「米外交優先順位の先祖返り」と主要国「国内格差拡大」が最大リスク
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#03」
2022年1月17-23日
【まとめ】
・米外交の優先度はインド太平洋へ移り始めたが、中露イランはバイデン政権をテストし続ける。
・コロナ禍継続で世界経済回復は遅れ格差も拡大。各国の選挙結果次第で主要国間の関係も微妙に変化へ。
・米内政の劣化が著しい。共和・民主両党とも党内事情抱え、バイデン政権は身動き取れず。
日本ではあまり正月気分も感じられないまま、17日から通常国会が始まった。毎年この時期になると「●●年の予測」「重大リスク」といった文章が出回る。今年もその例にもれず、根拠不明の様々な予想がほぼ出揃った。中でも、日本メディアの最近のお気に入りは某グループの「Top Ten Risks」らしい。
同業者の仕事ぶりについてコメントは差し控えるが、2022年の十大リスクは、 ①ゼロコロナ政策の失敗、②テクノポーラーの世界、③米中間選挙、④中国国内政策、⑤ロシア、⑥イラン、⑦二進一退のグリーン政策、⑧各地の「力の空白」、⑨文化戦争に敗れた企業、➉トルコ、なのだそうだ。ふーーん、そうかなぁ?
昨年は ①第46代米大統領、②コロナ後遺症、③気候問題、④米中の緊張拡大、⑤グローバルデータ、⑥サイバースペース、⑦孤立無援のトルコ、⑧中東:原油価格低迷、⑨メルケル後の欧州、➉中南米だった。
さてさて、予測は的中したのか?読者の皆さんはどう思われるだろうか。
更に、2020年は①米大統領選、②技術の分断、③米中関係、④多国籍企業の規制強化、⑤インド首相、⑥欧州の米中との摩擦、⑦気候変動、⑧中東、⑨中南米での不満、➉トルコの挑発、だった。
うーん、そろそろ日本マスコミも前年予測の結果を吟味した上で、どの組織の予測を紹介するかを決めても良いのでは、とすら思う。
それはさておき、筆者の勝手な2022年予測はこうだ。
日本にとって最大のリスクは「米外交優先順位の先祖返り」と主要国の「国内格差拡大」である。
昨年から米外交の優先度はインド太平洋へ移り始めたが、コロナ禍継続で世界経済回復は遅れ格差も拡大、米国内政の劣化で中露イラン等はバイデン政権をテストし続ける、と見る。
更に気になるのが各国の選挙だ。3月に韓国、4月にフランス、5月に比と豪、夏には日本の参議院選挙があり、11月には米中間選挙がある。これらの結果次第では主要国間の関係も微妙に変化するだろう。まずは、3月の韓国大統領選挙が気になるところだが・・・・。
今週最も気になったのは米内政の劣化である。某商社系シンクタンクの畏友は「バイデンは『国対』が得意」と書いたが、その通り、同大統領は中道政治家として、米議会内の左右のバランスをとることで政治的に生き残ってきた。だが、その成功の根源はこれまで議会内の分裂が決定的ではなく、中道政治家にも出番があったからだ。
今の米議会はどうだろう。共和党はトランプ主義者に乗っ取られてしまい、妥協する有力政治家は消えていく。民主党内もリベラルの連中は譲歩しないので、党としてのコンセンサスはできない。上院では、わずか一人の、ウェストバージニア州だったかの民主党議員に振り回されている。これではバイデンの出番は見えてこない。
写真)民主党のジョー・マンチン上院議員(ウェストバージニア州選出)。
出典)Photo by Drew Angerer/Getty Images
そもそも米大統領は議会に働きかけ自分自身の「目玉政策」を勝ち取ってナンボの世界である。現在バイデン政権の目玉は「1.9兆ドルの歳出予算案」だが、コロナ禍によるボトルネック、インフレ、移民、医療保険などの問題に直面し、動きが取れない。これでバイデンは中間選挙に勝てるのか?コロナ禍収束の程度次第ということか。
〇アジア
先週末、遂に北京でオミクロン株感染が見つかったそうだ。CNNによれば、患者は北京市民の女性で感染者との接触はなく、カナダから届いた郵便物で感染したと中国メディアは報じているそうだ。おいおい、どうせフェイクニュースを流すなら、もう少しよく考えて流さないと逆効果になるという典型ではないかね?
〇欧州・ロシア
男子テニスのジョコビッチ選手の豪州入国ビザが取り消され、同選手は国外追放になった。当然だろう、スポーツマンならルールを守るべきだし、オーストラリアは法治国家であることを証明した。ところが、母国セルビアではジョコビッチ擁護論が高まっているらしい。これもナショナリズムの弊害なのだろうか・・・。
写真)豪政府からビザが取り消され滞在先のホテルをあとにするジョコビッチ選手(2022年1月16日 豪・メルボルン)
出典)Photo by Diego Fedele/Getty Images
〇中東
中東産原油の先物が値上がりし、約7年2カ月ぶりの高値を付けたそうだ。アラブ首長国連邦(UAE)の首都にイエメンのホーシー派によると見られる攻撃があったためだという。これはホーシーというよりも、イランが裏にいるのかもしれない。UAEにもこうして手を出すようになったとは・・・。湾岸産油国の治安は大丈夫なのか?
〇南北アメリカ
最近の米マスコミは「トランプの政治活動再開、2024年大統領選出馬」の可能性を盛んに報じている。しかし、問題はトランプがいなくなっても、トランプ現象は残り、トランプよりも賢いトランプ主義者が次期大統領になることではなかろうか。今の民主党を見ていると、この可能性も捨てきれないから、恐ろしい・・・。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)バイデン米大統領(2022年1月14日 ワシントンDC.)
出典)Photo by Chip Somodevilla/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。