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.社会  投稿日:2025/5/14

川口市の外国人児童生徒支援はモデルケースとなるか?-充実した支援策と日本語指導教員不足の課題-


Japan In-depth編集部(成沢緑恋)

【まとめ】

外国人児童生徒の増加に対応し、川口市では独自の日本語教育支援策を展開している。

・現在の最大の課題は、日本語指導教員の人材確保である。

・経済的な就学援助については、国籍を問わず、各家庭の経済状況に基づき平等な支援を行う方針だ。

 

 昨今、「移民の街」というイメージが定着しつつある埼玉県川口市。市教育委員会によると、市内の公立小・中学校には約3100人の外国人児童生徒が在籍しており、その数は年間100〜200人ペースで増加している。こうした状況の中で、市はどのように外国人児童生徒への日本語教育や生活支援を行っているのだろうか。市教育局学校教育部指導課長の池田光伸氏、市民生活部協働推進課長の堀江宏氏、子育て相談課長の駒木宏泰氏に話を聞いた。

 

◼︎ 川口市の日本語教育支援の現状

市内の公立小・中学校に在籍する外国人児童生徒のうち、日本語指導が必要な児童生徒数は約1500人であり、およそ半数にのぼる。これに対し、川口市では、文部科学省の補助事業「帰国・外国人児童生徒等教育の推進支援事業」の活用を行っていないその理由について池田光伸氏は、市が単独事業として実施している「定住外国人子弟に対する就学支援策」に対する特別交付税の措置のほうが、より手厚くなっているためだと説明した。この措置や自主財源により、市は以下の三つの支援策を実施している。

 第一に、日本語の初期指導教室の実施。市の教育研究所で、20日間80時間の日本語初期指導教室を実施している。この施設では、児童生徒支援、教育相談、教職員研修なども行われており、教育現場全体のスキルアップを図っている。

 第二に、日本語指導をサポートする支援員の派遣。県による日本語指導教員が配置されていない学校には、市が独自に日本語指導支援員を派遣し、外国人児童生徒への日本語指導をサポートしている。

 第三に、日本語初期指導の拠点校の設置。外国人児童生徒の多い地域に日本語初期指導の拠点校を設けたり、外国人児童生徒支援員を配置したりすることで支援の充実を図っている。これにより、地域ごとのニーズに応じた柔軟な対応が可能となっている。

 これらの取り組みにより、日本語教育の支援体制は整いつつあるが、一方で深刻な課題も浮かび上がっている。

 

◼︎ 日本語指導教員の不足という根本的課題

 日本語の指導にあたる教職員の確保が現在の最大の課題だ。そのため、「市では臨時免許状の発行を県に依頼し、フルタイム勤務でなくとも日本語指導ができる環境の整備を進めている」と、池田光伸氏は語る。また、外国語の通訳が可能な人材を支援員として学校に配置し、外国人児童生徒の生活面や、その保護者への対応をサポートさせることで、教員の負担軽減にも努めている。

 

 さらに、市は「ペーパーティーチャー相談会」を開催し、教員免許を持っているものの長らく指導に携わっていない人や、語学学校等で日本語の指導経験がある人など、新たな人材の掘り起こしにも注力している。 

 

◼︎ 日本人児童生徒の学習進度への影響は?

 日本語を十分に理解できない外国人児童生徒が増えることで、日本人児童生徒の学習進度に影響が出るのではないかという懸念もある。この点について池田光伸氏は、「各教科の授業は、日本語の読み書きができることを前提とした年間指導計画に基づいて実施し、進行管理しているので、大きく遅れる可能性は低い。さらに、学習を適切に進めるために、日本語の習得状況に応じて意図的にグループを組んだり、学習補助のための支援員を活用したりする等の対応策を講じている」と説明する。ただし、「今後さらに日本語指導のシステムを強化し、日本語指導教員を確保することが、より重要になる」と強調した。

 

◼︎ 教育現場を超えた多文化共生の取り組み 

 

 川口市では、単なる日本語指導にとどまらず、多文化共生や日常生活における外国人児童生徒支援にも力を入れている。市民生活部協働推進課の堀江宏氏によると、市では、「国際理解講座」を学校で開催し、多文化共生への理解を深める取り組みを行っている。講師には市職員や国際交流員を迎え、子どもたちが多様性に触れる機会を創出している。

 

 また、川口市のヤングケアラーの実態調査では、ヤングケアラーのうちの12.1%が「言語のケア」を行っていると回答。これは他自治体と比べても高い割合であり、特に多言語環境にある家庭に特有の課題だ。この課題に対し、市はタブレット型の通訳支援や翻訳機「ポケトーク」を活用し、ヤングケアラーコーディネーターが児童生徒をサポートする仕組みを整えていると、子ども部子育て相談課長の駒木宏泰氏は語る。

写真)川口市子ども部子育て相談課長駒木宏泰氏

©Japan In-depth編集部

 

◼︎ 経済的支援は「国籍に関わらず平等に」

 児童生徒の家庭に対する支援は、教育面だけでなく経済面にも及ぶ。各市町村では、学校教育法第19条に基づき、経済的な理由によって就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対し、就学援助を実施している。就学援助の支給項目は、学用品費、校外活動費や修学旅行費などであり、支給対象は、生活保護法に規定する要保護者及び市町村教育委員会が要保護者に準ずる程度に困窮していると認める者である。

 

現在の外国人児童生徒の増加状況を鑑みて、外国人児童生徒の家庭に対する就学援助を拡充する可能性があるかについて尋ねると、池田光伸氏は「外国人児童生徒に限定して制度を拡充する予定はない」と回答した。続けて、「就学援助の趣旨に則り、現に就学が困難な児童生徒及び就学予定者の保護者に対しては、国籍を問わず、各家庭の経済状況に基づき、平等な支援を行うべきである」と市の見解を示した。

 

 

 川口市は、日本語教育を中心に、多文化共生と経済支援を包括的に進める先進的な自治体だ。外国人児童生徒に対する支援は全国的に見ても充実している。しかし、現行の支援を持続可能なものとするためには、日本語指導教員の不足という課題を解決しなくてはならない。今後、川口市の取り組みが全国の外国人児童生徒支援策のモデルケースとなるのか、その動向に注目したい。

 

トップ写真:川口市教育委員会学校教育部指導課長池田光伸氏©Japan In-depth編集部




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