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.経済  投稿日:2023/2/28

ソーラーシェアリングの可能性を見た!


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

ソーラーシェアリング営農型太陽光発電)の実証実験が埼玉で実施、地域との共生を行う。

・畑作と稲作を行い、実験の結果を踏まえ作物の種類や設備などを見直す。

・再エネの導入量を増やす為にもソーラーシェアリングの拡大に期待。

 

ちょっと旅をすれば、山の中腹にあるメガソーラー(1,000kW以上の発電量を持つ太陽光発電所)が目につく。もう日本にはこれ以上太陽光発電所を作る場所はないのではないかとさえ思えてくる。

しかしまだ太陽光発電に使える場所があった。そう、農地だ。

農地の上部空間に太陽光発電設備を設置し、農業を営みながら太陽光発電を行えば、一石二鳥だ。そんな取り組みが今注目されている。太陽光のメリットを分けあうので、「ソーラーシェアリング」と呼ばれる。また、「営農型太陽光発電」ともいう。

農林水産省のホームページには、営農型太陽光発電について、「農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取組です。 作物の販売収入に加え、売電による継続的な収入や発電電力の自家利用等による農業経営の更なる改善が期待できます」とある。

その実証実験が行われているというので、埼玉県東松山市へ見に行った。

見学したのは「リエネソーラーファーム東松山太陽光発電所」。東急不動産株式会社がソーラーシェア事業実証パートナーのエクシオグループ株式会社と組み、去年12月から3年間、実証実験を行うものだ。

▲写真 リエネソーラーファーム東松山太陽光発電所 ⓒJapan In-depth編集部

敷地は2か所、畑作(人参、枝豆、ほうれん草、ブルーベリー)と水稲、それぞれを耕作する。発電した電気は小売り電気事業者を通じて、東急不動産の渋谷のビル8物件に供給する。

実証事業とともに、地域共生をテーマとして掲げており、その拠点として「TENOHA東松山」を設けた。BtoB向けに実証実験の説明やワークショップを開催、BtoC向けにはカフェで収穫された野菜や米を使った食事の提供やコワーキングスペースのおけるイベント開催などを計画している。

ソーラーファームに行ってみると、残念ながら季節的にまだ作物は見ることができなかったが、太陽光パネルを支える設備は、高さ2.7メートル~4メートル、支柱と支柱の間隔が3.5メートルとなっており、想像していたより地面に陽が差していた。作物の収量は、太陽光発電設備が無い場合に比べ約8割を目指しているという。

営農家の関根文男さんに話を聞いた。関根さんは耕作地面積ではこの地区2番目だという。その広さは約17ヘクタール(17万平方メートル=東京ドーム約4個分)。「可能性はあるね。(自分の耕作地で)増やしてもいいくらいだ」。関根さんはそう話す。畑作と稲作、どちらが向いているかを問うと、稲作だという。これも少々意外だった。日照が少しさえぎられても収穫にそう大きな影響はないということか。

▲写真 営農家の関根文男さん ⓒJapan In-depth編集部

それ以外の課題としては、支柱があるため大型農機のサイズによっては使えない場合があることや、太陽光設備が農地を覆っているため、ドローンでの作業ができない、などが挙げられる。

それらの課題も、設備については実証実験の結果を踏まえ、支柱と支柱の幅や高さなどは変更することもありうるし、ドローンを低空で屋根の下の空間を飛ばす可能性も今後検討するとのことだ。

▲写真 トラクターで畑を耕す関根さん ⓒJapan In-depth編集部

日本は2030年のエネルギーミックスで、再生可能エネルギーは22~24パーセントが目標となっている。昨今、風力にばかり注目が集まるが、洋上風力はまだ端緒についたばかりだ。ソーラーシェアリングは農地という未利用の土地を使うことができるのでポテンシャルは高い。

火力発電のシェアは下げねばならないし、原子力発電は思ったように稼働できない状況で、太陽光発電の拡大をソーラーシェアリングで図ることができるのなら検討すべきだろう。

資源がない日本は、カーボンニュートラルを達成しようとしたら全方位でやらねばならない。誰かがそう言ったが、全くその通りだと感じる。

ソーラーシェアリングが普及するかどうか、ある意味日本の覚悟が問われている。

(了)

トップ写真:リエネソーラーファーム東松山太陽光発電所 ⓒJapan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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