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.政治  投稿日:2025/10/22

政治の地殻変動:中道・保守再編がもたらす安定


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#41

2025年10月20-26日

・高市早苗内閣の成立は、自民党が維新と組む必然的な流れで「自然な結果」だった

 ・参院選後の政治的空白は、主要政党が中道・保守に再編され、新たな地殻変動となった点で無駄ではなかった

 ・内政の安定こそ日本に最も重要で、「クネセット化(不安定な小政党連立政治)」しなかったことは朗報

 

10月21日、高市早苗内閣が発足した。先週と先々週、次期首相に関する専門家の予測はジェットコースター、というか、猫の目のように変わり続けた。先週は「これこそ、事前の『まあ、ないだろう』といった希望的観測が、事後の『なるほど言われてみればね・・・』という現実認識に変わる典型例」だと書いたが、今でも筆者はそう思う。

 

古今東西、庶民生活が苦しくなり、内外情勢の不確実性が高まり、予測可能性が低下する状態が続けば、人心は基本的に保守化していく。これを「右傾化」と呼ぶか否かは「好き好き」だが、振り返ってみれば、そのような中で自民党と公明党が連立を組んできたこと自体、不自然というか、奇跡的なことだったと筆者は思っている。

 

専門家ではないので無責任なことを言うかもしれないが、振り返ってみれば今回の結果は実に「自然」だった。立憲民主党に政権奪還の覚悟はなく、連合の反対もあるので国民民主党は自民党との「連立」に踏み切れない。参政党や保守党では数が足りないとなれば、連立相手の選択肢は元々維新しかなかったのかもしれない。

 

参院選後3か月、国内では「政治の空白」を批判する声が多かったが、この間、主要政党間の政策的「ねじれ」がある程度解消されたことも事実。極端な左派と右派が少数にとどまる中、主要プレーヤーが中道系と保守系に綺麗に分かれるという「新たな地殻変動」が始まったとすれば、過去3か月は決して無駄ではなかったと思う。

 

先週書いた通り、筆者の最大関心は日本で国会の「クネセット化(イスラエルの議会、転じて、不安定な小政党連立政治)」が始まるか否か、だった。もし、高市政権誕生により当分「クネセット化」は起きない、またはペースダウンするのだとすれば、日本にとっては朗報かもしれない。最も重要なことは日本内政の安定だからだ。

 

自民・維新の政策合意は全文で6千字弱、外交安保関連だけでも1066字ある。昨年の石破政権誕生の際の自民・公明合意文書が2千字弱だったことに比べれば、約三倍の分量だ。しかも、個々の政策の実現可能性は別として、内容は極めて詳細かつ具体的である。この点は今週のWorldWatchに書いたので、ご一読願いたい。

 

さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

10月21日 火曜日 日本、内閣総理大臣指名投票

米副大統領、イスラエル訪問(3日間)

10月22日 水曜日 エジプト大統領のEU訪問、欧州委員会委員長・欧州理事会議長と会談

10月23日 木曜日 欧州評議会首脳会議(ブラッセル)

 ブラジル大統領、インドネシア訪問(2日間)

10月24日 金曜日 仏議会、2026年度予算審議開始

 アイルランド、大統領選

10月15日 土曜日 米財務長官と中国副首相がマレーシアで会談

ブラジル大統領、マレーシア訪問

10月26日 日曜日 ASEAN首脳会議(マレーシア)

 アルゼンチン、中間選挙

10月27日 月曜日 米大統領、ASEAN首脳会議後に訪日(3日間)

 

最後は、ガザ・中東情勢だが、ガザ停戦に関する筆者の見込みは変わらない。トランプ政権の20項目のガザ和平計画は第一段階で生存する人質が全員解放されたものの、ハマース側は武装解除する気などさらさらなく、イスラエル軍も完全撤退する気など全くないので、第二段階には進まない、されば、いずれ戦闘は「なし崩し」的に再開される恐れがある、ということだ。トランプが提示したからと言って、すんなりと停戦が実現するほど中東は甘くない。こうした筆者の分析が間違っていることを心から願うばかりだが・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、キヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

写真:自民党総裁選に勝利した高市早苗(2025.10.4)

出典:Photo by Kim Kyung-Hoon – Pool/Getty Images




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