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.国際  投稿日:2024/7/3

米大統領選、民主党「進むも地獄、退くも地獄」


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#27

2024年7月1~7日

 

【まとめ】

・米大統領選討論会でバイデン氏は、候補者として大きな政治的ダメージを受けた。

・バイデン氏以外の候補が大統領選でトランプ氏に勝利できる可能性は極めて低い。

・民主党にとっては「進むも地獄、退くも地獄」。

 

 「今週は忙しくなりそうだ」と先週書いたが、文字通りそうなってしまった。米大統領選のTV討論会、イラン大統領選挙、フランス議会選挙が続いた上に、NHKの「キャッチ!世界のトップニュース」という番組に出演する機会も得た。そのためか、原稿の仕上がりが遅れてしまったことをまずはお詫び申し上げたい。

 

 さて、米大統領選のテレビ討論会だが、結果は「予想通り」というか、「だから言わんこっちゃない」というべきか、民主党関係者にとっては最悪の結末となった。6月27日の討論会でのバイデン候補のパフォーマンスは、要するに「老醜」、大統領選候補者として実に大きな政治的ダメージを受けたからである。

 

 早速ワシントンではバイデン候補の出馬辞退を求める声が出始めているが、それは如何なものかと思う。バイデンに代わる候補を出したいという気持ちはわからないではない。でも、今ここで民主党がバイデン氏に代わる新たな大統領候補をゼロから擁立するには、ちょっと時間が足りないのではないかね。

 

 他の能力はいざ知らず、トランプ氏の「個人攻撃」や「ネガティブキャンペーン」能力はピカ一である。民主党の代替候補が誰になっても、その人物の「身体検査」はこれから、しかも徹底的に始まるのだ。されば、バイデン氏以外の候補が11月の大統領選挙でトランプ氏に勝利できる可能性は極めて低いと思わざるをえない。

 

 要するに、民主党にとっては「進むも地獄、退くも地獄」である。それでは、これでトランプ氏が楽勝かといえば、それも違うだろう。バイデンが次期大統領として相応しくないことは、トランプが相応しいことを必ずしも意味しないからだ。共和党はもちろんだが、民主党政治の「劣化」も予想以上に深刻なようである。

 

 続いてはフランスの総選挙だが、これも仏政治の劣化を象徴する事態となった。報道によれば、国民議会(下院、定数577)選挙の第1回投票の暫定結果は、右派政党「国民連合」(RN)が共闘勢力を含め得票率33.1%で首位、左派連合が27.9%で二番手となり、マクロン大統領の中道与党連合は何と第3位の20.7%に止まった。

 

 マクロンの判断ミスとまでは言わない。だが、今のところは「肉を切らせて骨を切る」作戦が外れ、「骨肉とも切られてしまった」状態だ。7月7日の決選投票でRNの単独過半数を阻止すべく、左派系と中道系が包囲網構築を目指す動きも出始めたというが、昨日まで罵り合っていた連中が一致団結できるのかね?甚だ疑問である。

 

 次はイラン大統領選挙だが、予想通り、強硬保守派と改革派候補による決選投票になったようだ。但し、これには注釈が必要である。筆者はイランに真の意味での「改革派」がいるとは思っていないからだ。本当にイランを「改革」したいなら、イスラム共和制そのものを直す必要があるが、彼らはそこまでは考えていないだろう。

 

 決選投票は普通の保守派と強硬保守派の争いに過ぎない。しかも、「改革派」が勝利する可能性はあまり高くないだろう。立候補が認められた6人の候補者の中に「改革派」がいたことは、最高指導者が民衆の不満の「ガス抜き」効果を狙ったためで、決して「改革」を望んでいる訳ではないと思うからだ。

 

 ここでNHK「キャッチ!世界のトップニュース」について一言。地上波ながら平日朝10時05分という時間帯ではあるが、これは極めて良質な国際ニュース番組だ。筆者が出演した7月1日の特集は【対イスラエル政策に影響も アメリカのユダヤ社会】だったが、こんな微妙な内容を、よくぞ取り上げてくれたと感謝している。

 

 HPには「アメリカの人口の2%ほどを占めると言われているユダヤ系の人たち。政財界やメディアなど各界で著名人を輩出している。また、バイデン政権が国際社会から強い批判を受けながらもイスラエルを支援し続ける背景に、アメリカのユダヤ社会の影響があるとも指摘されている」とある。

 

 続いて、「専門家と共に、アメリカのユダヤ社会が対イスラエル政策に持つ影響力について分析する」とあったが、その専門家が筆者だった。なんと光栄で、有難いことか。これまでアメリカのユダヤ系社会については「陰謀論」的な言説が多かったが、これほど真正面から解説する番組はこれまでなかっただけに、とても嬉しかった。

 

 続いては、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。

7月2日 火曜日  独首相、ポーランド訪問

          ハイチ大統領・首相、ワシントンで米国務長官と会談

7月3日 水曜日  カザフスタンで上海協力機構首脳会議開催(2日間)

          欧州安全保障協力機構(OSCE)の議員会議が閉幕

7月4日 木曜日  中国国家主席、タジキスタン訪問(3日間)

          英国、総選挙

7月5日 金曜日  イラン、大統領選挙決選投票

7月7日 日曜日  フランス、総選挙・第二次投票

         パラグアイでメルコスール外相会議開催

7月8日 月曜日    インド首相、ロシア訪問(2日間)

 

 最後にいつもの定番のガザ・中東情勢だが、今週はあまり大きなニュースがない。ということは、イスラエルが目立たないように、しかし、極めて効果的に「戦闘」を続けているということだ。ガザ関係については来週詳しく書くことにする。

 

 今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:アメリカ大統領選討論会のため人影の少ないピアプラザのパトリック・モロイの店内。(2024年6月27日 カリフォルニア・エルモサビーチ)

出典:Jay L. Clendenin/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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