どうなる渋谷再開発ー東急の描く未来ー

まとめ
・東急は渋谷の再開発について、2034年の完了を目指す
・渋谷駅の利便性向上や、文化の発信地としての力に期待
・駅利用者は引き続き不便を強いられる模様
2025年6月3日、東急株式会社(以下、東急)は渋谷スクランブルスクエア東棟内のスクランブルホールにおいて、「東急の渋谷まちづくり最新情報発表会」を開催した。
開発計画について説明する東急株式会社執行役員 都市開発本部 渋谷開発事業部長 坂井洋一郎氏(編集部撮影)
今回主に説明がなされたのは、東急百貨店本店跡地の再開発事業である「Shibuya Upper West Project」、渋谷駅東口の宮益坂付近の再開発事業である「宮益坂地区第一種市街地再生開発事業」そしてスクランブルスクエアの中央棟・西棟の建設を中心とする「渋谷駅街区計画」の3点だ。
「Shibuya Upper West Project」は渋谷と日本有数の高級住宅地である松濤の中間地点に位置し、住居・ホテル・ミュージアム・リテールを含む33階建てのビルで、劇場や映画、コンサートホール等を有するBunkamuraと接続する。「Tokyo’s Urban Retreat」をメインコンセプトとしており、「渋谷の建造から離れ、自らのエネルギーが落ち着きを取り戻し、創造的な発見ができる都心のオアシスとして、身体的、精神的、知的にも満たされ、包括的なウェルビーイングを体験できる空間」を目指す。
デザインアーキテクトを担当するのは国際デザイン事務所で「オスロ・オペラハウス」や、エジプトの「新アレクサンドリア図書館」の設計を手がけるSnøhettaで、場所そのものが新たな文化の発信地となっていくだろう。竣工は2029年度を予定している。
Shibuya Upper West Project 外観イメージ(Image by Mir, Copyright Snøhetta and NIKKEN SEKKEI LTD 提供 東急株式会社)
「宮益坂地区第一種市街地再生開発事業」は、渋谷駅の東側に渋谷駅の東側に隣接し、宮益坂、明治通りの交差点に面する一帯を対象としたプロジェクトだ。商業施設に留まらずホテルやオフィス等を完備したビルの建設や、地域住民の心の拠り所となってきた御嶽神社の建て替えを中心に据えている。「誰もがめぐり歩いて楽しい街」の実現、そして「世界をリードする国際ビジネス交流都市」の発展へ寄与、の2点を目標に掲げ、2031年の竣工を目指す。
宮益坂地区第一種市街地再開発事業 外観イメージパース(渋谷駅方面より本地区を望む)左:本事業A街区 中央:本事業B街区(宮益坂地区市街地再開発組合)
宮益坂地区第一種市街地再開発事業 整備するアーバン・コアと地下広場および上空通路のイメージパース(宮益坂地区市街地再開発組合)
宮益坂地区第一種市街地再開発事業 御嶽神社の建て替え、再整備を行うC街区(右)と大山街道のイメージパース(宮益坂地区市街地再開発組合)
「渋谷駅街区計画」は2010年頃から策定・計画が行われ、現在はスクランブルスクエアの西棟・中央棟の建設を中心に、自由通路やコンコース、改札等の駅機能の整備や広場の形成を進めている。概成後は銀座線渋谷駅の直上に位置する「4 階東口スカイウェイ(仮称)」や、渋谷スクランブルスクエア西棟の西側に整備され、JRと銀座線、そして渋谷中央街・桜ヶ丘方面をつなぐ 「西口 3 階上空施設(仮称)」、ハチ公前やJR南改札前の東西自由通路によって、渋谷駅の東西南北を自由に移動できるようになる。
スクランブルスクエアは2031年を予定する西棟・中央棟の完成後、東棟と合わせて1フロアあたりの売場面積が最大約 6,000 m²となる首都圏最大級の商業施設となる計画だ。スクランブルスクエア内に2箇所整備予定のパビリオンは、世界的な知名度を持つSAANAと隈研吾建築都市設計事務所がそれぞれ手がける。渋谷の新たなランドマーク、交通インフラ、そして文化の発信地点を有する大規模な計画だ。広場の整備等を含めた全体完成は2034年度を予定している。
渋谷スクランブルスクエア 宮益坂交差点方面からの視点(ネットワーク図)(渋谷駅街区共同ビル事業者)
渋谷スクランブルスクエア スクランブル交差点方面からの視点(ネットワーク図)(渋谷駅街区共同ビル事業者)
渋谷の再開発の現状、そして未来を概観したが、問題も残る。東急は2002年に東横線の地下化が決定して以降渋谷駅周辺の再開発を実施してきた一方で、工事の度に改札の移動や通路の制限といった負担を利用者にかけてきた。当初の計画では2027年に竣工予定だったスクランブルスクエアの中央棟・西棟の完成予定が2031年になる等、工期の遅れも目立つ。
駅利用者に不便を強いていることに対して、東急の担当者は「非常にご不便をおかけしているということは皆様にお詫び申し上げたい」と述べた上で、「どういった風に利便性を改善していくかというところは、継続して検討させていただいている」と熱意を見せたが、改善についての直接的な言及は避けた。
渋谷駅はJR東日本の統計によると、1日に30万人以上が乗車する全国でも有数の規模を誇る駅だ。内、定期券の利用者は半分ほど。観光客の誘致や文化の発信は非常に重要だが、日々の利用者に目を向けた取り組みも今後注力していく必要があるだろう。