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.社会  投稿日:2024/2/28

ボストン・ウェルネス通信その5:世界中に広がる食品詐欺


大西睦子(米国ボストン在住内科医師)

【まとめ】

・食品偽装は見つからないように設計されているため、正確に見積もることは困難。

国連食糧農業機関、「アジアと太平洋諸国は、食品詐欺によるリスクにさらされている」と指摘。

・世界の総人口の半分以上が住むアジア大陸の食品管理システムの強化は、世界の保健衛生と貿易を考慮する上で重要。

 

風味と香りの豊かなオリーブオイルは、ヘルシーな油の代表です。私は日々の食生活に積極的に取り入れています。ところが昨年12月のニューヨークタイムズ(N Y T)に、「イタリアとスペインの法執行機関が『不適正なオリーブオイル』26万リットルを押収」「世界のオリーブオイルの大半を生産している欧州当局は、消費に適さない粗悪なオリーブオイルを販売したとして、11人を起訴」「スペイン民間警備隊とイタリア・カラビニエリが、イタリアのシチリア州とトスカーナ州を含む両国の数カ所を家宅捜索したところ、ランパンテオイル(オリーブオイルの最下級品)が入った樽が発見された」というニュースが報じられました(1)。

ランパンテオイルは、酸度が高く、不快な風味と臭いがするため、品質が最悪とされています。

■牛肉が馬肉だった!?

N Y Tは、「世界中の何百万人もの消費者が、粗悪なオリーブオイルを混ぜたり、ひまわりやキャノーラのような安価な油を混ぜたり、クロロフィルや βカロチンで着色したエキストラバージンオリーブオイルを定期的に購入している」と指摘します。これでは、私が使っているオリーブオイルが本物かどうか、知る由もありません。

実は、欧州では、牛肉と表示されるも安価な馬肉であったり、高価な香辛料のサフランが、安価な材料と混ぜ合わされた不純物のサフランであったこともありました。

そこでN Y Tによると、2013年以来、欧州当局は多くの法執行機関と合同で捜査し、より厳しい罰金を課すことで、多くの食品の不正表示を取り締まろうとしてきました。ただし、2022年の「食品の安全性に関する欧州委員会の報告書」では、長年にわたり、オリーブオイルは大陸で最も不正に表示される食品の1つです(3)。

さて、米国でも食品詐欺は深刻な問題です。米食品医薬品局(FDA)は2023 年 1 月 31 日、食品詐欺(経済的動機による不純物の混入=EMA)を警告しました(4)。

そもそも食品詐欺とは

FDAは、食品偽装を「食品の貴重な成分や部位を意図的に省いたり、取り除いたり、代用したりすること」、あるいは「食品に物質を加えて、より良いもの、より価値の高いものに見せかけること」と定義しています。つまり、食品偽装は、製品がラベルやメニューに記載されているものと異なる場合に起こります。

食品偽装は見つからないように設計されているため、その発生頻度や経済効果を正確に見積もることは困難です。専門家による外部の試算では、食品偽装は世界の食品産業の1%に影響し、そのコストは年間約100億~150億ドルとされていますが、最近の専門家の試算では、年間400億ドルというものもあります。

さらに食品詐欺は、経済的な問題だけではありません。添加物や代用品、あるいは欠落したものによって、健康への影響や重篤な問題、さらには死に至ることもあります。例えば、混入した香辛料による鉛中毒や、代用食材にたった1つでも隠された食物アレルゲンがあれば、アレルギー反応が起こります。

そしてFDAは、以下の5つの例を紹介します。

食品偽装の例

1)ハチミツとメイプルシロップ

ラベルに純粋な製品であることが記載されていても、一部の悪質な企業は、以前、蜂蜜やメープルシロップに、コーンシロップ、ライスシロップ、テンサイシロップ、サトウキビなどの安価な甘味料を混ぜました。製造コストは下がりましたが、消費者は純粋なハチミツやメープルシロップの製品価格を全額支払い、その分企業に利益が入ります。

オーストラリア・マッコーリー大学の研究者らの「scientific reports」への報告によると、オーストラリア(本土とタスマニア)およびアフリカ、アジア、ヨーロッパ、北アメリカ、オセアニアの18か国からの100種類の市販ハチミツを調査したところ、27%は真偽が疑わしかった(5)。

この論文によると、蜂蜜は世界の異物混入製品リストで 3 位にランクされています。調査の結果、検査したアジア産蜂蜜サンプルの 52% (21 サンプル中 11 サンプル) に異物が混入していることがわかりました。 そのうち 3つは中国 (3/7)、1つは韓国 (1/1)、1つはインド (1/2)、2つはインドネシア (2/2)、4つはイラン (4/4) でした。

検証された合計 21のうち、ヨーロッパからの 6 つの蜂蜜サンプルには砂糖が添加されていました。これらの蜂蜜はマケドニア (2/3)、ルーマニア (1/2)、セルビア (1/1)、ギリシャ (1/5) およびハンガリー (1/3) 産です。 オーストラリアの異物混入率は低く(合計 18.4%)、タスマニア産のサンプルの異物混入率は 22.2%(2/9)と比較して、オーストラリア本土の蜂蜜の異物混入率は 17.2%(5/29)でした。 検査したニュージーランド産マヌカハニーサンプル(2/2)は両方とも異物が混入していました。

食品偽装の例

2)オリーブオイル

ハチミツやメープルシロップと同様に、高価なエキストラ・バージン・オリーブオイルを安価な植物油で希釈し、純粋なオリーブオイルとして高価格で販売している企業もあります。

