「昆虫食」を食べてみた!
Japan In-depth編集部(横塚愛実)
【まとめ】
・昆虫食の世界市場規模が2030年までに2兆円を超すとの予測も。
・イナゴなど伝統的に日本でも食べられているが、嫌悪感を持つ人も。
・安全性含め丁寧な理解を社会に求めることが重要。
(編集部注:記事中に見た目がインパクトのある昆虫食の写真が含まれています。昆虫が苦手な方は写真の閲覧にご注意ください)
昨今メディアで大きく取り上げられ、「次世代の食糧」などともてはやされている昆虫食。皆さんも目にすることが増えたのではないか。
実は昆虫を食用している地域は多い。アジア、アフリカ、南米を中心に古来から食べられている食材だ。国連食糧農業機関(FAO)の発表によると、世界で約20億人が1,900種類を超える昆虫を食べているという。
世界の食用昆虫の市場規模は、2023 年に 23 億1,818万米ドル(1ドル=135円換算で約3130億円)になると推定され、年平均成長率33.89%で伸び続け、2030 年までに 179億320万米ドル(約2兆4169億円)に達すると予測されている。(360iResearch™調べ)
なぜこのような推計が出ているかというと、昆虫は高タンパクで環境負荷が少ないことから、持続可能な食を実現していく上で重要な食糧だとみられているからだろう。しかし、日本では批判的な意見も多く、社会に浸透していくのはそう簡単ではなさそうだ。
本記事では昆虫食のリアルとその課題点、実際に昆虫食を食べた体験記を紹介する。
■ 日本における昆虫食
日本でも稲作が行われている地域(長野県伊那谷など)では、昔からバッタの仲間であるイナゴを調理し、「イナゴの佃煮」などとして食べてきた歴史がある。
昆虫は、高脂肪、高タンパク、ビタミン、食物繊維、ミネラルなどを含み、栄養価が高い食材であるため、多くの地域で重宝されてきたわけだ。
昆虫食には「環境負荷が低い」というメリットがある。例えば、コオロギは重量換算で1㎏に必要な飼料は2㎏にすぎず、牛などの家畜と比べると数分の1ですむという。
東京大学大学院農学生命科学研究科の霜田政美教授は、昆虫食の中でも「アメリカミズアブ」というハエの一種に注目している。
成熟した幼虫を乾燥させると、タンパク質含有率は50〜60%、脂質は20〜30%だという。また、ミズアブの排泄物はそのまま植物の肥料にすることができ、植物の耐病性を高めることも分かってきている。
写真)ミズアブの成虫と幼虫
出典)Tomasz Klejdysz/GettyImages
生ゴミも食べるというこのミズアブは人類のタンパク源になるだけでなく、飼料や肥料にもなる究極の昆虫食だと霜田教授は評価する。しかし、ミズアブを大量に育てるシステムはまだ構築されておらず、今後の研究開発に期待がかかっている。
■ 社会の根強い抵抗感
この昆虫食、日本では批判の声が根強い。
2022年11月、徳島県立小松島西高校で全国初となるコオロギの粉末を使った給食が提供され、批判が殺到したという出来事があった。
給食ではコオロギパウダーを使用した「かぼちゃコロッケ」が出た。食物科の生徒達が考案したものだった。そして、生徒は食べるかどうか選択することができたという。持続可能な食に対して理解を深めようという試みだったが、それをネットニュースなどでみた人達が学校に批判の声を寄せたのだ。曰く、「昆虫食の安全性は担保されているのか」、「それを給食で出す必要はあったのかな」などなど・・・。
写真)左から順に「グリラスかぼちゃコロッケ」、「メニュー全体」、調理風景
昆虫食への批判はいろいろあるが、よく聞くのが「持続的な食生活について考えた時に、昆虫食よりも先にフードロス問題など他にできることがあるのではないか」というものだ。
今までの食生活から考えて、多くの人は「生理的に昆虫を食べるのが嫌だ」という感覚を持っているだろう。実際にある調査では、「避けたい食品」について聞いたところ、昆虫食を「絶対に避ける」または「できれば避ける」と回答した人は合わせて90%近くにのぼったという。
こうした数字を見ると、昆虫食を社会に浸透させていくためには、環境負荷のメリットや栄養価について広めていくだけでは不十分だと思われる。
いかに人々が抱いている昆虫への嫌悪感を減らすことができるか、また嫌悪感を抱かないような見た目の商品開発を行うことなどが課題になってくるだろう。
■ 昆虫食を実食!
