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.国際  投稿日:2026/1/4

容易でない「安全かつ適切な政権移行」どうなるマドゥロ後のベネズエラ


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・米国のベネズエラ軍事攻撃とマドゥロ大統領拘束は西半球重視の「国家安全保障戦略」に沿った作戦。

・マドゥロ大統領失脚後も、ナンバー2の内相らが権力を保持しており、ベネズエラで政権交代はまだ起こりそうにない。

・マドゥロ派の準軍事組織も存在、ベネズエラ野党勢力も一致団結しておらず、同国情勢の行方はなお不透明。

 

■ ドンロー主義」の第1弾

トランプ米政権がベネズエラで軍事作戦を実施、反米左派のマドゥロ大統領を強制連行したことは、昨年暮れ公表された西半球重視の「国家安全保障戦略」が正に実践される形となった。同戦略は南北大陸への欧州の介入を許さず、米国が主導権を取るべしとする19世紀のモンロー主義をトランプ大統領が自分なりに修正した「ドンロー主義」とも称される。「ドンロー」とはモンロー主義とトランプ氏自身の名前の「ドナルド」からつくった造語。ドンロー主義は中南米での中国とロシアの影響力を排除するとともに、同地域からの麻薬と不法移民の米本土への流入を阻止することが主な目的とされる。今回の軍事攻撃はこの西半球重視戦略のドンロー主義の第1弾と言えるだろう。これが今後、うまく機能するかはマドゥロ大統領失脚後のベネズエラの政権の出方と米国の対応にかかっている。

 ‟影の大統領”の動向がカギか

トランプ大統領は軍事作戦後の記者会見で「安全かつ適切な政権移行が実現するまで米国が(ベネズエラを)運営する」と語ったが、現段階ではベネズエラでの政権交代は起きていないし、政権移行がスムースに進む見通しも立っていない。ベネズエラでは米̄軍の作戦でマドゥロ大統領が拘束されたことを受け、、ロドリゲス副大統領が大統領代行に就任、「マドゥロ氏がわが国の唯一の大統領‍だ。ベネズエラはいかな‌る国の植民地にもならない」と述べ、米国に対抗するため国民の団結を呼びかけた。ベネズエラ情勢に詳しい専門家は「大統領代行に任命され、ベネズエラ史上初の女性国家元首となったロドリゲス氏よりも、マドゥロ政権の事実上のナンバー2で“影の大統領”とも呼ばれたカベージョ内務・司法相の動向がカギだ」と指摘する。

現地からの報道によれば、同内務・司法相は「現政権がすべてをコントロール下に置いている」と強調、軍や警察に対し現政権への支持を求めている。軍のトップ、パドリーノ国防相も米国の軍事攻撃を非難、全軍に新たな米国の軍事攻撃に備えるよう指示したと伝えられる。マドゥロ大統領は退陣したものの、その政権幹部が依然として権力を掌握しているのが実状だ。

■ 準軍事組織やコロンビア系武装組織も不安材料

一方、ベネズエラの野党勢力の動向も明確ではない。昨年の同国大統領選で野党統一候補を「勝利」に導いたとされる野党リーダーで、先にノーベル平和賞を受賞したマリア・コリナ・マチャド氏に期待する向きは内外で強いようだが、同氏がベネズエラの新指導者になる見込みは当面薄い。野党勢力の内部も一本化されておらず、一丸となって同氏を支持しているわけではない。しかも、トランプ大統領は「彼女は国内で人気がない」と批判的で、マチャド氏とはまだ接触していないといわれる。約12万3千人とされるベネズエラの正規軍がこのままおとなしくしているか、パドリーノ国防相の指示次第では反米闘争が強まる可能性も否定できない。

また、国内各地に存在し、これまで反体制派の弾圧で重要な役割を担ってきた「コレクティーボ」と呼ばれる準軍事組織の動向も不安材料。さらに複数の中南米の専門家は、米国が政権交代を実現させたとしても、マドゥロ大統領時代からベネズエラ国軍との全面的協力関係を維持するコロンビア系武装組織「民族解放軍(ELN)」がベネズエラの新政権を脅かす恐れがあると予想する。トランプ大統領はベネズエラに米軍を派遣する可能性も示唆しているが、もしも米地上部隊が派遣された場合、ELNが得意とするゲリラ活動が展開される可能性があるという。ベネズエラ情勢はここ当分目が離せない緊張した場面が続きそうだ。

(了)

トップ写真:ミラフローレス宮殿近くの集会でアメリカ国旗を燃やし米国の侵攻に抗議するニコラス・マドゥロ大統領の支持者たち(ベネズエラ、カラカス2026年1月3日)出典:Jesus Vargas/Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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