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.社会  投稿日:2025/4/19

外国人が地域に根付くために 日本語教室の果たす役割とは:埼玉県川口市


Japan In-depth編集局(浜島和希、楊文果、成沢緑恋)

【まとめ】

・ 川口市は全国でも有数の外国人住民が多い自治体で、多文化共生の実現を目指している。

・ ボランティアによる日本語教室は、言語学習の場であると同時に、外国人・高齢者双方にとっての大切な「居場所」となっている。

・多様な人々がゆるやかにつながるこの取り組みは、外国人の地域定着と孤独対策の両立という、現代社会の課題解決にも貢献するモデルケースである。

  

人口約60万7000人のうち、8%近い約4万8000人が外国人である埼玉県川口市。東京都新宿区、江戸川区を除き、全国の市町村で最も外国人の多い自治体として知れ渡っている。川口市は、「日本人住民と外国人住民の多様性を活かした元気な川口のまちづくり」を基本理念に掲げて、多文化共生社会を目指している。取り組みの一つに、日本語教室があり、かわぐち市民パートナーステーションや公民館で合計21個もの日本語教室が開校されている。今回はそんな中で一番人気な教室というNPO法人川口国際交流クラブ「国際交流コーナーを訪問した。

部屋に入るとまず、教室の活気に驚かされた。十数名程度の教室を予想していたが、取材日は生徒18名、ボランティア20名の合計38名の方が参加していた。想像以上の大所帯であり、日本語教材を勉強している声だけではなく、日本文化であるひな祭りについて話し合っていたり、算数の問題を解いたりしていた。

代表である伊藤喜勝さんは教室の意義として「外国人、日本人両方の居場所」を挙げた。ボランティアとして日本語を教える方の多くは定年退職後など第二の人生の一環として日本語教室に参加している。利用者である外国人も、夫の都合で来日した主婦など職場や学校といったコミュニティを持たず、孤立しやすい状況にある人もいた。

写真)NPO法人川口国際交流クラブ理事長 伊藤喜勝氏

©Japan In-depth編集部 

 

川口国際交流クラブが結成されたのは約20年前で、当時は川口市に住む外国人の数も少なかったのでコミュニティそのものが存在しなかった。またインターネットもなかったため、外国人は孤立しがちだった。伊藤氏は、川口市が行う外国人お悩み相談室の通訳からスタートし、次第に相談に来る外国人の数が多くなってきたので日本語教室を開講した経緯がある。

 

現代は、単身世帯の増加やインターネットの普及などによって、地域や会社などにおける人とのつながりが希薄になり、誰もが孤独や孤立状態に陥りやすい状態にある。孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年)によると、孤独感が「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」人が 39.3%と約4割の人が孤独を感じていることが明らかになっている

 

特に、日本人高齢者の場合、誰にも看取られることなく息を引き取り、その後相当期間放置されてしまう「孤独死」が社会問題化している。日本福祉大学斎藤雅茂教授によると、「日本では年間1.9~2.0万人程度の高齢者が孤立状態にあることで早期死亡に至っている可能性があり、人付き合いの乏しさは喫煙と同程度の健康リスク」であり、孤独・孤立対策が重要視されている。高齢者がボランティアなどに従事する意味がそこにある。

 

在留の外国人も孤独・孤立が問題になっている。法務局「令和5年在留外国人に対する基礎調査」によると、孤独を感じる時が「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」と答えた人が56.4%と、日本人よりも孤独を感じやすいという環境にあることがわかる。

 

伊藤代表が日本語教室に参加したきっかけも寂しさを紛らわす為だったという。会社を退職し、自宅で仕事していたが外出するきっかけがなく、ふさぎ込んでいたところに川口国際交流クラブに出合い、日本語を教えはじめた。

 

伊藤代表が教室運営で重視していることは、ボランティアの自主性に任せるということだ。「我々団塊の世代の人間はマニュアル人間の世代ではないので学習内容や教材の指定は行っていない。日本語教室にも来たい時に来ればよいし、欠席の場合も事前連絡は不要。日本語教室に加え、福祉団体のような側面も持っている。皆でいたわりあって運営をしていきたい」。厳しいルールを設けることなく、自主性にゆだねることが教室の人気に繋がっているのだろう。

 

教室運営の課題は高齢化だという。法人であるため理事を設置しているが、理事のメンバーは20年間変化がなく、全員が60代以上だそうだ。ボランティアの新規入会は年に2名ほどあり、人手不足ではないが、仕事を退職した方や子育てが終わった比較的年齢の高い方の加入がほとんどであり、団体の引継ぎが出来るような若い人の加入を心待ちにしている。

 

川口市からの公的支援の申し出があるそうだが、受け取っていない。ボランティアの方から年3000円の会費を集めているため、教室運営は問題なく行うことが出来ている。教室維持に追加でお金が必要になれば会費を上げることで対応する方針だ。教室利用者の中国籍で4月から高校に進学する女性も「自分で出来ることは自分でやっていきたいので、支援を必要としている部分は少ないかもしてない」と教えてくれた。

写真)日本語教室を利用する 一昨年に来日した16歳の中国人学生

©Japan In-depth編集部

 

今回の日本語教室に参加している在留外国人の方は、ボランティアの方の協力を得ながら、日本語を学び、日本に順応しようと努力をしていた。日本では在留外国人の増加に伴い、日本社会全体が多文化共生へ向けた歩み寄りを求められている。

インターネット上では一部で外国人への偏見や誤解に基づく言説も見受けられるが、実際には多くの外国人が日本の一員として地域に根ざそうとしている。彼らは、日本社会の一端を担い、労働力不足や地域活性化にも貢献している存在である。今こそ私たち日本人が、偏見を乗り越え、お互いの文化や背景を理解しようとする姿勢が求められている。地域社会の一員として外国人住民と関わりを持つことが、多文化共生の実現、そして孤独・孤立といった社会課題の解決に繋がっていくはずだ。

写真)川口市で開かれる複数の日本語教室

©Japan In-depth編集部 




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