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.国際  投稿日:2024/10/1

カマラ・ハリス候補はカメレオン政治家か その1 支持率が急上昇


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・アメリカ大統領選が投票まで30日余りとなった。

・カマラ・ハリス氏が立候補したことでトランプ候補と接戦になっている。

・ハリス候補は法律家からバイデンの副大統領に就任した、初の女性・少数民族出身者である。

 

 アメリカ大統領選挙はいよいよ投票まで30余日に迫った。今回の大統領選挙は異様である。一方の候補者が本番の寸前で差し替えとなった。他方の候補者には2度も暗殺が仕掛けられた。この段階でこの異常な大統領選全体の状況を俯瞰し、さらに一方の候補に光をあててみよう。

 私はワシントンでの取材により、この異様な展開を目前に眺めてきた。その背景には1976年の大統領選挙以来、振り返れば、自分でも嫌になるほど長いアメリカ政治の変動の現地での考察体験が横たわっている。もちろん取材の長さだけで叡智が生まれるわけではないが、世界でも例のないほど開放的で闘争的で長期的なアメリカ大統領選の過去の変遷を知ることはマイナスではないだろう。

 さて、今回の大統領選の構図が一変したのは言うまでもなく、民主党の現職ジョセフ・バイデン大統領が立候補を取り下げたからである。バイデン氏は認知能力の衰えをどうにも隠しがたく、民主党内からの奔流のような突き上げで、選挙戦から撤退したのだ。アメリカ大統領選の長い歴史でも稀な展開だった。

 かわりに民主党候補となったのが副大統領のカマラ・ハリス氏である。ハリス候補の登場は民主党側を団結させた。私がワシントンでこの報告を書いている9月中旬という現時点でもハリス氏の支持率は共和党候補のドナルド・トランプ前大統領に追いついてきた。トランプ候補がバイデン候補につけてきた優位が縮まったのだ。11月5日の投票日までどんな戦いとなるのか。

 ここで注視されるのは当然ながらカマラ・ハリスという女性政治家の実像である。バイデン大統領から黒人女性という出自を優先されて副大統領に任じられたハリス候補はいまやアメリカの民主党びいきの主要メディアにも賞賛され、人気を高めてきた。

 だがハリス氏の政治家としての特色や政策の主張などは驚くほど知られていない。彼女は果たしてどんなアメリカを目指すのか。いまの激動の世界にどう対処するのか。アメリカに自国の安全保障を委ねるわが日本にとっても気になるどころの話ではない。

 ハリス候補が副大統領候補に選んだミネソタ州知事のティム・ウォルズ氏についても未知の部分があまりに多い。このハリス・ウォルズ組はどんな政策を目指すのか。

 ではまずハリス候補に光を当てよう。

 ジャマイカ出身の経済学者の父、インド出身の医学者の母はともにアメリカへの移民だった。アメリカの人口動態ではインド系はふつう黒人とはみなされないが、ジャマイカ出身者は本来はアフリカ系が多いということからハリス候補も黒人とみなされる。

 カリフォルニア州オークランド市生まれのハリス氏はいま59歳、黒人に人気のあるワシントンのハワード大学やカリフォルニア大学で法律を学び、法律家となった。2004年には生まれ故郷に近いサンフランシスコ市の地方検事となった。2011年からはカリフォルニア州の司法長官を務める。この地位は州当局の検事のトップとみなされる。

 ハリス氏はこの間、民主党支持の政治活動に加わり、2016年の選挙ではカリフォルニア州選出の連邦議会上院議員選に出て当選した。上院議員職は翌2017年1月から務め、19年には翌年に迫った大統領選挙にも名乗りをあげた。民主党の予備選で立候補したわけだが、バイデン氏ら他の候補に圧倒され、短期間で撤退した。

 ところがそのまた翌年の2020年、バイデン氏がトランプ前大統領を破って大統領に当選すると、ハリス氏を副大統領に任命したのだ。2021年1月に第49代副大統領に正式に就任したハリス氏はアメリカの歴史でも初めての女性、しかも少数民族出身の副大統領としてデビューした。

 ハリス氏は2014年に法律家・実業家のダグラス・エムホフ氏と結婚した。ユダヤ系のエムホフ氏は弁護士だがエンターテインメント関連の会社経営でも成功した富豪である。エムホフ氏の前妻との間の子供2人をハリス氏が育ててきたともいう。

(その2につづく)

*この記事は雑誌「月刊 正論」2024年10月号に掲載された古森義久氏の論文を一部、書き直して転載しました。




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