無料会員募集中
.経済  投稿日:2024/2/25

ドイツに負けた本当の理由は「人への態度」にある【日本経済をターンアラウンドする!】その20


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・日本の2023年のGDPが4兆2106億ドルとドイツに追い抜かれ世界4位に。

・そもそもの「人」への考え方を根本にマインドチェンジをするべき。

・権威主義的な組織で、現場に負担を強いるような組織人事ではドイツに勝てるはずはない。

 

世界4位の経済大国に。

日本の2023年のGDP(国内総生産:ドル換算)が4兆2106億ドルとドイツに追い抜かれてしまった。円安の影響もあったとはいえ、日本はドイツより人口が1.5倍も多い!ということは、仕事の能力が低いと結論付けてもいいだろう。そう、この国は先進国でも何でもない。簡単に言えばこういうことだ。

3万9098円と日経平均株価は史上最高値の終値を更新、大企業は好業績の連続を続けている。2022年度の大企業の内部留保は511兆円と過去最高を更新した。一方、現場の労働者はOECDでも各指標が下位に沈む状況。国民1人当たりGDPは23位、平均賃金は韓国以下である。この皮肉な状況は、現場の犠牲の上に大企業の繁栄が成り立ってきたといっても過言ではない状況。新たなイノベーションも生まれ、スタートアップが出ていくためには、そもそもの「人」への考え方を根本にマインドチェンジをするべきだろう。

□なぜ?根本的な理由は人への態度

この30年の「オワコン経済」の原因をかなり簡単にまとめると・・・・

・企業は値上げを避ける

・内部でのコストカット、特に人件費圧縮に走る、新規商品開発に力を注げない

・あまり声が大きくない労働者にしわ寄せがいく

・労働者は団結できず賃上げを要求できず

・経営者は自分たちの利益確保を優先する

ただこれだけのことなのだ。企業の製品競争力が落ち、グローバル市場で勝てなくなったこともあったが、日本経済はここまで転落した。つまり、「労働者」に我慢を強いたということ、もっとはっきり言えば、「人への態度」が厳しかったということだ。ここで言う「人への態度」というのは、仲間や身近な人に対してではなく、利害が対立する人、見知らぬ他人に対しての態度のことである。他方、権力を持っていたり、発言力を持っていたり、そういう人に対しては過剰なまでに忖度をしてしまっていた。

□人への態度

皆に質問したい。

【質問1】あなたが社長だったら、使えない社員に報酬という対価をできるだけ払いたくないですか?

【質問2】日用品が高くなってあなたの財布の紐が厳しくなるため、商品の値上げは許せないですか?

【質問3】他人が最低限度の暮らしを保証するために税金をあげる必要がありますが、これに反対ですか?

この3つの質問に答え方の中には、「YES」という人が多いだろう。人間なんて自分がかわいい人が多いからそんなものだろう。でも、人は知っている他人や仲間には優しいし、支えてあげたいとも思っている。しかし、自分の利害が絡むと話はかわってくる。

そこに日本社会のジレンマがある。消費者が安価なものばかりを求めたり、値上げに過剰に反発したり、現場に過剰なサービスを求めたりしていくと、企業の現場は非常に苦しくなる。経済はまわりまわっていくもの、経済はつながっている。自分自身の合理的な経済行動が、結局、経済全体を委縮させてしまう。デフレから続く、失われた30年の特徴はまさにここにあった。

□ドイツに追いつくために

この30年間日本がまともに成長しなかったし、企業競争力も低下しつつあった。昭和の成功モデルが失敗したのに、それを大きく修正できなかったわけだ。たしかに、ドイツが安いエネルギー価格で、輸出が好調でといっても、ドイツの輸出製品単価は一貫して上昇。他方、日本は輸出数量を確保するために、製品単価を値引きをした。そうせざるを得なかったという意味で、商品開発力でも負けたわけだ。

商品開発力を上げるには「人への態度」を改め、「人に投資」するしかない。人を大切にして、安心を確保し、ウェルビーイングを追及してもらい、人の能力を信じ、イノベーションを起こしていく、そうするしかないということだ。権威主義的な組織で、現場に負担を強いるような組織人事ではいかんせんドイツに勝てるはずはない。

企業は人的資本に投資して、労働者の能力やイノベーションを起こして、収益をあげる。労働者は賃上げを要求し、要求が認められなければ転職し、残るのなら楽しく仕事でき、やる気にみちて・試行錯誤して学び、成長し・与えられた仕事だけでなく、自分から提案・挑戦する・結果、目標達成、業績が向上・成長できる。

こういうモデルを作っていかなければならない。輸出促進、産業競争力を上げていくことをもっと真剣に考えないといけない。賃上げや新しい資本主義はその意味で正しい。岸田政権に期待したい。

トップ写真:東京丸の内の交差点 出典:ooyoo/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."