バイデン政権なら対キューバ政策転換へ
【まとめ】
・トランプ、バイデンどちらが勝っても中南米情勢への影響は大。
・対キューバ政策で相違大。バイデン勝利なら融和政策に回帰も。
・バイデン勝利なら、ベネズエラ・マドゥロ政権への制裁維持か。
11月3日の米大統領選で共和党のトランプ大統領、民主党候補のバイデン前副大統領のどちらが勝つにせよ、今後の中南米情勢への影響は大きいだろう。
◇トランプ政権“2期目”は中国対抗策強化へ
トランプ大統領が中南米への関心が薄いのに対し、バイデン候補は同地域を重視しているというのが一般的な見方である。しかし、トランプ政権が中南米を無視しているかと言えば、必ずしもそうとは言えない。
例えば、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)は今夏、中南米・カリブ海地域の経済発展や民主主義の確保などを盛り込んだ「西半球戦略的枠組み」を発表した。これは、同地域における中国の影響力増大に対抗するのが主要な目的の一つだ。「トランプ政権が2期目となれば、同枠組みに沿って中国の影響力拡大を阻止する政策を強化していくだろう」(米シンクタンク「インターアメリカン・ダイアログ=IAD」の専門家)との見方が有力である。
一方、バイデン氏はオバマ前政権下で副大統領として中南米外交を担った実績があり、「中南米通」を自負しているとの報道もある。ヒスパニックの読者が多い米紙「マイアミ・ヘラルド」は識者の意見を引用し、バイデン政権となれば同地域への米国の関与が大幅に増大し、多くの分野でトランプ政権とは真逆の中南米政策が打ち出される可能性が強いと予想する。
トランプ、バイデン両氏の相違が目立つのは対キューバ政策だ。周知の通り、トランプ大統領はオバマ前政権が大幅に緩和した対キューバ経済制裁を再び強化するなど、強硬方針に転じた。
前述のIADの専門家の間ではバイデン政権となれば、キューバ政策が転換されるのは確実でオバマ前政権時代のような融和方針に戻るとの意見が多い。メキシコの有力テレビのコメンテーターは「“バイデン大統領”によるキューバ政策の転換は歴史的なものになるかもしれない」と語っている。
◇“トランプ再選”でマドゥロ政権との妥協説も
ベネズエラ情勢をめぐってはトランプ大統領は反米左翼のマドゥロ政権打倒を主張し、さまざまな制裁を科してきた。トランプ再選の場合には強硬策が継続されると予想されるが、その一方、米国のネット系メディアの間では一転して妥協策が打ち出されるとの説も伝えられている。
▲写真 ベネズエラのマドゥロ大統領(2020年10月22日)
米有力ネットメディア「アクシオス」は、トランプ大統領がマドゥロ・ベネズエラ大統領とのトップ会談の可能性をほのめかした旨伝えた。「マイアミ・ヘラルド」紙によれば、カッツ元NSC中南米問題担当顧問は先ごろ、「トランプ氏は大統領選で再選後、フロリダ州が必要不可欠でなくなれば、国益より個人的利益を優先し、マドゥロ大統領とも友人になろうとするだろう」と述べたという。
ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)もトランプ政権に関する暴露本の中で、トランプ大統領がベネズエラへの強硬策を主張するのは、フロリダ州で票を獲得するためだけと述べている。2019年夏、両国の高官同士が秘密裏に接触したことからしても、トランプ政権がベネズエラ政府との間で何らかの歩み寄りを示すことは全く考えられないことではない。
他方、バイデン政権が誕生した場合のベネズエラ政策に関しては、マドゥロ政権への制裁措置は基本的に維持されるとの意見が米国では多いようだ。独裁的支配の下、人権侵害の国際的非難を浴びるマドゥロ政権に対しては共和党、民主党を問わず超党派で強い反発があるからだ。ただ、トランプ政権がオプションの一つとする軍事介入論は否定され、人道的見地からの経済支援が行われる可能性が強いという意見もある。
来年には、北米や中南米・カリブ海諸国の首脳が一堂に会する第9回「米州首脳会議」が米国で開催される。バイデン氏は自分が米大統領として出席し、米国と中南米諸国との関係を再建する絶好の機会にしたいと意気込んでいるという。バイデン氏が同首脳会議で新たな包括的な中南米戦略を打ち出すのではないかとの予測がメキシコやペルーのメディアの間では取り沙汰されている。(了)
▲写真 トランプ大統領(左)とバイデン前副大統領(右)
出典:The White House / Joe Biden facebook
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、