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.国際  投稿日:2024/3/22

もしトランプ政権になればその3 日本への高い評価


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

トランプ陣営の政策は、同陣営のシンクタンク「アメリカ第一政策研究所」の発表で知ることができる。

トランプ政権時代の日本との同盟関係が揺らいだというのは事実に反する。

安倍晋三首相とトランプ大統領の親密な関係に基づく日米関係はきわめて強固だった。

 前回、紹介したようなトランプ前政権の中国に対する軍事抑止政策の内容が次期トランプ政権の姿勢を占う際に参考指針としてアメリカ側で正面から報道されることは、まずない。反トランプの主要メディアがそうしないからだ。むしろ現実を裏返しに近いまでに曲げてしまう。その結果、その種の主要メディアに依存する日本の主要メディアもトランプ陣営の政策はまずまともに取り上げることはない。だが実際にはその種の政策を知ることはワシントンでは容易なのだ。トランプ陣営の研究機関アメリカ第一政策研究所(AFPI)の発表を追えばよいからだ。

AFPIはワシントンに本部をおき、常時、140人以上のスタッフを抱える大規模なシンクタンクだが、メディアの光を浴びることは少ない。やはりトランプ嫌いの大手メディアの傾向のせいだろう。

 事実、AFPIの理事長、所長のリンダ・マクマホン、ブルック・ロリンスという両女性ともトランプ政権の閣僚級高官だった。ただし理事や顧問、主要研究員はトランプ陣営を越える広範な共和党系人材を集めている。

この研究所の創設はトランプ政権の退陣から3ヵ月後の2021年4月だった。趣旨は「アメリカはまず自国民の安全、繁栄、福祉を重視して確立することで国際的にも平和と安定に最大の寄与ができる」としていた。そしてことあるごとにトランプ氏の最大スローガンのMAGA(アメリカを再度に偉大に)を誇示していた。

私は同研究所が昨年3月にワシントンの陸軍海軍クラブで開いた国家安全保障シンポジウムに参加したことがある。トランプ陣営の対外政策にしぼっての発表や討論だった。その主題に「アメリカ第一、しかし単独ではない」とうたい、孤立主義ではないことをことさら強調していた。

午前8時から午後4時まで7つの連続セッションの集会は200人ほどの参加で満員となった。連邦議会の現職議員は上下両院合わせて共和党の6人が発表者となった。

討論の特徴はまず第一が当然ながら民主党バイデン政権の安保政策への批判だった。下院軍事委員会の現職のロニー・ジャクソン議員は「民主党多数の当委員会では軍人の性差別防止、人種多様性保持などが優先され、中国や北朝鮮の軍事脅威への対処がなかった」と発言した。

 トランプ大統領の国家安全保障補佐官だったフレッド・フライツ氏は「バイデン政権は国際協調ばかりを優先し、アメリカ自体の軍事戦略を進めない」と述べた。

 第二にはアメリカにとっての最大の脅威を中国だとする議論の高まりだった。上院の国土安全保障委員会のロン・ジョンソン議員は「アメリカを破壊しうる真の脅威は中国だけだ」と強調した。ミシシッピー州前知事のフィル・ブライアント氏は「中国資本のアメリカ国内での不動産取得は深刻な危険だ」と警告した。

 第三は、同盟諸国との連帯が意外なほど力説され、日本への高い評価が表明されたことだった。トランプ政権で国防次官を務めたロバート・ウィルキー氏は「日本も中国の脅威に備えて、本来の憲法の枠を越える行動を取るようになった」と述べた。ペンス前副大統領の安保担当首席補佐官だったキース・ケロッグ氏も「岸田首相の最近の言明はアメリカにも有益だ」と賞賛した。

 こうした表明はトランプ前大統領の軌跡、つまり第二次トランプ政権が保とうとする政策の潮流を示していた。

 ここで視線をアジアへと転じよう。トランプ支持層の研究所が明示する日米同盟の重視という基本に対して、ニューヨーク・タイムズはまたまたまったく逆の構図を示したのだ。つまりトランプ氏は日米同盟をも軽視して、その撤廃をも考えていた、という虚構の構図なのである。

 2023年8月18日、ワシントン郊外の大統領山荘キャンプ・デービッドで米日韓3国の首脳会談が開かれた。バイデン大統領、岸田文雄首相、尹錫悦大統領の3人が参加した。これら3国が安全保障面での戦略的連携を強めるための軍事面を含めての協力の強化措置が多数、合意された。北朝鮮と中国の軍事脅威への対応の諸措置が「キャンプ・デービッド原則」として発表された。

 ところがこの会議の成果や意味について報じたニューヨーク・タイムズの8月19日付の記事はこの3国合意がトランプ氏の大統領再選に備えての防護策なのだとして、以下の骨子を述べていた。

 「今回の3国合意は北朝鮮と中国の脅威を念頭において、達成されたが、実はもう一つ名前の明記されない要素があった。それはドナルド・トランプだった」

 「来年の大統領選挙でトランプ氏が当選して、大統領に戻る可能性を考えて、いまの時点でアメリカにとって重要な日本と韓国との同盟関係を強固にしておく必要があるのだ」

 「トランプ政権の4年間、日本と韓国はトランプ大統領が長年の安全保障の絆や経済の協力を削減や撤回しようとしたため、苦労した。トランプ大統領はその間、中国北朝鮮、ロシアの機嫌をとろうとしていた」

 「トランプ大統領は在任中、日本との安全保障条約を撤廃するとか、韓国の駐留米軍をすべて撤退させると脅していた。米日、米韓の同盟関係はいずれも大きく揺らいだ。だからバイデン政権下でこの3国新合意により米日韓の安全保障協力を揺るぎなくするのだ」

さて以上の「解説」でまずトランプ政権時代の日本との同盟関係が揺らいだというのは事実に反することがわかる。安倍晋三首相とトランプ大統領の親密な関係に基づく日米関係はきわめて強固だったのだ。ただし韓国は文在寅大統領が北朝鮮寄りの姿勢を保ったことにトランプ政権は反発して、確かに米韓両国間に距離が生まれた。しかし在韓米軍を全面撤退するなどという政策はトランプ政権は示唆さえしなかった。トランプ政権の国家防衛戦略には在韓米軍28500人を現水準のまま保つという政策の堅持が明記されていたのだ。

(その3につづく。その1。全5回)

 *この記事は雑誌の「月刊 正論」2024年4月号に載った古森義久氏の論文「トランプ氏に関する誤解・歪曲を正す」の一部を書き替えての転載です。

トップ写真:バイデン大統領、キャンプデービッドで韓国のユン・ソクヨル大統領、日本の岸田文雄首相日韓首相と首脳会談2023年 8月18日 メリーランド州キャンプデービッド 出典:Chip Somodevilla / GettyImages




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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