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.政治  投稿日:2021/7/22

自衛隊をタダで使えるガードマン代わりに東京五輪に派遣するな


清谷信一(防衛ジャーナリスト)

「清谷信一の防衛問題の真相」

【まとめ】

・防衛省は東京オリンピックに約8500名の自衛官を警備や救護のために派遣。

・夏場は自然災害が多くなる季節、大規模な災害派遣に回す隊員が確保できるのか。

・コロナ禍で自衛官を五輪に派遣し、費用の一部を防衛費から支出することに納税者の理解は得られない。

 

防衛省は東京オリンピックに約8500名の自衛官を警備や救護のために派遣する。これは陸上自衛隊の3個旅団に相当する人数だ。これに対してリベラルも保守派も感情的あるいは短絡的な応酬をしている。リベラルは「平和の祭典に軍隊が動員されるのは異常」といい、保守派は「法的に問題がない」と応酬する。だが問題は無いのだろうか?

確かに防衛省がオリンピックに自衛官を派遣することは法的に問題がない。根拠は以下の法律である。

自衛隊法第100条の3(運動競技会に対する協力)

第百条の三 防衛大臣は、関係機関から依頼があつた場合には、自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度において、国際的若しくは全国的規模又はこれらに準ずる規模で開催される政令で定める運動競技会の運営につき、政令で定めるところにより、役務の提供その他必要な協力を行なうことができる。

事実過去、自衛隊はオリンピックに協力してきた。これを根拠に保守派は派遣を当然と主張している。だが、この法律は派遣が可能であると言っているに過ぎず、派遣しなければならない根拠とはならない。しかも「自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度において」とある。

果たして今回の派遣は「自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度」の範囲なのだろうか。

現在自衛隊の部隊、特に陸上自衛隊の充足率は低い。充足率が6割程度の部隊はゴロゴロしている。特に現場で働く任期制自衛官は充足率が低い状態が恒常化している。2士、1士の充足率は4割程度、士長を含めても7割程度に過ぎない。

衛生要員の充足率も低い。部隊の医官は充足率が2割強でしかなく、本来護衛艦の乗組員の定数に入っている医官は乗っていない。例外は海外任務だけだ。筆者は中谷防衛大臣依頼の歴代防衛大臣にこのことを会見で質してきたが、自衛隊病院に集約しているから問題ないという認識だ。だが「問題」ないのであれば、部隊の医官の定数を削減していいはずだが、していない。実際は医官の数が足りずに、自衛隊病院を回すために医官を病院に集約している。このため部隊では薬剤官(薬剤師)が、鎮痛剤や胃薬などの売薬を隊員にわたすぐらいしかできない。

また看護官(看護師)も充足率が低く、自衛隊病院の夜勤のシフトを組むのも苦労している有様だ。有事の際に病院の衛生要員を振り向けることは不可能だ。前線部隊は死傷するまま、野垂れ死にを強要されるだろう。平時でも足りない衛生要員で戦争を遂行できるわけがない。よく「識者」が自衛隊をコロナ対策でもっと活用しろというが、机上の空論である。

このような状態で「自衛隊の任務遂行に支障を生じない限度」で3個旅団分の隊員を派遣できるとは思えない。

第一に、それで自衛隊の「本業」である国防の任務に穴は開かないのか。夏場は台風や大雨などで自然災害が多くなる季節であり、実際に熱海の水害では多くの自衛官が既に派遣されている。更に大きな災害が起こった場合、大規模な災害派遣に回す隊員が確保できるのか。

英国はロンドンオリンピックでは航空対テロのために、地対空ミサイル部隊などを配備したが、今回そのような任務はないようだ。このような警察などでは対処できないような状況にために派遣をするならば理解もできるが、大半は「警備員」代わりだろう。

本来、警備は主催者と警察で行うべきだ。主催は必要な警備員を、予算を組んで雇うべきだ。

オリンピックといっても所詮外国の興行師がやっている営利運動会に過ぎない。これに自衛官を「ダダで使える警備員」として派遣するのは一種の利益供与にほかならない。8500名の「警備員」をオリンピック(そしてパラリンピック)で雇うならばコストは、パソナなどが中抜するだろうから10億円単位で必要だ。その金を主催者側が濡れ手に粟で儲けさせることになる。

▲写真 国立競技場の前のオリンピックリング(2021年6月23日) 出典:Photo by Yuichi Yamazaki/Getty Images

そしてご案内のように派遣される自衛官の多くはワクチン接種を完了していない。英海軍が現在インド洋、太平洋方面に派遣している空母、クィーン・リザベスは乗組員全員が2回のワクチン摂取を完了していたにも関わらず、多くの感染者を出している。