食品偽装の例

3)シーフード

シーフード詐欺は、高価なマダイ(Lutjanus campechanus)の代わりに安価なフエダイ(Lutjanus spp.)やロックフィッシュ(Sebastes spp.)を食品で販売するなど、安価な魚種を高価な魚種に置き換える場合によく起こります。また、冷凍魚介類に氷を加えて重くし、量り売りしている例もあります。

2018年3月から8月にかけて、海洋保護団体オセアナの研究者が全米で人気の魚のサンプル449個を検査したところ、「21%(5匹に1匹)に不正表示があった」ことが判明しました。これに加えて「訪問した店の3分の1が誤ったラベルの魚介類を販売」「レストランや小規模な市場では、大規模なチェーンの食料品店よりも、魚介類の偽装表示が多かった」「スズキとフエダイの誤表示率が最も高かった(それぞれ55%と42%)」「輸入された魚介類が地元の名産品として売られ、消費者を地元産の魚介類と勘違いさせている」「アトランティック・オヒョウのような絶滅危惧種は、より持続しうる漁獲物として販売している」ことが判明しました(6)。

魚詐欺は、消費者を騙して過剰な代金を支払わせるだけではなく、化学物質や汚染物質への暴露、食中毒などの有害な健康被害を引き起こす可能性があります。また、魚介類は米国で最も一般的な食物アレルギーの一つであり、魚介類を別の種類に変更することは、生命を脅かすアレルゲンのリスクをもたらす可能性もあります。

食品偽装の例

4)フルーツジュース

メーカーは、ジュースは薄めたり、より高価なジュース(ザクロやその他の「スーパー」フルーツなど)を安価なジュース(リンゴやブドウのジュースなど)で割ったりすることもあります。 ジュースによっては、ラベルに原材料として果物が記載されていても、水、染料、砂糖の香料だけが含まれている場合があります。

さらに、不衛生な環境で保存されたジュース、期限切れのジュースを新鮮なジュースと混ぜた場合、それを飲む人に害を及ぼす可能性があります。

食品偽装の例

5)スパイス

クローブやスターアニスなどのスパイスにはポリフェノールが多く含まれており、心臓病や2型糖尿病などの慢性疾患から体を守る働きがあると言われています。ただし、スパイスは粉末状であるため、茶色や赤色の粉が混ざっていると、本物と見分けがつかないことが欠点です。

高価なスパイス(サフランなど)に、スパイス以外の植物(茎など)を混ぜたものがスパイス詐欺の一種です。また、スパイスに染料を使用して特定の色をつけ、特にその色が品質の印象に強く影響する場合も不正の対象となります。チリパウダー、ターメリック、クミンなどのスパイスからは、癌などの健康被害を引き起こす可能性のある鉛含有染料やその他の工業用染料が検出されています。

それでは日本を含めて、アジアではどうでしょうか?

アジアと太平洋地域の食品詐欺

国連食糧農業機関(FAO)は、「アジアと太平洋諸国は、食品詐欺に関する正確なデータの不足で苦しんでいる、依然として食品詐欺によるリスクにさらされていると考えられている」と指摘します(7)。

欧州委員会はEU食品詐欺ネットワークを設立し、政府機関が事件の情報を共有するため、「食品および飼料の緊急警報システム(RASFF)」を新設しました。

そして、タイのマヒドン大学とオーストラリアのウェスタンシドニー大学の研究者らの、2023年の学術誌「Foods」によると(8)、RASFFポータル・データベースは、「詐欺と不純物混入」のカテゴリーで1166件の事例を報告しています。うち663件(56.9%)がアジア産食品によるもので、中国(200件)、インド(172件)、トルコ(117件)、イラン (37件)、日本 (28件)に発見されました。

食品のタイプ(件数)は、ナッツ、ナッツ製品、種子( 189件)、果物と野菜 (96件)、ハーブとスパイス (89件)、シリアルおよびベーカリー製品( 41件)、菓子(29件)、魚および魚製品(29件)、ダイエット食品、栄養補助食品、強化食品( 27件)・・・と続きます。

どうやら食品詐欺は、欧州、米国だけの問題ではなく、アジアにも広がっているようです。著者らは、「アジア大陸には世界の総人口の半分以上が住んでいます。アジア大陸の食品管理システムの強化は、世界の保健衛生と貿易を考慮する上で極めて重要」と指摘します。今後、日本でも、食品詐欺のデータ収集、学術雑誌の論文による分析検討、メディアの報道による議論などが深まることを期待します。

(1)https://www.nytimes.com/2023/12/04/world/europe/olive-oil-fraud-italy-spain.html?searchResultPosition=2

(2)https://food.ec.europa.eu/system/files/2020-05/ff_ffn_annual-report_2019.pdf

(3)https://food.ec.europa.eu/system/files/2023-10/acn_annual-report_2022.pdf

(4)https://www.fda.gov/food/compliance-enforcement-food/economically-motivated-adulteration-food-fraud

(5)https://www.nature.com/articles/s41598-018-32764-w

(6)https://usa.oceana.org/wp-content/uploads/sites/4/OCEANA_Seafood_Fraud_Report_Fact_Sheet_FIN_HiRes.pdf

Casting a Wider Net: More Action Needed to Stop Seafood Fraud in the United States

(7)https://www.fao.org/3/cb2863en/cb2863en.pdf

(8)https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10572764/

 

この記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会 Vol.24037 ボストン・ウェルネス通信その5:世界中に広がる食品詐欺 | MRIC by 医療ガバナンス学会の転載です。

トップ写真)オリーブオイル(イメージ:本文とは関係ありません)出典)Patrick Landmann / Getty Images




この記事を書いた人
大西睦子米国ボストン在住内科医師

内科医師、米国ボストン在住、医学博士。


東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年からボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年から2013年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度受賞。現在、医療ガバナンス研究所研究員。

大西睦子

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