日本政治のクネセット化と揺れるガザ-安定なき時代の共鳴

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#40
2025年10月13-19日
【まとめ】
・自民・公明の連立解消を機に、日本国会の「クネセット化」が始まる可能性が懸念されている。
・クネセット化が進めば、長期的政策の遂行が阻害され、政治的な空白期間が生じやすくなる。
・ガザ情勢では、人質解放と停戦が一応実現したものの、根本的な和平合意には至らず、国際会議も実効性を欠いている。
先週は、高市自民党新総裁がほぼ次期首相になるという前提で筆を進めていたが、先週金曜日の自民・公明首脳による「熟年離婚」ドラマで状況は再び大きく変わり始めた。この「連立解消」劇については既に多くのことが言われているので、ここでは繰り返さない。
これこそ、事前の「まあ、ないだろう」といった希望的観測が、事後の「なるほど言われてみればね・・・」という現実認識に変わる典型例ではないか。それにしても、日本のメディアの関心は「誰が次の首相になるか」といった点ばかり。要するに「木を見て森を見ない」分析が続いているようだ。
今、筆者が最も気になるのは次期首相選びでも、新たな連立の成否でもない。筆者の関心は、遂に日本で国会の「クネセット化(イスラエルの議会、転じて、不安定な小政党連立政治)」が始まるのか、もし始まるとすれば、それは何時まで続き、最終的に日本内政の安定は回復できるのか否か、という点に尽きる。
参議院選挙直後の7月末、筆者はJapanTimesのオピニオン欄にこう書いていた。
- 今日私が親愛なる読者に問いたいのは、石破氏の政治的生命の行方などではなく、日本の議会政治の将来、特に、議院内閣制の行方である。このままでは、日本の国会は急速に「クネセット化」、即ち、不安定化するのではないか、と危惧するからだ。
- 日本では20世紀末の「政治改革」で金権腐敗是正に主眼が置かれたためか、選挙制度の改革が不十分となり、結局2大政党制は確立せず、逆に多党化が進んでしまった。
- このまま、日本の議会政治も、欧米と同様、大衆に迎合するポピュリズム、反エリート主義が台頭する中で、劣化していくのだろうか。それとも、新たな「政界再編」を成し遂げ、欧米とは異なる議会制民主主義の確立に成功するのだろうか。
- (イスラエルの)クネセットでは連立政権の不安定さから政府が短命に終わり、頻繁に総選挙が行われる傾向があるが、将来日本でも、長期的政策決定や実行が阻害され、政治的な空白期間が生じ易くなる可能性はないのか・・・。
日本国会のクネセット化は、筆者の予想以上に、進んでしまったのだろうか。今週のJapanTimesではこの問題を詳しく書くつもりだ。日本内政の現状はイスラエルとどこが同じで、どこが違うのか。多党化の原因としては、選挙制度、有権者の政治意識の多様化、左右の既存中道政党の劣化などが挙げられるのだが・・・。
日本の内政についてもう一言だけ。先週の産経新聞World Watchで筆者は高石新総裁に「君子豹変」をお勧めした。「偉大な政治家は『時代が作る』もので、政治家が偉大な時代を作るのではない」とも書いたのだが・・・。どうやら現状での「君子豹変」は予想以上に難しかったようである。
さて、今週はいつもの「欧米から見た今週の世界の動き」をお休みして、ガザ・中東情勢について書こう。日本のメディアはこの「人質解放」を喜ぶイスラエル国民の姿を好意的に報じているが、ガザ紛争について筆者は先週こう書いていた。
トランプ政権の20項目のガザ和平計画は「イスラエルが同意したものの、ハマース側は武装解除する気などなく、引き続きイスラエル軍完全撤退を求めている」ので、「交渉は進展せず、仮に人質が一部または全員解放されたとしても、早期停戦には至らないのではないか。トランプが提示したからと言って、すんなりと停戦が実現する状況ではない」と書いた。
勿論、第一段階の「人質解放」が実現したことは素晴らしいし、幸いにも一応停戦は始まったのだが、これで問題が解決した訳では全くない。
パレスチナ問題は「悪魔は詳細に宿る」の典型例であり、第二段階の「詳細」ほど合意が難しい難問はない。ハマースが人質を解放した理由は、トランプ政権の対イスラエル圧力もあっただろうが、基本的にはハマースの生き残りにとって、人質が「取引材料」ではなくなり、むしろ「お荷物」になりつつあった、からだと思う。
鳴り物入りで開かれたエジプトのリゾートでの「国際会議」も中身は乏しい。そもそも、イスラエルが欠席し、ハマースが招待すらされていない会議で一体何を合意するのか。トランプ氏の演説中、アラブ首脳たちの顔色は実に冴えなかった。彼らは皆、こんな会議で恒久的停戦やガザ問題の解決が実現するとは思っていないのだろう。
こうした筆者の分析が間違っていることを心から願うばかりだが・・・。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:ガザ地区で拘束されていた人質がイスラエルへ帰還 イスラエル・テルアビブ 2025年10月13日
出典:Photo by Amir Levy/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

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