アメリカ新政権の中国政策はどうなるか その1 トランプ、ハリス両陣営の違いとは
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・ハリス副大統領とトランプ前大統領のどちらが次期大統領になるかで、アメリカの内政・外交が大きく変わる。
・日本にとって重要なのは両候補の対中政策であり、全世界が注目している。
・中国問題専門家ロバート・サター氏、ハリス政権とトランプ政権の対中政策について議論。
アメリカではいよいよ大統領選挙の投票が迫る。民主党のカマラ・ハリス副大統領と共和党のドナルド・トランプ前大統領と、いずれが2025年1月からのホワイトハウスの新たな主となるのか。どちらが政権を得るかでアメリカの内政、外交は大きく変わる。そのなかで日本側としてとくに気になるのは、それぞれの中国への政策がどうなるか、だろう。トランプ政権、ハリス政権どちらがどのように中国を扱うのか。その展望は全世界が注視しているともいえよう。
この重要課題についてワシントンの中国研究の重鎮、ロバート・サタ―氏と対話をしてみた。サタ―氏はこれまで40年ほど歴代アメリカ政権の国務省、国家情報会議、中央情報局(CIA)などで中国問題を担当してきた中国問題の超ベテランである。現在はジョージワシントン大学教授として中国問題や米中関係について教えている。
私は産経新聞中国総局長として北京に駐在した体験や東京、ワシントンの両方から中国ウォッチを続けた経験を基礎にサタ―氏には長年にわたり定期的に、何回も定点観測のようなつもりで米中関係について見解を問うてきた。今回も大統領選の投票まであと50日以下という9月中旬、サタ―氏とこの課題で話しあった。
古森義久:
「いまのアメリカにとって対外関係ではロシアのウクライナ侵略、イスラエルとハマスの衝突、北朝鮮の軍事挑発など重要課題は多々ありますが、やはり膨張を重ねる中国にどう対応するかが、最枢要な問題だと思います。とくに米中関係のあり方は日本への影響も重大です。新政権の対中政策がどうなるのか、中国との関係が深く、なおかつ紛争を抱える日本にとって同盟国、そして超大国のアメリカが中国をどう扱うかは国家安全保障の根幹にかかわる超重要の要因です。
いまのアメリカの対中姿勢は基本的に強固であり、中国の国際規範に反する対外活動、とくに国際秩序を軍事行動で変えようとするような動きに対しては民主、共和両党共通のコンセンサスといえる共同の態勢があると思います。しかしそれでもなお民主党の現バイデン政権と共和党のトランプ前政権での対中政策を比較すると、かなりの違いもありますね。
来年2025年の1月20日には新政権が誕生するわけですが、ハリス政権になった場合とトランプ政権の場合と、当然ながらやはり対中政策は相違があるでしょう。このあたりの見通しはどうですか」
ロバート・サタ―:
「まずハリス陣営の政策ですが、ハリス副大統領を大統領選候補に正式に指名した8月の民主党大会にあわせて採択された民主党の綱領では外交は全体9章の記述のなかで最後の章となっています。現在の民主党はまず内政に全力を投入し、外交はどうしても後回しという傾向の反映でしょう。そのうえにハリス副大統領は外交政策に直接にかかわってきた体験はほとんどありません。
だからハリス陣営の中国への取り組みは独自の充実した内容は期待できない。当面はやはりバイデン政権の対中政策の延長となるでしょう。ハリス政権は冒頭でのハンデはあっても、中国への対処は重視せざるをえません。いまのアメリカ全体に中国の負の影響は巨大であり、それに反発する構えはすでに7年近く前から超党派でできあがっている部分も大きいのです。
トランプ政権時代に形成された対中抑止政策の継続も含めて、バイデン政権になっての米側のインフラの整備と強化、半導体技術など科学技術の発展、とくにバイデン・ハリス政権による総額2兆ドルにも及ぶアメリカ国内のインフラ構築の法案の実現などが柱です。まずアメリカ側の総合国力を強化することが中国への有効な対処だというわけです」
古森:
「結局はハリス新政権の対中政策はバイデン政権の政策の延長になるという予測ですね。これはきわめて合理的な予測だと思います。ハリス氏自身の中国への認識とか政策、戦略というのは白紙です。どこかに彼女自身の思考というのは存在するのかもしれないけれど、表面でみる限り空白、空疎です。
この点はアメリカの政治システムの特異な構造の象徴ですね。外交のまったく未経験な指導者が突如、超大国の元首となり、国際情勢に取り組む、というわけです。もっともトランプ前大統領も2017年1月の就任時には同様だった。外交経験はなかったわけです。しかしまたたくまに有力なアドバイザーたちを得て、中国に対する強固な政策を打ち出していった。それまでの長年の対中関与政策は失敗だったと宣言した。
ハリス氏も同様の道をたどる、ということでしょうか。中国政策に関してもバイデン政権のスタッフはすでに健在なわけです」
(その2につづく)
*この記事は月刊誌HANADA2024年11月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。
トップ写真:ホワイトハウスで行われたイベントで発言する民主党大統領候補カマラ・ハリス副大統領(ワシントンDC 2024年9月26日)出典:Photo by Win McNamee/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。