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.国際  投稿日:2023/3/29

中国”戦狼”外交官が更迭された理由


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#13

2023年3月27-4月2日

【まとめ】

中国“戦狼”報道官とされた人物が更迭された。

・つい昨年まで「戦狼外交」は中国の正しい外交であった。

・この外交官には個人的な醜聞ないし問題があったのではないか。

 

日韓首脳会談から、WBC日本優勝、岸田首相のウクライナ電撃訪問まで、怒涛のような外交行事が続いた先週とは異なり、今週は比較的静かだと思う。そんな中で筆者の興味を引いたのが、「中国“戦狼”報道官『更迭』の真相 衝撃の“ペンキ塗り”写真から透けて見える習近平の企み」なるデイリー新潮の記事だった。

写真が本人かどうか確認はできないが、その報道官が「ベトナムと国境を接する広西省で国境を画す『境界標』に彫られた〈中国〉の文字をみずから赤く塗り染める」画像が中国で出回っているらしい。うーん、境界標を赤く塗る仕事も重要な仕事だとは思うが、それにしても、これがあの喧嘩腰の「戦狼」外交官の今かと思うと胸が痛い。

 

 同記事によれば、更迭の理由として、外交官の妻がゼロコロナを批判する投稿を上げたからとか、好戦的イメージの強い彼を外交の顔に立てておくのは得策でないと政権側が判断したからとか、様々な専門家の見立てがあるらしい。うーん、他にも重要ニュースはあるだろうが、今週はこの哀れなエリート外交官の末路を取り上げよう。

 

 まずは彼の妻がゼロコロナを批判した説だが、この程度のことで外交部の副報道官が突如地方に飛ばされるとは考えにくいのではないかな。勿論、こうした噂が正しい可能性もゼロではないが、筆者の経験則で邪推すれば、これは左遷の真の理由をカモフラージュするための「官製噂話」ではないかと思う。

 

 それでは、政権側が好戦的イメージの彼を最前線から退かせた説はどうか。仮にそうだとしても、彼だけが外交部を突然クビになって地方に飛ばされるだろうか。つい昨年まで「戦狼外交」は中国の正しい外交であり、外交部は一丸となってこの稚拙な外交を推進していたではないか。それがなぜ、今になって彼だけが飛ばされるのか。

 

 「戦狼」の彼が悪いのであれば、当時の外交を担ったトップから末端まで、全ての外交要員が責任を負うべきだろう。もしかしたら、この外交官には個人的な醜聞ないし問題があったのではないか。これほどの懲罰人事が政権側のイメージ刷新のためだけに行われたとは思えないのだが。さて、読者の皆様はどう思われるだろうか。

 

 実はこの原稿は羽田空港のラウンジで書いている。これからワシントンに短期出張があるのだ。ワシントンの雰囲気は来週書くことにするが、今回驚いたのは羽田空港の「海外旅行保険」申し込みについてだ。チェックイン後、いつもの通り、保険を掛けようとしたら、朝8時は早過ぎて窓口が開いていない。コロナで時短なのだそうだ。

 

 仕方がないので、日系某超大手保険会社のネット申し込みをPCでトライしたが、5回やっても何故かネット上で申し込みができない。もしかしたら筆者のやり方が悪いのかもしれないと思い、今度はスマホで同社の申し込みを行ったのだが、これまた、クレジットカードの情報を入れたところで、エラーが出た。何回やってもエラーばかりだ。

 

 もうかれこれ1時間も悪戦苦闘してみたが、どうしてもこの超大手保険会社では申し込みができない。仕方なく同社のお助けホットラインにも電話したが、これまた全く埒が明かない。最後の手段で空港にある外資系保険会社の機械を試してみたら、何と3分で申し込みは完了。あの日系超大手のITは少なくとも数年遅れているようだ。

 

〇アジア 

金正恩が核兵器事業を視察し、核開発を更に進めるよう指示したという。報道では小型化された「戦術核弾頭」とみられる物体も写っているそうだが、ここでも北朝鮮の「かまってちゃん」外交が続いている。米国も韓国も日本も「かまって」はいられないのだが、ほっておけば、核兵器が増えるだけの「こまったちゃん」である。

 

〇欧州・ロシア

ドイツがウクライナにレオパルト2」18両を引き渡したと発表、弾薬や交換部品のほか整備にあたる装甲回収車2台も供与したそうだ。独国防相は「前線で決定的な貢献ができると確信している」と述べたらしいが、どうやら近く、「関ヶ原」が始まりそうな勢いだ。停戦は外交ではなく、戦場での趨勢で決まるだけに、要注意である。

〇中東

イスラエルのネタニヤフ首相が、司法に対する政府権限強化を目指して成立を推進していた法案の議会審議を一時停止すると発表したそうだ。国内各地では数万人規模の大規模な抗議やストライキが相次いでいただけに、当然の措置であるのだが、ネタニヤフにとっては大きな譲歩だ。但し、彼はこのままでは終わらないだろう。

〇南北アメリカ

ナッシュビルの小学校で再び銃乱射事件があり、子供3人を含む6人が死亡したそうだ。射殺された犯人は女性、今年になって129回目の乱射事件だという。一日一件以上乱射事件が起きているのに、アメリカの議会は動こうとしない。銃に関する限り、やはり、どこかがおかしいのではないか、あの国は。

〇インド亜大陸 

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

写真:趙立堅元外務副報道官 2021年12月20日 中国・北京

出典:Visual China Group/GettyImages

 




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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