日本のオールドメディアの反トランプ錯乱その5 中国が日本の官民を団結させた
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
【まとめ】
・高市氏が掲げるナショナリズム路線への転換が現在の株高の原動力である。
・日本株の大きな変動は政治レジームの転換と連動しており、サナエノミクスによって日本経済が新たな局面に進む可能性。
・高市氏支持の背景には、2度の消費税増税と社会保険料の引き上げによる家計圧迫への不満があり、その政策は「健全財政」を優先する財務省の思想と対立する。
日本のいわゆる「識者」、そしてその言を流布するオールドメディアがトランプ大統領やトランプ政権の政策をいかにゆがめて伝えてきたか。安全保障から経済、貿易までその錯誤の実態を経済アナリストの武者陵司氏との対談という形で自由に論じてみた。
――(司会)株価上昇が続くいわゆる「高市トレード」を受け、円安が進むのではないか、という議論もあります。
武者陵司:現在起きている株高は、高市氏が掲げるナショナリズム路線への転換を市場が織り込み始めた結果だと考えています。いわば、大きな上昇相場の初動です。重要なポイントは、日本のベクトル(方向性)がナショナリズムに揃ったということです。
国家を守るためには、必要な資本を惜しまず投入する。財政や金利の短期的制約よりも、国家の成功を優先するという姿勢が明確になれば、経済は変わります。
たとえば半導体。必ず国内で成功させるという強い意思を示し、失敗の可能性を理由に手を引くのではなく、成功するまで資金を投じる。政府が造船に1兆円、半導体に10兆円と示せば、民間も将来の利益を見込んで投資を加速させるでしょう。
高市氏が保守ナショナリズムという旗を明確に掲げたことで、国民の求心力が高まり、意思決定やリスクテーク、いわばアニマルスピリットが喚起される。その結果、日本経済はこれまでとは異なる局面に入る可能性があります。現在の相場は、その期待を織り込み始めた動きだと見ています。
日本株の歴史を振り返ると、大きな変動は政策の大転換と連動しています。
最初の転換は1950年の朝鮮戦争です。そこから復興が加速し、約40年間、株価は長期上昇を続けました。1989年12月が高値です。金融引き締めや不動産融資規制などのバブル抑制策、さらには日米構造協議を通じた対米圧力も重なり、結果として株価はピークを打ち、その後約8割下落しました。
次の転換点は2003年5月。りそな銀行の公的資本注入が行われ、不良債権問題の終息シグナルと受け止められました。銀行システムは守られるというメッセージが明確になり、そこから2007年まで株価は回復しました。
2012年11月16日、安倍氏と野田氏の党首討論で解散が表明され、政権交代が視野に入った瞬間から相場は上昇に転じ、約7カ月で8割上昇しました。
このように、日本株の大転換は政治レジームの転換と連動しています。
今回も同様の局面に入る可能性があると見ています。高市氏が大転換を行うからです。
6月に骨太方針が示されれば、これまでとは異なるサナエノミクス――大規模投資と減税政策が打ち出されるでしょう。その結果、日本経済には強いアクセルがかかり、潜在成長率が上がる。高市氏当選確実との報道後に日経平均が3千円上昇し、さらに千円単位で動いたのも、その初動です。
重要なのは、日本経済を最も強く動かしてきた原動力はナショナリズムだったということです。日本人が一致団結するという、中国が最も恐れていたことが、中国のおかげで、日本で起きているのです。
――(司会)衆院選の応援演説で高市氏の「外為特会(外国為替資金特別会計)の運用はホクホク状態だ」との発言をメディアが批判しました。
武者:みずほ銀行のエコノミストがレポートで、高市氏が「外為特会には大きな含み益がある」と発言したことに対して批判したのが発端です。それをメディアが取り上げ、「円安誘導だ」と騒ぎました。
ただ、当エコノミストらは、これまでも一貫してアベノミクス反対、財政拡大反対、金融緩和反対の立場を主張してきた人たちです。そんな彼らが求めているのは「健全財政」を最優先するというもの。その背景には、財政は常に均衡を保つべきという財務省思想があります。
