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.国際  投稿日:2026/1/13

米国のベネズエラ侵攻と日本企業


福澤善文(コンサルタント/元早稲田大学講師)

【まとめ】

・米国がベネズエラに侵攻し、石油の管理・運用権を獲得したことは、ベネズエラ重質油の精製設備を持つ米国の石油関連企業にとって有利。

・この介入は、中南米における中国の影響力を削減し、中国への原油供給に制限をかける狙いもある。

・かつて巨額の投資を行った日本企業は、国内精製設備の不適合、多額の設備投資の必要性から腰は重い。

 

               

新年早々米国のトランプ政権がベネズエラに侵攻し、同国の大統領を拘束したニュースは世界中を驚かせた。トランプ大統領は、更にベネズエラは3000万から5000万バレルの原油をアメリカに引き渡し、米国がベネズエラと米国、両国のためにそれを管理、運用するという声明を出した。

1990年代、ベネズエラが親米政権だった時代に、ベネズエラの原油を狙ってコノコ(現コノコフィリップス)、モービル(現エクソンモービル)、テキサコ(現シェブロン)をはじめとする欧米企業が同国のオリノコベルトを舞台に4大プロジェクトを立ち上げた。日本の商社、銀行も資金協力やインフラ建設に深く関わっていた。

しかし、2007年に全てのプロジェクトが国有化され、敢えて厳しい条件をのんだシェブロン以外は全て撤退した経緯があり、今回の流れで、一旦は撤退した米国の大手石油会社がベネズエラに戻り、開発再開に乗り出す可能性もでてきた。

ベネズエラは原油採掘の可能性がまだまだ高い。現在、原油生産量は日量約100万バレルのベネズエラだが、かつては日量350万バレルの原油を産出していた。まだ未開発の油田を勘案すると日量400~500万バレルの生産能力があると言われている。但し、ベネズエラ原油は中近東産原油や米国シェールオイルとは質が違う。軽質~中質の中近東産原油、米国シェールオイルに対して、ベネズエラ原油は重質油なのだ。

前者は硫黄分の少ないサラッと流れる液体であるのに対し、後者は硫黄分の多いタール状で粘り気の強い液体だ。前者はガソリン、灯油など様々な用途に使われるが、後者はアスファルト、ジェット燃料、ディーゼル燃料などに使われる。原油をそれらの用途別に製品化するためには精製する必要があるが、重質油の精製には極めて複雑かつ高度な設備が必要になる。

米国では数十年前からバレロエナジーやフィリップス66などの企業が、メキシコ湾沿岸にベネズエラの重質油を精製する設備と、自国の軽質油と重質油をブレンドする施設を有しており、今回のベネズエラ原油の米国への引き渡しは渡りに船だ。これまでカナダ、メキシコ産の原油を代用して、設備をどうにか稼働させていた米国の重質油精製業者は、やっと本来の目的であるベネズエラ原油で設備をフル稼働させることができる。

一方で、ベネズエラの原油開発関連で膨大な投資をしてきた日本企業はどんな動きを見せるかが気になるところだ。日本は原油輸入の95%以上を中近東に、残りの数パーセントを米国に依存しており、そもそもベネズエラからは原油を輸入していない。この事実から察するに、日本企業の腰は重そうだ。

日本国内にある精製設備は軽質〜中質原油用だ。ベネズエラ原油を輸入するならば、新たに重油精製設備が必要となり、巨額な設備投資が必要となる。1990年代にベネズエラのオリマルジョンという超重質油を日本へ輸入するために大手商社が動き、関西電力、北海道電力が火力発電の原料としての利用を検討したが、環境問題への懸念から断念した。

筆者は1990年代にベネズエラの石油開発プロジェクト、並びに、オリマルジョン関連でのファイナンス面への食い込みを狙い、カラカスのベネズエラ国営石油公社のPetróleos de Venezuela, S.A.(PDVSA)、及び、PDVSAの子会社でオリマルジョンの開発販売担当のBitumenes Orinoco S.A.(BITOR)を定期的に訪問したものだ。

中国はアスファルトを生産するために制裁下にあったベネズエラから原油を大幅に割り引いた価格で輸入してきた。更に、中国からベネズエラへの巨額融資(600億ドル以上)の返済を原油で受け取っている。中国の山東省には重質油を精製する設備があり、インフラ建設に必要なアスファルトを生産している。また、2006年にベネズエラでは、オリマルジョンの生産を正式に終了したが、その後、中国石油天然気集団公司(CNPC)がPDVSAと合弁会社Petrosinovensaを設立し、超重質油の生産とブレンド原油の製造を行ってきている。

今回の米国のベネズエラへの介入で、ベネズエラの原油管理全体が米国の管理下になった場合、中国へ回っていた原油に制限がかかる可能性が大きい。ここにトランプ大統領の、中南米における中国のプレゼンスを減少させようとする意図が汲み取れる。

米国の狙いは①米国石油関連業の後押しと②中国を米国の裏庭から可能な限り排除することだ。今後、ベネズエラ原油の生産拡大により原油価格が下がる局面が訪れ、日本の企業部門も家計部門も間接的な恩恵を受けるかもしれない。ベネズエラのビジネスに関わった筆者としては、かつて採掘権益のみならず、資金協力と技術面からのインフラ建設協力で巨大なコストを投じてきた日本企業が、今回のこの流れに乗り、再び中南米へ回帰していく姿も見たいものだ。  

 

写真)マラカイボ湖にあるベネズエラの石掘削施設 1990年

出典)Steve Starr/CORBIS/Corbis via Getty Images

 

 




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