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.国際  投稿日:2023/12/26

アルゼンチン・ミレイ新大統領、現実路線に転換か ベネズエラ、メキシコ大統領選も注目【2024年を占う!】国際:中南米


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・12月に発足したアルゼンチンのミレイ新政権、急進路線を転換し、現実路線に転換か。

・ベネズエラでは2024年後半に大統領選実施の見込みだが、現政権が野党の立候補を禁止するなど選挙の行方は不透明。

・メキシコでは2024年6月大統領選が予定され、同国史上初の女性大統領誕生は確実。

 

■ ミレイ大統領、現実路線に転換か

2024年の中南米では年明け早々から、アルゼンチンのミレイ新大統領の動きに同地域各国が注目することになろう。12月10日に政権をスタートさせたミレイ大統領は中銀の廃止や経済のドル化に加え中国への露骨な非難など、過激な言動から「南米のトランプ」とも呼ばれるが、その主張通りの急進路線を突っ走るのかどうか。新政権の与党は議会で少数派であり、政策実現には、選挙協力で一致した中道右派政党と連携することが不可欠。連携がうまくいくかは不透明で、政権運営は難航が予想される。

公約の目玉である経済のドル化にしても、「現在のアルゼンチンの経済力では非現実的」(国際通貨基金=IMF=幹部)と否定的意見が多い。ブエノスアイレスのメディアの間ではミレイ大統領が現実的路線に転じる可能性を示唆する報道が相次ぐ。ミレイ氏が大統領就任式の演説で中銀廃止や経済のドル化政策について一切触れなかったことや、通貨ペソの大幅切り下げを柱とするカプト経済相の緊急経済対策にも盛り込まれなかったことがこうした報道が流れるゆえんだ。また、ミレイ大統領は選挙戦では中国との関係断絶に言及していたが、就任後は対中和解とも解釈されるメッセージを習近平国家主席に伝えており、外交面でも‟変身”の兆しがあるとの声も聞かれる。

■ 大統領選実施にはなお不安-ベネズエラ

もう一つ、中南米各国が強い関心を寄せているのが、ベネズエラの大統領選の行方だ。反米左翼のマドゥロ大統領が2024年に大統領選を実施するのかどうか、その場合、同大統領が再選されるか否かが注目点である。マドゥロ政権は国内で強権支配を強める一方、ノルウエーの仲介で野党勢力との交渉を断続的に行い、2024年後半に大統領選を実施することでひとまず合意した。

この合意には選挙監視団を受け入れることなどが含まれている。これを受けバイデン米政権はベネズエラに対する制裁の一部解除に踏み切った。

野党側はマリア・マチャド元国会議員を統一候補に選出しているが、マドゥロ政権は同候補が米国の経済制裁を支持したなどとして立候補禁止の方針を示す。バイデン政権はマドゥロ大統領に対し、野党の立候補禁止解除などを求めているが、まだ実現しておらず、大統領選実施に向けたプロセスが順調に進むかは分からない。

さらに大統領選の行方に影を投じているのが、ベネズエラと隣国ガイアナの領土紛争。ベネズエラは12月初め、ガイアナの国土の3分の2を占めるエセキボ地域の領有権が自国にあるかどうかを問う国民投票を実施し、9割の国民から支持があったと主張、両国間の対立が激化した。同地域では近年、油田の存在が相次いで確認されており、ベネズエラはここを自国領とすることで石油資源を確保する思惑があるとされる。また、マドゥロ政権が大統領選を控え国民の愛国心に訴え、政権への求心力を高めたい狙いもあるようだ。国民に不人気のマドゥロ大統領が大統領選で勝利できないと判断すれば、この領土紛争を口実に非常事態を宣言し、選挙中止という強硬手段に出ることも懸念される。

■ メキシコ史上初の女性大統領誕生へ 

中南米の大国メキシコにとって2024年は記念すべき歴史的な年になりそうだ。同国史上初の女性大統領の誕生が確実視されるからである。2024年6月2日に行われるメキシコ次期大統領選で与野党の女性候補同士の一騎打ちとなることはまず、間違いない情勢だ。

憲法の規定で大統領の再選が禁止されているためロペス・オブラドール現大統領は立候補できない。与党連合からは大統領の側近中の側近で前メキシコ市長のクラウディア・シェインバウム氏(61)が出馬する。これに対し野党連合は先住民出身のソチル・ガルベス上院議員(60)を擁立する。ロペス・オブラドール政権は2018年の発足以来、エネルギー分野を中心に国家の介入や最低賃金引き上げをはじめとする社会保障の拡充を図る左派色の強い政策を実施し、低所得層から高い支持を獲得してきた。シェインバウム氏は現政権のこうした政策を引き継ぐと表明している。

一方、ガルベス氏は上院議員として政治経験もあるが、先住民の貧困家庭で育ち苦学の末、ビジネスで成功を収めた実業家という別の顔もある。現政権の犯罪対策を厳しく批判、エネルギー部門の自由化や外国企業誘致に積極的姿勢を示す。現地の有力調査機関の世論調査によれば、10月末の時点でシェインバウム氏が支持率50%でガルベス氏の20%を大幅にリードし、11月末でも48%対24%とシェインバウム氏が断然優勢。選挙戦は2024年3月から本格化する見通しで、「ガルベス氏が徐々に追い上げる傾向が出ており、シェインバウム氏当選はまだ確実ではない」(メキシコ有力紙「エル・ウニベルサル」の政治アナリスト)との分析もある。

(了)

トップ写真:大統領就任式に臨むアルゼンチンのミレイ大統領(2023年12月10日アルゼンチン・ブエノスアイレス)出典:Marcos Brindicci/Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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