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.国際  投稿日:2023/10/30

米中関係はどうなるのか~トシ・ヨシハラ氏と語る その1 中国の日本への悪意の真の理由


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・中国による福島第一の処理水に対する非難は常軌を逸している。

・中国のこの日本攻撃は日本へのすばらしい『贈り物』(ギフト)。

・中国の処理水非難は日本側の思考の変化をさらに推進する効果がある。

 

 私もアメリカの対中国政策をワシントンや北京でもう20年以上、かなり詳しく追ってきましたが、これほど中国が熱い論題になるのを目撃するのは初めてだ。米側の中国研究もきわめて幅が広く奥が深くなった。アメリカでも日本でも中国が炎上している。中国にどう対処するかが国政、社会、学界、メディアでの熱い議論を生んでいるのだ。そのうねりのなかでも超大国アメリカが中国をどうみるかは最大の焦点だといえよう。こうした視点からアメリカの学界でも中国研究では有数の権威のトシ・ヨシハラ氏と産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が意見交換の形で中国を論じた。

 日系米人ながらも台湾で育ち、中国語をマスターしたヨシハラ氏は中国側の広範な文書を読破する独特の研究手法でも知られる。米海軍大学の教授と同大学付属の中国海洋研究所の主任研究員を長年、務め、現在はワシントンの大手研究機関「戦略予算評価センター(CSBA)」の上級研究員として活躍する。中国関連の著書も多く、日本では「中国海軍vs海上自衛隊」がすでに刊行され、今年秋にはさらに「毛沢東の兵、兵、海へ行く」が出版される。

古森氏は産経新聞の初代中国総局長として北京に駐在して中国報道の経験を重ね、ワシントンでも長年、米中関係を報じてきた。著書は「日中再考」、「米中対決の真実」など多数ある。(編集部)

   

 古森義久 「ワシントンでの多様な議論ではやはり中国が主題ですね。中国をアメリカにとっての最大の危険な脅威、あるいは競合相手とみて、その抑止に備える、というのは国政の場ではもうコンセンサスに近い。熱のこもった議論の課題ならば、国内問題ではやはりドナルド・トランプ前大統領の動向でしょう。しかし対外政策ではまず中国ですね。

 私もアメリカの対中国政策をワシントンや北京でもう20年以上、かなり詳しく追ってきましたが、これほど中国が熱い論題になるのを目撃するのは初めてです。米側の中国研究もきわめて幅が広く奥が深くなりました。そのなかでヨシハラさんはアメリカ海軍大学の教授や同大学付属の中国海洋研究所の主任研究員を長年、務め、いまはワシントンの大手シンクタンクに籍をおいて中国の軍事や政治、外交にまで研究対象を広げています。

 ヨシハラさんの研究者としての特徴は日系アメリカ人ながら台湾で育つという経歴のために中国語をマスターしている。その結果、中国側の政策論文や政府文書をも広範に読みこなし、習近平政権の意図や戦略についても踏み込んだ調査や研究をしている。そんな基盤からいまの中国の動向をどうみるかに強い関心を感じます。

 まず中国に関して日本にとっていま当面の最大課題となった福島の第一原子力発電所の処理水の海洋放出に対する中国側の糾弾を語らせてください。中国の日本非難は常軌を逸しています。この処理水は周知のように国際原子力機関(IAEA)からも汚染や害はないと証明されました。アメリカ側も当然、日本の措置の正当性を認めています。ところが中国だけはこの処理水を汚染水と断じて、日本からの水産物の全面禁輸という措置をとりました。中国は一体、なにを考えているのでしょうか」

 トシ・ヨシハラ 「中国のこの日本攻撃は日本へのすばらしい『贈り物』(ギフト)だと思いますよ(笑い)。いやまじめに考えても、今回の中国政府の態度ほど日本側の中国への警戒を健全な方向へ加速させる動きはないでしょう。中国による年来の日本の国益の侵害に対し、日本側の官民を結束させ、中国に反撃しようとする姿勢をほぼ決定的に強化させる、そんな効果をもたらしていると思います。

 この傾向は日本自身にとっても、アメリカにとっても好ましい動きです。だから中国のいまの理不尽な対日態度は結果として日本の利益、中国の損失だと思うのです。

 最近の中国は日本に対して不満を募らせていました。日本側の安全保障3文書による対中抑止の意図をこめた反撃能力の保持、防衛費の倍増などに中国は激しく反発しました。この8月の米日韓3国首脳によるキャンプデービッド合意も明らかに中国の軍事脅威への抑止の3国連携強化であり、これまた中国は非難しています。台湾有事への日本の関与姿勢も中国の忌み嫌うところです。このへんからの不満や怒りが今回の処理水糾弾の背後にあると思います。

写真)トシ・ヨシハラ氏

出典)Center for Strategic and Budgetary Assessments (CSBA)

 しかし日本側の対中態度はこれまですでにかなり強固になっていたといえます。日本側の中国への警戒感、国防重視への世論の変化はなにが最大要因かというと、ここ10年ほどの中国の日本に対する攻勢的、高圧的な言動だと思います。

 ロシアのウクライナ侵略が日本の世論を変えた部分も大きいかも知れませんが、中国の膨張的態度への日本国民の反発の方がさらに大きな原因だと思います。その結果、日本側の安全保障観、ひいては世界観が変わったといえます。中国の処理水非難はまさにこの日本側の思考の変化をさらに推進する効果があると思います」

その2につづく)

*この記事は雑誌「正論」2023年11月号に掲載されたトシ・ヨシハラ氏と古森義久氏の対談録「経済衰退しても中国は『軍事大国』」の転載です。

トップ写真:日米韓3か国首脳会談後会見に臨む、韓国のユン・ソクヨル大統領、ジョー・バイデン米国大統領、日本の岸田文雄首相 2023年8月18日 米国メリーランド州キャンプデービッド

出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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