無料会員募集中
.国際  投稿日:2021/12/30

チリ新政権の行方とブラジル大統領選が焦点「2022年を占う!」中南米政治


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・2021年は南米各国で左翼勢力が台頭、中米でも同様の傾向がみられた

・2022年3月にチリで発足する左派政権の動向が中南米各国の政治情勢に影響を与える可能性がある

・同年10月のブラジル大統領選の結果いかんでこの地域の政治潮流に大きな変化も

 

ホンジュラス大統領選でも左派当選

2021年を振り返ると、南米主要国で左翼勢力の伸長が目立った。

エクアドルでは2月の大統領選第1回投票で反米左派候補が1位となり、4月の決選投票で右派候補に敗北したものの、議会では左派陣営が優勢を占めた。

チリは5月に行われた制憲議会選で社会格差是正を求める左派陣営の躍進が目立ち、12月の大統領選で左派候補が大差で当選した。

隣国ペルーでは7月に社会主義的公約を掲げた急進左派のカスティジョ政権が発足した。

2022年に大統領選を控えるコロンビアは、経済格差やコロナウイルス対策などに抗議する大規模な反政府デモや全国規模のストで揺さぶられる中、左派勢力への支持が増している。

 南米だけではない。中米でも左翼勢力が勢いづく。

11月末のホンジュラス大統領選で左派野党連合の候補が当選、12年ぶりの政権交代が実現。

独裁傾向を強める反米左翼のベネズエラのマドゥロ政権は、野党勢力も参加した11月の統一地方選で大勝、米国の圧力にもかかわらず、むしろ権力基盤を強化している。

▲写真 反米左翼のベネズエラのマドゥーロ大統領(2021年1月)。11月の統一地方選で大勝し、権力基盤を強化している。 出典:Carolina Cabral/Getty Images

 チリ新政権の行方に注目

2022年はこうした左翼勢力の台頭が続くのか、それとも歯止めがかかるのかを見極める重要な年になりそうだ。

その意味で注目されるのはチリ大統領選結果がもたらす影響だ。

12月に実施されたチリ大統領選決選投票の結果、元学生運動リーダーで左派のガブリエル・ボリッチ下院議員が得票率55%で、右派のホセアントニオ・カスト元下院議員の44%を上回り、当選を果たした。事前の世論調査でボリッチ候補の優勢が伝えられていたとはいえ、10ポイント以上の大差がついたことは“サプライズ”と受け取る向きが多い。

同氏は新自由主義経済の修正や富裕層への増税、天然資源への国家関与増大などを公約にしており、来年3月に大統領に正式就任後、具体的にどのような政策を打ち出すかがチリの将来を左右する。

チリでは今、社会・経済格差是正を求める左派陣営が多数派を占める制憲議会で新しい憲法の草案づくりが行われている最中で、“ボリッチ大統領”登場によって左派が一層勢いづき、草案内容が急進的性格を強める可能性がある。

しかし、その一方、ボリッチ氏が公約の穏健化を余儀なくされるとの見方もある。

上下両院選挙の結果、同氏は少数与党政権を率いることになり、現政権の流れをくむ中道右派政党連合が両院で最大勢力として立ちふさがる状況が予想されるためである。チリ・カトリカ大のある政治学者は「新大統領は中道勢力の支持を必要とするため、公約内容を左から中道寄りに修正せざるを得なくなろう」と指摘、ボリッチ新政権がどのような方向に向かうのかは、中南米各国の政治動向にインパクトを与えると語る。

 コロンビア大統領選も左派優勢か

メキシコからアルゼンチンまでこの地域の左派ないし、中道左派政権はこぞって、チリ大統領選での左派勝利を歓迎し、連帯を表明した。

とりわけ、隣国ペルーの急進左派カスティジョ政権は右派勢力の攻勢によって苦境に立たされているだけに、チリ大統領選の結果を自らの政権立て直しへの“追い風”にしたいとの姿勢がありあり。

来年5月に大統領選を控えるコロンビア大統領選への影響も中南米ウォッチャーの間では取り沙汰されている。同大統領選をめぐっては左派の政治家、グスタボ・ぺトロ氏が有力視されている。

▲写真 コロンビア大統領選で有力視されている元左翼ゲリラ組織幹部のグスタボ・ぺトロ氏。 出典:Gabriel Aponte/Getty Images via 2018 Americas Initiative Presidental Debate

ペトロ氏はかつての左翼ゲリラ組織「M-19」幹部で、同組織が1990年に武装解除し、合法政党に転向したのを機に政界に進出、上院議員やボゴタ市長を務めた。前回2018年の大統領選の第1回投票で2位につけ決選投票に進出したものの、右派の現ドゥケ大統領に敗れている。

コロンビアの有力新聞「エル・エスペクタドル」は「チリ大統領選結果を受け、変革を求めるコロンビアの若者や左派勢力が結集すればぺトロ氏当選の可能性がある」との現地政治アナリストの見方を紹介している。

▲写真 ブラジル大統領選で優勢が伝えられる左派・ルラ元大統領(2021年12月10日) 出典:Marcos Brindicci/Getty Images

さらに来年10月には中南米の大国ブラジルで大統領選が実施される。現地の支持率世論調査によれば、左派のルラ元大統領が、再選を狙うボルソナロ現大統領を大きく引き離しトップを走る。

チリ大統領選で一層強まった感がある左派勢力の台頭が来年も続くのか否か、この地域での影響力が大きいブラジル大統領選がカギとなりそうだ。

トップ写真:チリ大統領選に勝利後、支持者に語りかけるガブリエル・ボリッチ氏(2021年12月19日 チリ・サンティアゴ) 出典:Marcelo Hernandez/Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."