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.国際  投稿日:2026/1/25

グリーンランド危機が日本に突きつける主権防衛の課題


Ulala(著述家)

【まとめ】

・トランプ大統領はグリーンランド買収をめぐり、欧州8カ国への追加関税という「経済的威圧」を行った。

・この強硬姿勢は同盟国間に亀裂を生じさせたが、EUに「主権防衛」と「対抗関税」をめざす強い団結を生んだ。

・最終的にトランプ大統領は追加関税を撤回し、欧州側の制度的な対抗準備が功を奏して、危ういながらも均衡が保たれた。

 

2026年1月21日夜、トランプ大統領はSNS「Truth Social」で、グリーンランドをめぐる「合意の基盤(フレームワーク)」が成立したと発表し、2月1日に発動予定だった欧州8カ国への追加関税(10%)を撤回した。ダボス会議の裏側で、NATOのルッテ事務総長との会談を経て引き出されたこの発表は、欧州連合(EU)の結束がトランプ氏の「関税脅迫」を押し戻した歴史的瞬間ともいえる。

具体的な経緯は未公表だが、ダボス会議を軸に展開された『経済的威圧』をめぐる米欧対立はいったん区切りを迎えた。

■ 同盟国同士が経済と軍事で互いを脅し合うという衝撃

『我々はいったい何を見せられているのだ』という感想しか出てこない、今回の衝撃的な同盟国間の対立。トランプ 氏 がグリーンランド買収を拒むEU諸国に関税を突きつけたと知り、驚きを隠せなかった人も多いのではないだろうか?

本来、関税とは通商上の不均衡を修正し自国の産業を保護するための経済的道具である。しかし、今回トランプ 氏 は、その常識を根底から覆す「経済的威圧」でデンマークの自治領であるグリーンランドの「領土取得(購入)」という、国家の主権そのものに関わる究極の政治課題に対し、関税を「人質」として突きつけたのである。

対象となったのはフランスやドイツといったEU主要国、そしてEUを離脱したイギリスを含む欧州8カ国。トランプ氏は、デンマークの領土割譲に協力しない、あるいは反対姿勢を崩さない同盟国に対し、「2月1日から10%、6月1日から25%」という、具体的かつ段階的な関税引き上げを予告した。

この衝撃は、単なる貿易摩擦の域を遥かに超えている。かつて第二次世界大戦後の秩序を支えた「NATO(北大西洋条約機構)」という強固な安全保障の絆で結ばれたはずの同盟国間に大きな亀裂を生じさせたのだ。しかし、皮肉にもこのトランプ氏の強硬姿勢は、欧州諸国に「対抗関税」と「主権防衛」という共通の目的を与え、欧州連合としての強力な団結を生んだ。

■ フランス、マクロン大統領の「反撃」

この深刻な局面で、欧州の自由と主権を守るため最前線に立ったのがフランスのエマニュエル・マクロン大統領だった。目の充血を理由にサングラス姿で世界経済フォーラム(ダボス会議)の演説に臨んだマクロン氏の姿が、海外主要メディアの紙面を飾った。この演説でマクロン氏は欧州が大切にする価値を強い言葉で示し、領土の主権を関税で揺さぶるやり方は「受け入れられない」と強く批判した。名指しは避けつつも、「野蛮さではなく敬意を」「暴力ではなく法治を」重んじるべきだと語り、「狂ったアイデアに時間を浪費するな」と述べて、力による外交をけん制したのだ。

マクロン氏は、言葉だけで終わらせない姿勢も示した。EUが持つ「反威圧措置(ACI)」の活用について「ためらうべきではない」と述べ、相手国への追加関税や市場アクセスの制限など、具体的な対抗手段を取り得る枠組みがあることを強調した。 EU内では、最大930億ユーロ規模の対抗措置についての議論が再燃し 、さらに欧州議会は、 去年の夏に決まったアメリカとEUの貿易の協定を、正式に認める作業を一時ストップするという考えを示すなど、政治面でも対立の火種が広がった。安全保障面では、グリーンランドでの共同演習に参加することを表明して、 デンマークを全力で支える姿勢を前面に出し たのだ。

