ベネズエラ侵攻、チリ革命に酷似:半世紀以上前も外国政権を武力で打倒
樫山幸夫(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員長)
【まとめ】
・アメリカのベネズエラ攻撃は、1989年のパナマ侵攻など過去の軍事介入を連想させる。
・しかし、現職大統領の排除は、むしろ、選挙で選ばれた政権を崩壊させた1973年のチリのクーデターに酷似している。
・中南米を自らの〝裏庭〟とみなす米国の強権的手法は、前世紀と変わらないことに驚かされる。
■ 就寝中の大統領夫妻を連行
2026年の〝初夢〟は強烈だった。
米軍による1月3日未明のベネズエラ侵攻、マドゥロ大統領夫妻の拘束の経緯については、内外のメディアが連日、大きく報じている。
米軍が首都、カラカスに大規模な攻撃を加え、
潜伏先の寝室で就寝中だったマドゥロ大統領夫妻を陸軍特殊部隊などが逮捕、連行した。
夫妻はニューヨークに移送され、麻薬密輸などの罪で、連邦地裁に出廷するという。
今回の動きの全容が明らかになるまでにはなお時間が必要だろう。
■ パナマの〝闇将軍〟拘束も1月3日
ベネズエラ侵攻とパナマ攻撃を比較する報道が散見されるのは、いずれのケースも軍が主導、麻薬密輸に関与した外国政府高官を逮捕・連行したこと、さらに、最高指導者を拘束したのが、年こそ違え同じ1月3日だったことなどからだ。
パナマ侵攻で標的とされた最高権力者、ノリエガ軍司令官は武力を背景に傀儡の指導者を仕立てるなど独裁体制を敷き、文字通りの〝闇将軍〟だった。
当初、ノリエガを利用していたアメリカは、政敵暗殺への関与、麻薬密売、マネーロンダリング疑惑が強まるに及んで、排除を決意。
1989年暮れ、攻撃を開始し、将軍は翌年1月3日、アメリカ軍に投稿、米本土に連行された。マイアミの連邦地裁において麻薬密輸などの罪で40年の刑を宣告され、その後移送先のパナマ市内で獄死した。
■ 大統領を死に追いやったチリ革命
ベネズエラ、パナマ侵攻には共通点はあるものの、ノリエガ氏は形式的には軍の司令官にすぎなかった。
マドゥロ氏は、選挙の正当性に疑義を指摘はされていたものの、現職の大統領だ。国家元首の立場にあった者を、外国が軍事力で拘束したことは、軍人にすぎない人物を拘束することとは重みが違う。
今回の事件はむしろ、1973年のチリにおける軍事クーデターにこそ比肩されるべきだろう。選挙で誕生したアジェンデ政権を崩壊させ、大統領を死に追いやった事件だ。
この時、主要な役割を担ったのは軍ではなくCIA(中央情報局)であり、その謀略性が指弾される契機にもなった。
チリに、サルバドール・アジェンデを大統領とする社会主義政権が誕生したのは1970年11月。
ニクソン米政権は、当初からこの転覆を目論み、輸出入銀行だけでなく、米州開発銀行にも融資を停止させ金融封鎖で経済混乱に陥れた。
CIAは、トラック運送業者に資金提供して長期ストを行わせるなど、右派による政権打倒の動きを積極的に支援した。
アジェンデ政権は国民の支持を背景に、企業の国有化など経済改革を進めたが、1973年9月、米の支援を受けた当時の陸軍総司令官らがクーデターを決行した。
アジェンデ大統領は少数の護衛隊とともに最後まで官邸にとどまり、自ら自動小銃をとって勇敢に〝戦死〟した。
ペプシコ、ITT(国際電信電話会社、当時)など米国の多国籍企業が背後でCIAに協力、暗躍したといわれた。
1976年に日本でも公開された仏・ブルガリア共同制作の映画『サンチャゴに雨が降る』は、9月11日のクーデター前後10数日間の緊迫した動きが描かれている。1982年に制作されたジャック・レモン主演の米映画『ミッシング』は、混乱のさ中に行方を絶った米国人青年をめぐる物語だ。
民主的な手続きで選ばれた政権であろうと、障害となるなら壊滅させることも躊躇しないという冷徹さは、いまもアメリカの安全保障政策にうけつがれている。
■ コロンビアにも侵攻?
米国によるベネズエラ侵攻に話を戻す。
トランプ大統領は、その国家運営をアメリカが担うと宣言しているが、具体的にどう進めていくのか。
ロシア、中国などは強く反発しており、その動きも今後の展開を占う意味で重要だろう。
日本政府はじめ同盟国は、米との関係と国際法との板挟みになるのは避けられない。
英国のスタ―マー首相は「(マドゥロ氏は)正当性のない大統領だ。平和的な政権移行を望む」と述べたにとどまった。
高市首相は5日、伊勢神宮参拝後の記者会見で「わが国は、自由と民主主義、法の支配など基本的価値や原則の重要性を訴えてきた」、「ベネズエラにおける民主化の回復、情勢の安定にむけて外交努力を続けたい」と述べたが、やはり武力行使の是非については言及を避けた。
支持すべきか、批判すべきか―判断の迷いがにじんでいるようだ。
トランプ大統領は、ベネズエラの隣国、コロンビアのペトロ大統領を麻薬密売に関与していると非難。ベネズエラ同様、侵攻の可能性を示唆する発言をしている。
そうなれば、世界動乱の舞台は、ウクライナ、中東からラテンアメリカに移るだろう。
トップ写真)法廷審問へ移送されるニコラス・マドゥロ氏
ニューヨーク–アメリカ
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この記事を書いた人
樫山幸夫ジャーナリスト/元産経新聞論説委員長
昭和49年、産経新聞社入社。社会部、政治部などを経てワシントン特派員、同支局長。東京本社、大阪本社編集長、監査役などを歴任。

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