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.国際  投稿日:2023/8/13

注目のグアテマラとエクアドル大統領選 中南米動向占うカギに


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・8月20日、グアテマラで大統領選決選投票、エクアドルで大統領選。

・グアテマラでは新興左派候補優勢、コロンビアでも左派候補当選の見方。

・2つの大統領選の結果、中南米政治潮流に大きな影響を及ぼす可能性。

 

 

◇新興左派候補の急伸目立つ―グアテマラ

 グアテマラの決選投票は、6月の大統領選第1回投票でいずれの候補も当選に必要な有効投票の過半数を獲得できなかったことを受け上位2候補で争われる。

 中道左派の野党「国民希望党」のサンドラ・トーレス氏(故コロン元大統領元夫人)と中道左派の新興政党「セミージャ運動」のベルナルド・アレバロ氏(元外務次官)の戦い。

 トーレス氏は過去2回大統領選に出馬し落選、今度は3度目の挑戦。アレバロ氏は当初は泡沫候補とみられていたが、汚職の撲滅を訴え人気が急上昇、第1回投票で2位に躍り出た。父親が同国史上初の民主的選挙で選ばれた大統領として知られることもプラス材料。

 決選投票に関する最新の現地世論調査ではアレバロ候補が支持率63%でトーレス候補の37%を大きくリードしている。ただ、決選投票をめぐる不透明要素もある。政府や検察当局による選挙介入の動きがあるからだ。7月に検察当局が「セミージャ運動」の党員登録に不正があったとし、同党の資格停止措置の発動を発表。これに反発する抗議デモが発生、憲法裁判所が同措置の一時差し止めを命じたことで決選投票実施への道が開かれたという経緯がある。しかし、現地では依然として決選投票への妨害工作説も流れている。

 

◇初の女性大統領誕生か-エクアドル

 エクアドル大統領選は、5月にラソ大統領が不正疑惑に絡む国会の弾劾の動きに対抗し国会を解散するという異例の事態を受け行われる。8人の候補が出馬を表明したが、いずれかの候補が有効票の過半数を得るか、あるいは40%以上の票を獲得し、かつ第2位の候補と10ポイント以上の差をつけた場合に当選となる。

 1回目の投票で決着がつかなければ10月15日に上位2候補による決選投票が行われる。今月初めの現地世論調査によると、左派「市民革命運動」のルイサ・ゴンサレス前国会議員が支持率約30%でトップに立ち、他の候補を大きく引き離している。首都キトの政治アナリストの間では「ゴンサレス候補が独走し第1回投票で当選する可能性もあり、決選投票に進んだ場合でも勝利するだろう」との予測が強まっている。

 ゴンサレス候補が当選すれば同国史上初の女性大統領となる。同国では麻薬取引などに絡む犯罪組織同士の抗争が頻発、治安が極度に悪化しており、9日には大統領候補の一人フェルナンド・ビジャビセンシオ氏が暗殺される事件も起きた。大統領選が無事に行われるか不安視する向きもある。

写真)フェルナンド・ビジャビセンシオ氏が暗殺され、お通夜に集まる支持者ら 2023年8月11日、エクアドル キト

出典)Photo by Franklin Jacome/Agencia Press South/Getty Images

 

◇中南米の政治潮流占うカギ

 グアテマラとエクアドルの大統領選の行方は今後の中南米の政治潮流を占う上で重要なカギとなる。ペルーでは2021年に就任した左派のカスティジョ大統領が昨年12月、国会の弾劾で失脚。お隣のチリでは昨年3月発足したボリッチ左派政権は同9月急進的新憲法草案が国民投票で否決された後、税制改革案を議会で通すことに失敗した上、先住民問題など社会政策でも壁に直面、苦境に立たたされている。

 さらに昨年8月スタートしたコロンビアのペトロ左派政権も多くの社会改革がとん挫する中、大統領の長男がマネーロンダリング(資金洗浄)と不正蓄財の容疑で逮捕され、発足以来最大のピンチに直面している。これら左派政権の崩壊や挫折は過去数年顕著だった中南米地域での左翼化の潮流に「待った」をかける形となっている。

 こうした中、グアテマラとエクアドルで左派政権が成立すれば、同地域で再び左翼勢力が勢いずくことが予想される。とりわけエクアドルで左派のゴンサレス候補が当選した場合のインパクトは大きいだろう。同候補は2007年から10年間エクアドル大統領を務めた南米有数の左翼リーダーだったコレア氏の信奉者。コレア氏はベルギーに居住しているが、その政治的影響力は依然として無視できない。同氏は主に2000年代後半から当時のチャベス・ベネズエラ大統領やモラレス・ボリビア大統領と共に中南米の”ピンクタイド”(共産主義化まではいかない左傾化の流れ)を推進、米国との厳しい対立を招いた。ゴンサレス候補は新政権を担う場合、そのコレア氏を最高顧問として指導を仰ぐと公言している。

(了)




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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