トランプ大統領はいま――ワシントン報告 その1 米欧保守連帯の波
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・欧州でも保守勢力が自国の主権を強調する姿勢が広まっている。
・ポーランドも含めこれら保守勢力は自国の主権の強調、独立国家として自国や自国民の権利保護を優先して推進する。
・一般国民の間で、その種の保守政党への支持が増え、国政の場でも『極端な少数派』ではなくなった。
アメリカではいまなにが起きているのか。トランプ大統領はどんな施策を進めているのか。その施策にアメリカ国民はどう反応しているのか。そしてそのトランプ政権の政策は世界にどんな波紋を広げているのか。
そんな諸課題についてワシントンからの報告を送りたい。
アメリカのドナルト・トランプ大統領は9月3日、ホワイトハウスで記者会見を開いた。2期目の就任以来、9ヵ月、ほぼ連日のように開く会見だが、この日はポーランドのカルロ・ナブロツキ大統領との合同の記者会見だった。
ふだんのアメリカ人記者たちに加えてポーランドなど各国の記者も加わって超満員の執務室でのこの会見は1時間以上にも及んだ。その場での質疑応答の多彩な内容はまさにトランプ大統領の政策と世界のからみあいの全体図を明白に投射していた。
ホワイトハウスの大統領執務室を埋め尽くした記者団からは挙手と同時に大声で叫ぶ質問の数々が嵐のようにぶつけられる。トランプ大統領は一瞬、眺め、耳を傾け、特定の記者1人に指を差して発言を許す。どんな質問にも円滑に、メモもみず、自分の言葉で答えていく。話題は文字通り多岐多彩にわたる。
私はそのすべてを傍聴した。この会見の骨子を紹介することで、トランプ大統領が大胆に進める主要政策の特徴やその国際的な意味が浮かびあがるだろう。そして日本の政治変化との関連も示唆される。
ではトランプ政権の現状を知らせるという目的のためにこの会見の内容を三つの特徴にしぼって解析しよう。
第1は保守主義とその国際的な広がりである。グローバル化への反発と呼んでもよい。
この会見ではナブロツキ大統領がトランプ大統領といかにも満足そうに並び、笑顔を絶やさず、ときおり発言した。ナブロツキ大統領は「ポーランド第1」という標語でトランプ氏の保守主義に似た政策を進めてきた。最近では1歩、進んで「ポーランド人第1」という標語まで使うようになった。この点は日本の参政党の「日本人ファースト」とまったく同じである。
両大統領の力をこめた握手は近年のヨーロッパの保守志向をも象徴していた。ポーランドは東欧だが、ドイツやイギリスという西欧諸国とともに集団同盟の北大西洋条約機構(NATO)の同じ一員である。その西欧でもナブロツキ氏やトランプ氏の主唱するような保守主義が国民の支持を増しているのだ。
ドイツでは「ドイツのための選択肢」という保守政党が国民の支持を大幅に増して、現政権を脅かしている。2025年2月の連邦選挙ではドイツ第2の政党にまで発展した。既成の政治勢力はこの政党を「極右」とか『過激』と呼んで抑えつけにかかるが、草の根での支持の拡大は止まらない。
イギリスでも「リフォームUK」という新規の保守政党が既成の二大政党の基盤を揺るがすほど勢力を増した。実はオランダでもベルギーでも新興の保守政党が勢いを強くするようになった。
フランスでも長年、極右のレッテルを貼られてきた保守政党『国民連合』が国政の主要な役割を果たすところまで国民の支持を伸ばしてきた。
イタリアでは「極右」と断じられた「イタリアの同胞」という保守政党が政権を握り、女性党首のジョルジャ・メロー二氏が首相となった。国民の最大多数の支持を得る政党はもう「極」というレッテルは不適切ということで、ほとんど使われなくなった。
ポーランドも含めてこれら保守勢力に共通するのは自国の主権の強調、つまり独立国家として自国や自国民の権利保護を優先して推進する姿勢である。自国の歴史や伝統や文化の尊重をも訴える。その一環として外国からの人間の流入に注意を払う。外国人の排斥ではないにしても、その流入の規制である。この点、トランプ政権の不法入国者への厳しい姿勢と共通している。
これら保守勢力はグローバリズムを警戒し、批判する。グローバリズムとは国家の境界を越えて、人、物、カネが自由に動く現象を指す。その背後には国際協調の名の下、自国の利益を抑えてでも他国との調和を重視する傾向がある。とくに他国の人間が自国に多数、入ってくることをむしろ歓迎する。国際連合のような国際機関の役割に敬意を表する。トランプ大統領はそんなグローバリズムには正面から反対してきた。ナブロツキ大統領の政治歴も同様だった。
欧州でもリベラル寄りの従来の既成政治勢力はトランプ政権の自国第一の政策にはきわめて批判的だった。その種の既成勢力はドイツやイギリスでの新興の保守政党を「極右」とか『排他主義』、さらには『人種差別』として、極端で過激な少数派として排斥してきた。ところが一般国民の間でのその種の保守政党への支持が増えて、国政の場でも『極端な少数派』ではなくなったのだ。
トランプ政権は欧州でのこうした既成勢力を『エリート』『リベラル』『グローバリスト』などと評し、その政治志向を批判してきた。そして新興の保守勢力への陰に陽にの支援を送ってきたのだ。そのあたりの実態が今回の記者会見でトランプ大統領とナブロツキ大統領が友好の空気をふんだんにして並ぶことで『米欧保守連合』というような形で誇示されたのだった。
(その2につづく)
#この記事は日本戦略研究フォーラムの2025年10月刊行の季報に掲載さされた古森義久氏の論文の転載です。
トップ写真:ポーランドのカルロ・ナブロツキ大統領と会談するトランプ大統領 ワシントンDC 2025年9月3日
出典:Photo by Alex Wong/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

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