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.国際  投稿日:2022/12/26

統計に細工を施す中国共産党


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国は2022年11月の「固定資産」グラフを累積で示し、できるだけ数値を大きく見せており、中国経済が順調に伸びていると世界にアピールしている。

・今年11月の「全国不動産開発投資」も1月からの累計となっており、数字の落ち込みを小さく見せている。

・小細工を施すのは中国の隠蔽体質、面子を保つ、孫子の兵法という3つの仮説がある。

 

今、手元に、2022年11月の中国の「社会消費」<グラフ1>がある。(1月、2月以外)各月は単月で前年同月比が表されている。一般的には、このように、単月で示される方が普通である。

▲グラフ1:中国の「社会消費」 出典:国家統計局

一方、同11月の「固定資産投資」<グラフ2>は、各月は単月でなく、1月から11月までの累積(〔1-2月〕、〔1-3月〕、〔1-4月〕・・・〔1-11月〕)で表され、前年同月の累計比が示されている。

▲グラフ2:中国の「固定資産投資」 出典:国家統計局 

なぜ、中国共産党は後者のように、各月別ではなく累計比で統計を出すのだろうか。〔1-2月〕期に関しては、春節(旧正月)を挟むので、一緒にするのはわからなくもない。だが、どうして他の月でも累積で表すのか。

固定資産投資」には、実際の累積合計値があるので、これを単月ずつ表すと、<表付きグラフ3>となる。例えば、3月の場合、〔1-3月〕-〔1-2月〕で、単月の数値が求められる。同じように、4月の場合、〔1-4月〕-〔1-3月〕で単月の数値が得られる。11月の場合、〔1-11月〕-〔1-10月〕となるだろう。

▲表付きグラフ3:「固定資産投資」の実際の累積合計値を単月ずつに計算

<グラフ2>と<(表付き)グラフ3>を見比べると、(8月と9月を除き)多くの月で累計値の方が各月値よりも大きい。したがって、中国共産党は「固定資産投資」に関して、できるだけ数値を大きく見せようとしているのではないだろうか。

特に、中国の投資はGDPの根幹をなす1番重要な数字だからである(同国のGDPは常に消費よりも投資の方が大きい)。共産党としては、中国経済が順調に伸びていると世界にアピールしたいのではないか。もし、同国経済が低迷しているとわかれば、海外からの投資が減少するかもしれない。そのために、各月値ではなく、累計値を出して“下駄をはかせている”のだろう。

次に、今年11月の「全国不動産開発投資」<グラフ4>も「固定資産投資」と同様、単月の数値ではなく、1月からの累計となっている。これも単月の値を計算すると、<(表付き)グラフ5>が得られる。

▲グラフ4:中国の「全国不動産開発投資」 出典:国家統計局

そして、<グラフ4>と<(表付き)グラフ5>を見比べると、累計値が単月値よりも小さい。つまり、中国共産党はGDPのおよそ20%以上を占めるという「全国不動産開発投資」の落ち込みを、できるだけ小さく見せようとしているのは明らかではないだろうか。

▲表付きグラフ5:「全国不動産開発投資」の実際の累積合計値を単月ずつに計算

ところで、なぜ中国共産党は以上の如く、統計に小細工を施すのか。ここで、ごく簡単な考察を試みよう。

第1の仮説として、(社会主義、共産主義を含む)全体主義の宿痾である「隠蔽体質」を指摘したい。

確かに、世界中、どこの国の政府や公共機関も程度の差こそあれ「隠蔽体質」を持つだろう。けれども、自由なマスメディアがそれを暴く。ただ、全体主義国家は、しばしば自由なマスメディアを抑圧し、「隠蔽体質」の政権に堕する傾向がある。

現在の中国では、マスディアが共産党の「喉と舌」と成り下がり、北京政府のプロパガンダ機関となった。これでは、マスメディアによる政府の「隠蔽」暴露は難しいだろう。

第2の仮説として、「面子」の問題を取り上げたい。

中国人の民族性として、面子を重んじる点は強調しても、し過ぎることはないだろう。中国人は、場合によっては、死よりも面子を失う事を恐れる。特に、習近平政権は、非常に面子を重要視しているのではないだろうか。

仮に、今年の「固定資産投資額」が急落していれば、習主席の面子が“丸つぶれ”となる。したがって、面子を保つためにも、統計数字に細工を施す必要があるのではないか(同時に、既述の通り、外資導入も困難となる)。

第3の仮説として、「孫子の兵法」を挙げたい。

周知の通り、中国人は、敵を欺くために脅迫・賄賂・ハニートラップ等を行う。他方、敵に自らの事を知られないよう工夫する。そのため、国家の重要な統計さえも改竄したり、隠蔽したりする事があるだろう。今度の場合、改竄ではなく隠蔽だが、小細工してもすぐに真実は露見してしまう。

結局、中国は、以上、3仮説が入り混じっているのではないだろうか。

トップ写真:高層マンションが立ち並ぶ上海の様子(中国・上海、2008年03月21日) 出典:Photo by Tim Graham/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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