労働者の賃上げを図り、日本のビジネスパーソンのリスキリングをはかって、イノベーションを徹底的にすすめるしかない(所属のNPOは大阪関西万博・でそうした活動を支援)。
□ 提言1:徹底的賃上げ
賃上げの動きは大企業には広がっている。これがどこまで広がるかであろう。現在、ゼネコン各社は7%、メガバンクは3%、連合の春闘、平均賃上げ率は5.3%、連合所属の中小企業も4.42%となっていて、着実に賃上げが進んでいる。19年ぶりの水準であり、失われた30年からの脱出に向けて着実に進んでいる。とはいえ問題も2つ指摘されている。
第一に、特にロスジェネ層に対しての賃上げが不十分であることである。第一生命経済研究所によると「30代後半~50代前半のいわゆるロスジェネ世代では30年ぶりの賃上げにもかかわらずほとんど所定内給与が増えていない」(第一生命経済研究所HPより)との指摘がされている。
そして、第二に、物価高を超えてはいないこと。そうなると、物価高を超える徹底的な賃上げが必要になる。
□ 提言2:転職市場の活性化
賃上げができない企業に勤めている社員に対しては、賃上げできない企業から脱出してもらうことを促進していくべきだろう。賃上げできない、未来のない業界にいることより、未来が明るい産業に移ってもらうことである。とはいえ、転職市場は成熟していない。なので必要なのは「転職市場の活性化」である。
Indeedの調査では「転職経験率は日本59.7%に対してイギリス92.7%、アメリカは90.1%、ドイツは84.2%、韓国は75.8%で日本は最下位」である。転職することがなかなかむずかしい。そうなると、転職市場を活性化する政策を推進していくべきだろう。労働者から見ても、賃上げに応じないような企業に我慢して耐えているより、とっととやめることができる場を作ってあげないといけない。
□ 岸田政権の賃上げ政策加速へ!
「マイナス金利政策」が解除され、日本経済に光が差しつつある。岸田首相が旗を振る「賃上げ税制」(7%以上の賃上げで法人税が最大35%差し引かれる)などを展開している。こうした賃上げ税制をさらに中小企業にも波及させつつ、他方、転職市場の活性化で、企業経営者が賃上げをしなければならない。
平均賃金1500円以上、2000円を要求することだってあってもよいかもしれない。経営者はここ30年間、その力量を試されなかった。企業経営者にとって、賃上げするどうかは、踏み絵になるだろう。いわゆる「ゾンビ企業」、補助金で生きながらえる企業は退出をするしかない。それは資本主義社会のルールだからだ。強力な政権でないと賃上げのような要求を企業に求めることは難しい。その意味で、岸田政権に期待したい。
トップ写真:ベルリンの街並み(イメージ)出典:querbeet/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。