こうしたなか、昆虫食を実際に食べられる店があると聞きつけ、編集部は東京・渋谷にある「米とサーカス」渋谷パルコ店」(東京都渋谷区)に行ってきた。
「米とサーカス」は「野生鳥獣と昆虫に注目し、先入観を捨てて美味しく楽しく多様な食文化に触れてもらうこと」をコンセプトにした飲食店で、亜細亜Tokyo World株式会社が運営しており、都内に複数店舗展開している。
店内はネオン調で、おしゃれなバーのような雰囲気だ。マムシやゴキブリを漬けた酒がカウンターに並び、クマの骨やダチョウの卵などが客を出迎えてくれる。
写真)「米とサーカス」渋谷パルコ店」店内の様子
ⓒJapan In-depth編集部
メニューには昆虫食の他にも、鹿や熊といったジビエ料理やウーパールーパーなどふつうの飲食店ではお目にかかれないような食材が並ぶ。
ドリンクメニューもユニーク。「タガメサイダー」や、コオロギ、ハチミツ、ハイビスカス、ジンジャーを合わせた「MUSHIサワー」などがある。サワーの上にはコオロギがトッピングされていて、カリカリとした触感だ。すっきりと飲みやすい。
コオロギ自体にあまり味や臭みがあるわけではなく、主に食感を楽しむことができた。見た目も慣れてしまえばそれほど嫌悪感はない。
最初はおそるおそる口に入れていた虫の苦手な友人も、「思っていたより平気かも」と安堵の表情を浮かべていた。
写真)MUSHIサワー
ⓒJapan In-depth編集部
「6種の昆虫食べ比べセット」ではいなごの佃煮、マゴット(食用イエバエの幼虫)の釜揚げ、蜂の子の甘露煮、タガメ、コオロギ、ジャイアントミルワームを食べ比べることができる。
「色々な種類を少しずつ食べられるので苦手なものがあっても少量で済む。最初はこれを試してみてほしい」と、スタッフの方もおすすめ。
コオロギは先ほどの「MUSHIサワー」の上に乗っていたものと同じなのか、この中でも比較的癖がなく、乾燥しているおかげで食べやすい。パリパリとした触感で匂いもほとんどしない。
甘露煮も甘じょっぱい味付けのおかげでお米と一緒に食べたくなるほど美味だった。
写真)6種の昆虫食べ比べセット
ⓒJapan In-depth編集部
この中で一番印象が強かったのは、はさみを使って自分で解体する「タガメの塩漬け」だ。写真下部の大きな黒い虫がタガメなのだが、さすがにこの見た目の虫を自分で解体するのには非常に勇気がいる。
スタッフの方に解体の仕方を教えてもらい中身を開けると、とたんにラフランスのような強烈な匂いがし、鮮やかな緑色が。
お世辞にも食欲をそそるとは言えない。塩漬けにされていたが風味が独特で、好みは別れるだろう。
次に運ばれてきたのは「オオグソクムシの姿揚げ」。見た目こそ強烈だが、海老のような食感と味で、非常に美味しかった。塩味が効いていて臭みは全くない。口に運ぶのには相当の勇気がいるかもしれないが、是非試してみてほしい一品だ。
写真)オオグソクムシの姿揚げ
ⓒJapan In-depth編集部
写真)「薄焼き虫ピッツァ」
ⓒJapan In-depth編集部
こちらはパリパリのピザ生地にプチプチとした食感のマゴットとミズアブが乗っている「薄焼き虫ピッツァ」。チーズの味で虫の風味はかき消されているが、虫を単体で食べてみると独特の食感と匂いがする。
総じて乾燥させたものや揚げたものは食感を楽しめて美味だったが、そのような処理を施されていない料理にはやはり独特の臭みが残っていた。
そのため、今後主流になっていくのは、パウダー状に加工したものや揚げ物が中心だろうと考察した。品種改良などが行われ、臭みが少なく食べやすい昆虫などが出回る可能性もある。
昆虫食と一口に言っても丸ごとそのまま食べるだけでなく、粉末状にしたり料理のアクセントとして使うなど様々な活用方法があることが分かった。
昆虫食を導入するためには安全性の担保や生産システムの構築など、未だ課題も多い。見た目のインパクトや珍味として話題を呼ぶだけでなく、日々の食卓に並ぶ「当たり前の食べ物」になるのにはまだまだ時間がかかるだろう。まずは飼料としての利用が現実的なのではないだろうか。
しかし実用化に向けた取り組みは着々と進んでおり、様々な企業が昆虫食の導入に力を入れている。高い栄養価を持ち環境負荷も少ない昆虫食が、私たちの未来を救うかもしれないのだ。
フードロス問題や食糧自給率問題などにも目を向けつつ、「持続可能な食」について考えるきっかけとしたい。
(編集部注:昆虫食を食べた感想は記者個人の感想です。なお、本記事は昆虫食を読者の皆様に強制する意図はないことを申し添えます)
トップ写真:「米とサーカス」渋谷パルコ店の外観ⓒエネフロ編集部