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.国際  投稿日:2021/6/16

G7首脳宣言、中国名指しは1か所のみ


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#24」

2021年6月14-20日

【まとめ】

・菅首相にとっての初の対面G7サミットはまずまずの結果。

・中国への姿勢は日米と欧州諸国で乖離あり。

・トランプ氏退任後のG7体制で米中の新たなゲームが始まっている。

 

菅首相にとって初の対面G7サミットはまずまずだった。

トランプ氏がいなくなり、G7首脳会議は本来あるべき姿に「戻った」、とまでは言わない。しかし、すべての参加国首脳が「戻そう」と努力したことは間違いなかろう。今回は首脳宣言初の「中国」名指し言及でG7 は「一致して中国に厳しい姿勢を示した」と報じられている。

ところが首脳宣言を詳しく読めば、中国を名指ししたのは一か所だけ、「特に新疆や香港との関係で人権や基本的自由を尊重するよう中国に求めることを含め、G7の価値を推進していく」とした部分のみだ。大陸欧州諸国がかなり抵抗したのだろう。内容的には日米の事前の思惑と随分異なる結果なのかもしれない。

従来の関連文書と比較しても、今回の表現は見劣りする。例えば、4月の日米共同声明では「中国の行動について懸念を共有」したと述べ、5月のG7外務・開発大臣会合コミュニケでも、「我々は中国に対し、国際法及び国内法上の義務に従い、人権及び基本的自由を尊重するよう求める。」と明確に述べていたからだ。

この点については、今週の産経新聞コラムなどに書いたのでご一読願いたい。米国内、特に共和党保守派の間では、「G7は中国に対する懸念よりも、中国に対する具体的行動で一致すべきだった」とする批判も根強いと聞く。中国側は猛反発しているが、G7の正常化に伴い、米中間の新しいゲームは既に始まっている。

それはさておき、欧米メディアの関心は既にNATO首脳会議など、トランプ時代にギクシャクした欧米関係や今週の米露首脳会談の行方に移っている。バイデン大統領プーチン大統領と如何にやり合うつもりなのだろうか。「頑張ってほしい」とは思うが、つい前回米露首脳会談でのトランプ氏の異様かつ無様な姿を思い出す。

▲写真 左から、ベネット首相、リブリン大統領、ラピド外相 出典:Amir Levy/Getty Images

今週もう一つの注目点は、イスラエルで平和的政権交代が実現したことだ。先週は「本当に首相が交代するか確信が持てない」と書いたが、やはりイスラエルは民主主義の国、パレスチナのように選挙が全く行われない地域や人々とは、一味も二味も違うようである。

先週も書いた通り、たった数人の寝返りや裏切りでも、多数派工作は崩壊する。議会での新内閣承認投票の際に突発事件が起きなかったことは幸いだが、ベネット新内閣は極右からアラブ政党まで含む「有象無象」の妥協の産物であり、政権運営は文字通り「薄氷を踏む思い」だろう。次の焦点はネタニヤフの「政治生命」である。

〇アジア

G7サミットでは日韓首脳会合は勿論、日米韓首脳会合も開かれなかった。当然と言えば当然。だが韓国の大統領府は、夫人プログラムの最中に文大統領夫人が菅首相夫人に先に近付き、「このように初めて会うことになりうれしい」と挨拶を交わしたと伝えたそうだ。韓国側は、菅首相と会談できず、かなりショックだったのだろうか。

〇欧州・ロシア

バイデン大統領の英国訪問時、女王が大統領に「習近平はどんな人か」と尋ねたと報じられた。ふと、習近平英国公式訪問の際に女王が中国側代表団は「とても失礼だった」と発言していたことを思い出した。余程不愉快だったのだろうか。それにしても、エリザベス女王の知的好奇心は今も旺盛のようだ。お元気で、何よりである。

〇中東

今週はNATO首脳会談の際に米トルコ首脳会談が行われるはず。トルコといえばNATOの有力加盟国でありながら、ロシア製防空システムを買い込むなど、米国との確執が懸念されている。報道によれば、トルコと関係に劇的進展は難しいといわれるが、個人的には今回の首脳会談で何らかの糸口が見つかれば良いと思う。

〇南北アメリカ

米国では、大統領がトランプだろうが、バイデンだろうが、銃の乱射事件が続いている。ある統計によれば、その頻度は毎日とは言わないが、数日に一回は起きている。また、銃規制と同様に懸案である違法移民問題では、ハリス副大統領が「国境に行くか行かないか」で批判されている。米国の内政も相変わらずのようだ。

〇インド亜大陸

インドでは、新規感染者が過去2カ月あまりで最低の水準に減少し、デリー首都圏を含め多くの州で新型コロナウイルスの規制が緩和されたそうだ。今週はこのくらいにしておこう。

いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:G7各国首脳陣(イギリス・コーンウォール 2021年6月11日) 出典:Leon Neal – WPA Pool/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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