■ イタリア、メローニ首相の「現実的な仲裁」

マクロン氏が強硬な対抗姿勢を前面に出したのに対し、イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、対立が破局に向かわないよう対話のルートを保つ役割を担った。メローニ氏は、欧州側の結束を損なわない範囲で米国との直接のコミュニケーションを維持し、衝突を管理する方向へ外交の重心を置いた、と整理できる。

報道では、メローニ氏はトランプ氏と電話で意見を交わし、関税措置について「誤りだ」と伝えたとされる。ここで重要なのは、メローニ氏が欧州の主張を引っ込めたわけではなく、「欧州の立場は守りつつ、関税の発動だけは避ける」という目標に焦点を合わせた点だ。強硬策が前面に出るほど、相手が体面を失って引くに引けなくなる局面がある。そういった状況を避けるため、公で応酬するのではなく、水面下の調整で着地点を探った、という構図である。

結果として、欧州側の対応はフランスとイタリアの高度な連携プレーとなった。

■ トランプ大統領による「関税措置の凍結」が意味するもの

1月21日、事態は急転し、トランプ大統領が「2月1日から予定していた追加関税は実施しない」と表明したことで、ひとまず緊張は落ち着く形となった。報道では、トランプ氏はNATO事務総長との会談後、将来の協力に向けた新たな枠組みを作る、といった趣旨もあわせて述べたとされる。

ただし、この展開をトランプ氏の「善意」や「翻意」と断定しない方がいいだろう。この状況は、関税を領土・主権という最も対立が深まりやすい争点に結びつけた結果、想定以上に摩擦が拡大し得る状況を理解していったんカードを引っ込めただけともいえる。言うまでもなく、市場は米欧の衝突を嫌い株価が下がるなどの反応を見せていたし、同盟国同士の対立が深まれば、NATO内の協力や対外抑止に悪影響が出かねないという懸念が広がり、米国内からも批判や警鐘が出されていた。さらに、EU側が反威圧措置(ACI)などの制度的な対抗手段を「検討・準備し得る」ことが前面化し、報復の応酬に入った場合に米国側が被り得る損失が大きいことも、より具体的に意識される局面になっていたことは間違いない。

その結果、トランプ氏は「ディール」を有利に進めるために関税を圧力として利用したが、これ以上のエスカレーションは米国自身の不利益にもつながるため、いったん関税の実施を見送っただけなのだろう。

今回の合意は、関税を外交の『武器』として使うトランプ流ディールに対し、欧州が『制度的な報復の準備』という盾で対抗し、かろうじて均衡を保った危うい勝利とも言える。

■ 日本はここから何を学ぶべきか

今回の「グリーンランドをめぐる混乱」は、日本にとっても対岸の火事ではなく、ここから学ぶべき教訓は多い。

第一に、「同盟は常に安定して機能する」という前提が危うくなっているということだ。近年の動きは、同盟関係であっても関税などや国内政治の論理が前面に出て、圧力や取引の材料として扱われることが多い。日本も将来、駐留経費、貿易不均衡、あるいは特定の政治的要求をめぐって、通商措置と安全保障上の要求をされかねない。

第二に、「対抗手段を持ち、それを制度として準備しておく」ことが大切だということだ。今回、EU側では反威圧措置(ACI)などの枠組みが取り沙汰され、報復関税の規模(最大約930億ユーロ)が議論として具体化した。こうした「対抗手段」があれば、相手国側も引かざるを得なくなる。未来を予測してこういった制度を準備していく必要があるのだ。

第三に、「役割分担」の重要性。ただ対抗するだけでは不十分である。日本も日本の立場を明確にしながらも対話を維持して衝突を管理するという、複数のルートを同時に動かせる外交体制を構築していく必要がある。そういった複合路線でバランスを保つことが重要なのだ

現在は、不安定な時代ともいえる。予測が難しい時代であると同時に、自国の主権と国益をどう定義しどういった手段で守っていくのかという力が試される時代でもあるのだ。グリーンランドをめぐる一連の動きは、その現実を目の当たりにした出来事だったのではないだろうか。

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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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