であればオリンピックに派遣される隊員は罹患する可能性は少ないとは言えないだろう。すでに20日の段階で派遣部隊から感染した隊員がでている。陽性者が全国のそれぞれの部隊に戻って部隊、あるいは地域に感染を拡大する可能性もある。原隊で多数の感染者がでても有事や災害派遣に支障はないのだろうか。

そもそも緊急事態宣言で、民間人には県境をまたいて移動するなとお触れを出しておいて、日本中から自衛官を、また警察官を集めるのは矛盾している。このためオリンピックを強行すれば日本中でコロナ患者が急増する可能性は否定できない。

それが「コロナに打ち勝つオリンピック」なのだろうか。今からでもオリンピックは中止すべきだ。そもそも猪瀬都知事(当時)は、招致当時予算は7千億円のローコストで国立競技場も現在のものを改修して使うといっていたが、その後国立競技場は建て替えられて、使われる税金は3兆円を超える。例えば悪いが、歌舞伎町のポン引きが「7千円ポッキリで飲めます」といってついていったら3万円の請求書が来たようなものだ。これはぼったくりバーと断定されるだろう。それと全く同じだ。まして連日のようにスキャンダルが起きている。

先の安倍政権も、菅政権もナチスが行ったベルリン大会同様に、オリンピックを政治利用しようとしている。オリンピックで日本選手が金メダルをとれば国威が発揚されて、自分たちの選挙に有利になる。そのためにスポーツ庁まで設立した。オリンピックは主催者の金儲けと、開催国政府の国威発揚のためのイベントである。

オリンピックは「この壺を1千万円で買えばご利益があります」、と安い壺を法外な値段で売りつける、ある種の霊感商法である。「平和の祭典」というが、これだけ多額の税金をつぎ込んだオリンピックが平和に寄与してきたというエビデンスはない。東京大会で3兆円の血税をつぎ込んでどのような平和がもたらされるのか。そんな冗費があるならば、貧困や難民救済に使うほうがよほど平和のためになるだろう。

コロナ禍であえて危険を犯して開催することは多くの国民が望んでいない。このような環境で主催者が「タダで使える警備員」として自衛官を派遣し、あまつさえその費用の一部を本来国防に使う防衛費から支出することに納税者の理解は得られまい。

<参考1>筆者記者会見で岸大臣にオリンピックへの隊員派遣に関して質問した回答は以下の通り。

防衛大臣記者会見令和3年7月9日(金)での質問

Q:オリンピックについてお尋ねします。オリンピックに際してですね、防衛省から自衛官を約9,000人、陸自の部隊でいえば3個旅団相当の人員を派遣するとのことなんですけれども、これに係る隊員の費用ですね、手当とかその他移動費用など、おいくらぐらいかかってるものでしょうか。また、その支出はどういう名目から支出されるんでしょうか。

A:大会組織委員会から、大会運営に関する協力依頼があったことから、自衛隊法第100条の3に基づき、総勢約8500名の隊員にて協力を 行います 。自衛隊法第100条の3に基づ く 協力における費用の負担については、自衛隊法施行令第124 条 において、隊員の給与及び糧食費、自衛隊の車両等の修理費以外 のもの は、協力を申し出た者(大会組織委員会)が負担するものとされております。

防衛省としては、隊員の給与及び糧食費、自衛隊の車両等の修理費のうち、令和3年度の予算に 大会運営に関する協力 のために必要な糧食費として、約1.4億円を計上しております。

大会組織委員会に負担頂く費用のうち、 大会運営に関する協力 に必要な備品等については 、大会組織委員会に要望 し調達していただいております。隊員の移動に伴う費用については、掛かった費用を 大会組織委員会に 支払い頂くこととしておりますが、 清算前であり、現時点ではお答えできません。なお、 大会運営に関する協力 のための特別な手当ては予定しておりません。

<参考2>筆者のオリンピック関連記事

近代オリンピックは欧米の歴史コンプレックスが源流だ①[連載]清谷信一「自衛隊の常識は軍隊の非常識」(11)

近代オリンピックは欧米の歴史コンプレックスが源流だ②[連載]清谷信一「自衛隊の常識は軍隊の非常識」(12)

赤字必至の東京五輪にもの申す

オリンピックでドーピング、何が悪い?

トップ写真:選手村近くを歩く自衛隊員(2021年7月18日) 出典:Photo by Toru Hanai/Getty Images




この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


-  ゲーム・シナリオ -

●現代大戦略2001〜海外派兵への道〜(システムソフト・アルファー)

●現代大戦略2002〜有事法発動の時〜(システムソフト・アルファー)

●現代大戦略2003〜テロ国家を制圧せよ〜(システムソフト・アルファー)

●現代大戦略2004〜日中国境紛争勃発!〜(システムソフト・アルファー)

●現代大戦略2005〜護国の盾・イージス艦隊〜(システムソフト・アルファー)

清谷信一

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