財政赤字の抑制を第一義とする立場が、経済論壇の主流を占めてきました。
しかし、経済が成長すれば、それに見合った貨幣供給の拡大が必要になります。経済規模が倍になっているのにもかかわらず貨幣量を増やさなければ、需要不足に陥り、デフレ圧力が強まります。
1990年代以降、こうした経済合理性を欠いた思い込みは、財務省が財政赤字を削減したいという自らの狭い領域を正当化するためのキャンペーンとして始まりました。当時私は、財務省のそのようなキャンペーンに、まともな学者が共鳴するはずはないと思っていました。ところが、3年、4年、5年と時間が経つにつれ、いつの間にかほとんどの学者が、いわば「財政教」の信奉者のようになってしまったのです。
――(司会)長期金利上昇の原因を「高市氏が消費税減税を打ち出したからだ」とする見方があります。
武者:減税を行えば金利が上がり、2022年にイギリスで発生した「トラス・ショック」のような事態を招き、経済が破綻する。だから減税は行うべきではない――という単純な理屈です。
しかし、これには多くの誤りがあります。減税をすれば金利が上がり、経済が悪化するというのは一面的な視点です。世界的に見ても、景気対策の基本は減税です。減税が成長を促すというのは常識。
減税によって民間需要が増えれば、経済は拡大します。経済が成長すれば税収も増え、減税による税収減の相当部分は回収されるというのが一般的な見方です。
しかしメディアでは、減税=財政赤字拡大=金利上昇という側面ばかりが強調されている。その結果、市民は「減税はうれしいが、財政は大丈夫か」と不安を抱かされる。減税があたかも禁断の果実のように扱われています。
古森義久:トランプ大統領は減税で景気を刺激しています。
武者:アメリカでは景気対策として減税を行うのは当然のことです。
古森:トランプが最初に選ばれた際、法人税率を35%から21%へ引き下げました。当時、「そんなことは不可能だ」と言う日本側の経営者もいましたが、実際に実行しました。その後、バイデン政権は21%から29%へ引き上げ、トランプは再び引き下げを示唆しています。減税が経済活動を活発にするというのは、合理的に考えれば理解できることです。
武者:もう一つ、ほとんど報じられていない点があります。
アベノミクスが始まった2013年以降、株価は5倍以上に上昇しました。企業利益は約2.5倍になり、税収は40兆円から80兆円へと倍増しました。
しかし個人の実質消費は、2014年をピークに伸び悩んでいます。生活が厳しくなった最大の要因は、二度の消費税増税と社会保険料の引き上げです。
2012年に決定された税と社会保障の一体改革の時点で国民負担率は38%でしたが、2022年には48%まで上昇しました。税と社会保険の負担が約10ポイント増えたのです。
経済成長が十分でない中で負担だけが増えれば、生活は苦しくなります。現在の消費を抑えている最大の要因は、こうした負担増にあります。特に働く世代にとって社会保険料の負担は重い。
結果として、企業収益と株価は伸びる一方で、家計は圧迫されるという歪みが生じました。この状態への不満が、高市支持の背景の一つにあります。
高市支持の背景にはナショナリズムの要素もありますが、出発点は税金の「取り過ぎ」により、消費者や労働者が一方的に負担を背負っているという不満です。財務省は現在の10%の消費税にも満足せず、15%へ引き上げ、安定財源として拡大したいと考えています。
こうして考えると、高市氏の政策は財務省の立場と根本的に対立します。そして、ほとんどの学者が財務省側についており、かなり危うい状況です。財務省の組織的な世論操作や恫喝は相当なもの。最終的には財務省の分割・解体は必須です。
(終わり。その1,その2,その3,その4)
#この記事は月刊雑誌 WILLの2026年4月号に掲載された武者陵司氏と古森義久氏の対談の転載です。
写真:財務省が大蔵省だった頃の正門 The Old Ministry of Financeの写真素材




























