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.経済  投稿日:2024/2/5

雪を守れ!スキー場の電力100%を再エネ化


安倍宏行

【まとめ】

・北海道ニセコのスキー場などが使用電力の再エネ化に取り組んでいる。

・積雪発電で雪を溶かす実証実験も実施。

・世界に愛される日本の雪山を守る活動が全国に広がっていくことを期待。

 

そこは外国だった。

北海道ニセコのことである。うわさには聞いていた。しかし、聞きしに勝るとはこのこと。百聞は一見にしかず、である。

まず、新千歳空港からスキーバスで3時間半もかかるというのが想定外だった。どれだけ遠いんだ?

午前10時発のバスに乗り込むと、車内はほぼ外人。隣に座ったのはロスから来たアメリカ人のパトリック。聞けば米航空会社の経理部門で働いているという。若い。どう見ても20代だろう。先乗りしている友人と合流するのだそうだ。帰りのバスの隣人もやはりアメリカ人のテイラー。ITコンサルタント、25歳。彼はノースカロライナ州のシャーロットから来た。スノーボーダーで世界中の山で滑っているが、ニセコの雪は世界一だと褒めちぎっていた。JAPOW(Japan Powder:日本のパウダースノー)の面目躍如だ。東京経由で翌週はスイスに滑りに行くと言っていた。

写真)ニセコ東急グランヒラフスキー場 2024年1月17日 北海道倶知安町ⒸJapan In-depth編集部

そんなニセコスキー場に来ているスキーヤー、スノーボーダーを見ると、オーストラリア人やアメリカ人などが8割、台湾人や他のアジアの国の人が2割といったところか。日本人の自分にもカフェやレストランの日本人店員が英語で話しかけてくる。もはや海外リゾートに来た気分だ。いや、もはや外国。

さて、ニセコに何しに来たのかというと、滑りに来たわけではない。このスキー場の使用電力100%が再生可能エネルギー化されていると聞いたので興味を持ったのだ。しかも、雪で発電する技術も実験中と聞いたら、見に行くしかない。

写真)蝦夷富士(えぞふじ)の名を持つ「羊蹄山」がそびえる 2024年1月17日 北海道ニセコ町 ⒸJapan In-depth編集部

■ スキー場使用電力再エネ化の背景

 スキー場の電力再エネ化の背景にあるのは、ずばり地球温暖化だ。世界規模の気温上昇や、それに伴う降雪・積雪の減少と雪質の変化など、スキー場をはじめとするスキーリゾートは近年、深刻な状況に追い込まれている。

全国に7つのスキー場を保有する東急リゾーツ&ステイ株式会社は、2022年12月に全施設の使用電力を、東急不動産株式会社の再エネ発電所を活用することで、100%再エネへの切り替えを完了した。

これにより、CO₂の排出量を年間約8,000トン削減することができ、これは一般家庭約4,000世帯分のCO₂排出量に相当するという。

写真)ニセコ東急グランヒラフスキー場で、ゴンドラを動かす電力が再エネ100%であることを説明するボード 2024年1月8日 北海道倶知安町 東急不動産株式会社提供)

東急不動産はデベロッパーだが、再エネ事業に早くから参入していることで知られる。10年前の2014年から「ReENE(リエネ)」という事業ブランド名で再エネ事業を展開、太陽光発電所、風力発電所、バイオマス発電所など、2023年12月末時点で100事業、定格容量1,760MW(一般家庭約80,8万世帯分に相当)、CO₂削減量年間1,668,000トンという国内トップクラスの事業規模を誇る。

この東急不動産が運営する発電所から創出される再エネの「トラッキング付非化石証書」を、東急スノーリゾート7施設で活用することで、ゴンドラやリフト、レストランなどの使用電力を100%再エネ化しているのだ。トラッキング付非化石証書とは、再生可能エネルギーなどによる電力の環境価値を証書化した「非化石証書」に、どこで発電されたのかを示す情報を付与したものをいう。

図)スノーリゾートに再エネ電力を、トラッキング付非化石証書を使って供給する仕組み 出典)東急不動産株式会社

スノーリゾート100%再エネ化の他に東急リゾーツ&ステイは、「一般社団法人Proecto Our Winters JapanPOW」と2023年10月に気候変動対策に関するパートナーシップを締結し、雪山を守る活動を推進している。

また、積雪を利用した発電の社会実装実験を、株式会社フォルテ国立法人電気通信大学(榎木光治研究室)と共同で行っている。この「積雪発電」は温度差を利用して発電するスターリングエンジンを使う。今回高温熱源には、バイオマスボイラーを使った。東急不動産がバイオマスボイラーの熱を自社ゴルフ場大浴場の熱源として利用している事例から、今回、実験用に別のバイオマスボイラーを準備したものだ。

冷温熱源は雪だ。廃棄する熱エネルギーで融雪できることが今回実証された。雪国は除雪に莫大なコストをかけている。しかも除雪車などは化石燃料で動くためCO₂を排出する。積雪発電の高温熱源に再生可能エネルギーを使えばグリーンな電力を作る事ができるし、廃熱を融雪に使える。エコキュートや燃料電池などと組み合わせれば、お湯も電気も作る事ができ、分散化型電源としても期待できる。またシステムとして小さなプレハブ程度の大きさなので自然災害の被災地などでも活躍しそうだ。

写真)積雪発電を利用した融雪実証実験の様子。プレハブの屋根に登る電気通信大学の榎木光治准教授。手前側アルミシートの下には60℃に温めた不凍液が流れるチューブが這わせてあるので、雪は溶けて積もらない。 2024年1月18日 北海道倶知安町 ⒸJapan In-depth編集部

 

それ以外にも、スキーやスノーボードに使用されるワックスに含まれるフッ素化合物は、自然分解に時間がかかり環境への悪影響が懸念される。そこで、東急リゾーツ&ステイでは、2023年1月より東急スノーリゾート各施設の売店で新開発の「ノンフッ素ワックス」を販売している。地道な活動だが、自然を守る大切な一歩である事は間違いない。

出典)東急不動産

こうしてみてくると、雪山と環境を守る取り組みは実に多種多様だ。1デベロッパーである東急不動産が、グループ上げて多角的にサステナビリティに取り組む姿勢は、これからの開発事業のひとつの参考になるだろう。

今回は雪の保全がテーマだった。触れなかったが、生物多様性もリゾート開発の課題のひとつだ。日本の雪山は世界のスキーヤー・スノーボーダーにとって至宝だ。こうした包括的な取り組みが他のスキー場にも広がっていくことを期待したい。




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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