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.国際  投稿日:2025/11/1

「右翼」「歴史修正主義者」と報じる米主要メディア:日米首脳会談に見る「偏向」の構図


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

古森義久の内外透視

【まとめ】

・トランプ大統領と高市新首相の日米首脳会談は大成功だったと評価されている。

・両首脳は防衛強化と日本の対米巨額投資で合意し、横須賀基地で日米同盟の深化を誓い合った。

・一方、米大手メディアは高市首相を「右翼」、「歴史修正主義者」などと批判的に報じ、トランプ政権支持メディアとは異なる反応を示した。

 

アメリカのドナルド・トランプ大統領の10月末の訪日にともなう高市早苗新首相との会談は大成功と評してよいだろう。両国首脳が防衛の絆の強化を誓いあい、経済領域でも日本の巨額の対米投資を具体的な企業名をあげて合意するという展開は両国の連携が相互の国益に資するという観点からは確実に歓迎できる動きだった。

この会談の成果を判断する有力な材料はやはりトランプ、高市両首脳が横須賀基地の米海軍の巨大空母「ジョージ・ワシントン」の艦上に並んで立ち、日米同盟の深化を誓いあった光景だった。10月28日、両首脳が米海兵隊が運航する大統領専用のヘリコプター「マリーン・ワン」に搭乗して横須賀に向かうというのも異例だった。

1万数千の乗組員を前にトランプ大統領が高市首相に向かい、「もしあなたがいかなる疑問、要請などがあれば、知らせてください。日本を支援するためにはなんでもします」と、アドリブで述べた言葉が

象徴的だった。トランプ氏の高市首相へのごく自然な連帯の言葉だった。同大統領は「米日両国は最強次元の同盟同士なのです」とも述べた。

トランプ氏は高市氏とは初対面だったとはいえ、当初から親近感やくつろぎをみせていた。トランプ氏は日ごろ笑顔を簡単にはみせない。肩の力を抜くことも少ない。だが高市首相と並んで行動するトランプ氏はごく自然な笑顔を浮かべ、肩の力も抜いて、快適なボディ・ラングエイジ(体が自然と発する言語)でもあった。ワシントンで日常、目にする姿よりもゆったりしているのだ。やはり自国の主権や利益を優先するという保守志向同士の共鳴だろう。トランプ氏が直接に語ったように高市氏については安倍晋三氏からも、日本の政治に詳しい側近からも、よく知識を得ていたことは明らかだった。石破茂前首相への挙措とは雲泥の違いだった。

トランプ氏は高市氏について首脳会談の前から「知恵と強さをあわせ持つ非常に尊敬できる人物だ」と述べていた。東京での首脳会談を終え、韓国へ向かう畿内でも「高市首相はとても鋭く、賢く、活気にあふれていた」とも語った。

トランプ政権内でも、安倍政権時代からの日本政情に詳しいマルコ・ルビオ国務長官は「高市政権は日米同盟を増強し、経済的な繁栄をもたらし、地域の安全保障を強化するだろう」と、期待にあふれる言葉を述べていた。

トランプ陣営の政策研究機関ともいえる「米国第一政策研究所」(AFPI)のフレッド・フライツ副所長は「高市新首相は国際秩序の改善に寄与する」という趣旨の論文を発表した。高市氏の日米同盟だけでなく中国の軍事攻勢や北朝鮮の軍事冒険に対する年来の姿勢をたどって、その基本は自由民主主義や法の支配に基づく従来の国際秩序の堅持を目指すだろう、と考察していた。

アメリカ側の多数派、つまりトランプ陣営や同政権を支持する共和党議員が多数を占める連邦議会の上下両院でも高市首相への前向きな反応は一致している。民主党側の政治家たちはとくに論評をしない。トランプ政権の政策にはほぼすべて反対する民主党側も、こと日本との関係となると、日米同盟堅持という基本には賛成である。だから高市氏が登場して、改めて日米同盟を新たな高みへと向上させると言明しても、反対は唱えないわけだ。

ところがアメリカの大手メディアはまるで異なる反応をみせた。かねてから民主党びいき、トランプ叩きで知られるニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNテレビといったメディアである。ニューヨーク・タイムズはまず高市首相を「右翼」と呼び、「歴史問題で修正主義の傾向をみせる」と断じていた。いずれも中国側の主張を根拠とする断定だった。同紙は「今回の首脳会談は日米同盟の保持をうたっただけで、関税問題など経済領域の課題はなにも解決しなかった」とも報じていた。トランプ大統領が東京で日本の財界首脳を招き、アメリカへの巨大な投資計画の言質を確認したことなど、無視なのだ。

ワシントン・ポストも二本の記事で「高市氏は極右」、「超保守主義者」、「扇動的な政治家」、「歴史修正主義者」、「女性の社会進出を阻んできた」 などとネガティブな記述を満載していた。日本国内でも、自民党内で高市氏の支援者が多く、政策面でも実績を重ねてきたという側面はほとんど無視だった。とくに「歴史修正主義」とか「女性の進出阻止」という非難は具体的な根拠をあげず、「専門家がそう述べている」という曖昧の記述だった。

この主要メディアの明らかに偏向と呼べるゆがめ報道の理由は第一に民主党リベラル派支持の体質として高市氏が保守というだけで、「極右」というようなレッテルを貼る傾向だといえる。ニューヨーク・タイムズはとくに安倍晋三氏への糾弾が激しかった。

第二の理由はこれら民主党支持メディアのトランプ攻撃の基調である。ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポスト、CNNなどはトランプ政権の政策にはほぼすべて激しい反対の意見を表明する。トランプ糾弾の民主党リベラル派の主張を一貫して優先報道する。その宿敵のトランプ氏が緊密さを誇示する高市首相にも似たような批判の矛先を向けるわけだ。

だが保守派からのこの種の大手メディアへの批判も辛辣である。一例として共和党主流のフロリダ州知事、ロン・デサンティス氏の最新の論評を紹介しておこう。

「CNNが日本の高市早苗新首相を『強硬保守』と呼んだ。リベラル派の視聴者に彼女を嫌わせるためのレッテル貼りだろう。だが現実にはCNNに嫌われる人物は好ましい人に決まっている」

※この記事は日本戦略研究フォーラムのサイトに掲載された古森義久氏の寄稿の転載です。

トップ写真:トランプ米大統領と共に米兵の前で手を振る高市早苗首相(年10月28日 横須賀の空母ジョージ・ワシントンにて)出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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