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.国際  投稿日:2021/6/27

大統領選後の混乱収まらぬペルー ~ケイコ氏の動向がカギ ~


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・ケイコ氏が「異議」訴え、ペルー大統領選の正式当選者決まらず。

・急進左派カスティジョ氏当選「確定」でも、政情不安は続く。

・退役軍人グループがペルー政治共産主義化を懸念、大統領選結果を認めないよう軍首脳に要請との情報も。

 

「カスティジョ候補の当選は動かない」

ペルー情勢は6月6日の大統領選決選投票から約3週間が経過した現在も、当選者が正式に決まらず、混迷の度を増している。

選管当局は、教職員組合出身の急進左派カスティジョ候補が有効投票の過半数の50.195%を得票したと発表したものの、得票率49.805%とされる対立候補のケイコ氏が開票作業に不正があったと訴え、20万票の無効化などを主張しているからだ。

ペルーの有力調査会社DATUMがこのほど公表した世論調査結果によれば、ケイコ氏が主張する開票不正について有権者の65%は「根拠がある」と回答、「根拠はない」の29%を大きく上回った。

それでも、選管がケイコ氏の主張を全面的に認め、改めて開票作業を行う可能性は低い。米州機構(OAS)派遣の選挙監視団が「ペルー大統領選決選投票で重大な不正はなかった」との判断を示したことが、この背景にあるとみられる。

このため、「カスティジョ候補の当選は動かない」との見方が有力だ。しかし、ケイコ氏は“徹底抗戦”の構えを崩していない。

▲写真 デモ行進前に支持者に挨拶するケイコ・フジモリ氏。選挙には不正があったと主張している。(2021年6月12日 ペルー・リマ) 出典:Klebher Vasquez/Anadolu Agency via Getty Images

ケイコ氏は過去の大統領選で不正選挙資金を受け取った容疑などで起訴され、断続的に身柄を拘束された後、今年5月条件付きで釈放されたが、決選投票後、検察は身柄の再収監を求めた。

司法当局がこのほど、検察の訴えを却下したためケイコ氏は再収監を免れる見通しとなり、“カスティジョ政権”の成立阻止に向けた動きを活発化させようとしている。

新国会での対立激化か

 一方カスティジョ氏は、ペルー憲法で独立記念日の7月28日とされている新大統領の就任式に向け政権づくりの準備を進めているが、新政権が発足したとしても政治の混迷化は避けられないだろう。

新たに発足するペルー新国会では、カスティジョ氏の政党「ペルー・リブレ」が最大議席を有することになるが、定数130議席中、37議席しかない。同党との連携を約束したもう一つの左派政党の5議席を足しても、過半数には達しない。

▲写真 記者会見するペドロ・カスティジョ氏(2012年6月15日 ペルー・リマ) 出典:Ricardo Moreira/Getty Images

これに対し、最大野党となるケイコ氏の中道右派政党「フエルサ・ポプラル」は24議席だが、これに今回の決選投票でケイコ支持を表明した極右政党の13議席、さらに他の右派政党の議席が加われば国会勢力は逆転する。右派系政党が結束すれば大統領罷免が可能な状況が生まれる。

社会主義色の強い政策を公約としているカスティジョ氏に対し、自由市場経済の継続などを重視するケイコ氏らがどう出るか、「対立は激化する」と予想する向きが多い。ケイコ氏の動向が大きなカギとなる。

ただ、カスティジョ氏の基本政策は必ずしも、明確ではない。同氏は当初、天然資源やエネルギー分野の国有化、経済における国家の役割強化などをスローガンに打ち出した。だが、最近はこうした強硬方針を修正するとも受け取れる発言をしている。

消えない経済界の懸念

それでも、ペルー経済界の不安は消えそうにない。同国の大手鉱山会社の幹部は「カスティジョ陣営が資源国有化をあまり口にしなくなって一安心していたら、鉱山会社への課税強化を言い出したので、また新たな不安が募る」と語る。

ペルー最大の民間銀行「バンコ・デ・クレディト」の経済アナリストも「基本的にマルクス主義政党であるペルー・リブレが自由市場経済を認めるはずがない」と強い懸念を示す。

加えて「ペルー・リブレ」内でカスティジョ氏よりも、もっと強硬派の同党創設者で書記長を務めるセロン元フニン州知事が発言力を増していることが不安に拍車をかけている。

セロン氏はキューバ留学経験のある脳神経外科医という異色の政治家で、「ペルー・リブレ」創設に当たり、「左派社会主義」を党の理念とし、マルクス主義に忠実な政策を掲げた。鉱山やエネルギー分野の国有化はもとより、国家統制型の「人民経済」の実現を主張していることでも知られる。セロン氏は、カスティジョ氏が軟化姿勢を示すたびに党の基本方針から逸脱しないよう圧力を加えていると伝えられる。「ペルー・リブレの本当の指導者はカスティジョ氏ではなく、セロン氏」(ペルー・カトリカ大政治学者)という声もあるほど。

こうした中、退役軍人グループがペルー政治の共産主義化を懸念し、今回の大統領選結果を認めないよう軍首脳に要請した、といった不穏な情報も流れている。7月28日の新大統領就任式に向けペルー政治は一段と緊張した局面を迎えそうだ。

トップ写真:開票結果に抗議するケイコ・フジモリ氏の支持者たち(2021年6月10日 ペルー・リマ) 出典:Raul Sifuentes/Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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