無料会員募集中
.政治  投稿日:2026/3/19

海自「ホルムズ派遣」の死角――イランの飽和攻撃と戦傷医療・防衛体制の欠陥


執筆:清谷信一(防衛ジャーナリスト)

 

■ 本稿のポイント

・致命的な戦傷医療の欠陥:護衛艦の医官不足と手術室の不備により、被弾時の隊員の死傷率が他国海軍に比べ著しく高い。

・飽和攻撃への迎撃能力不足:イランの飽和攻撃に対し、艦艇の対空ミサイル搭載数が少なく、近接防御兵器(RWS、CIWS)の装備も不十分で迎撃が困難。

・ホルムズ派遣の交戦リスク:「情報収集」などの名目でも、イランから敵対行為とみなされ、自衛隊艦艇が被弾・交戦する可能性が高い。

・現代戦を無視する組織文化:自爆ボートやドローン対策、多数の負傷者への対応を怠る海自の組織文化が、現代の戦闘で不要な損害を生む。

 

トランプ政権の対イラン政策を背景に、海上自衛隊艦艇がホルムズ海峡に派遣されるリスクが現実味を帯びつつある。戦傷医療体制の欠陥、飽和攻撃への迎撃能力不足、そして現代戦の実態から目を背ける組織文化――。本稿は、2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務めた防衛ジャーナリスト・清谷信一氏が、海上自衛隊が抱える構造的欠陥を鋭く告発する。(Japan In-depth編集部)

 

ホルムズ派遣はなぜ現実味を帯びるのか

トランプ政権はイランに対して戦争を起こした結果、イランによって事実上ホルムズ海上が閉鎖されており、トランプ政権は海自艦艇のホルムズ海峡派遣を要求している。それはアメリカ側についてイランと交戦することになる。そのつもりはなく、単にプレゼンスを示すつもりでもイラン側から攻撃されるだろう。

本来我が国の法制や政策からはあり得ない選択だ。だが選挙後に多くのスキャンダルや失言で支持率低下を起こしている高市首相は「強いリーダー」を演出するために艦隊派遣を決定する可能性がないとは言えない。

何しろ高市首相は単に軍艦を戦艦と言い間違えたことの訂正を嫌がり、「中国に戦艦がある」と閣議決定したり、「戦闘員には最後まで戦っていただく」と言う人物だ。ハーグ条約の定める戦闘員は本邦では自衛官だけだ。これは素直に読めば自衛隊に降伏は認めない、死ぬまで戦え、ということだ。これを自衛隊の最高指揮官である首相が発言したのだ。

実は法制度上、派遣は不可能ではない。既に報道にあるように政府は「情報収集」で派遣をすることは可能だ。あるいは「演習」という名目だ。ミグ25事件やオウム真理教の強制捜査では自衛隊が「演習」という名目で戦闘可能な状態で待機していた。同じ名目で艦隊を動かすことは可能である。だがこれらの名目でもイランから見れば敵対行為となるだろう。

 

海自艦艇の戦傷医療――被弾すれば10人中8人が死ぬ

交戦となった場合、海自の艦艇は被弾する可能性が高い。後述するがイランは多数のドローンや水上・水中無人艇を多数保有してこれらで飽和攻撃をかけてくる可能性がある。実際に被弾した際の人的ダメージは例えば米英海軍らと比べて大きくなる。それは戦時を意識した医療体制が欠如しているからだ。例えば米海軍なら負傷した10名中3人の死亡で済んでも、自衛隊の艦艇では10人中8人、9人が死亡する可能性が高い。

それはまず護衛艦(そして潜水艦も)に本来乗っているはずの医官が乗っていないからだ。例外は海賊対処など海外派遣任務には医官が同乗しているが、その場合ですら医官が乗っていないケースもある。しかもその場合でも担当は小児科とか、戦傷医療の知識のない医官が少なくない。実は自衛隊には戦傷医療の知見のある医官は少ない。実質的に戦闘を想定したそれなりの規模の艦隊で、戦傷医療を治療できる相応の数の外科手術ができる医官を揃えられるのか。また搭乗を命じられたら辞職する医官がでるのではないか。

自衛隊全体では部隊の医官充足率は2割程度に過ぎない。これで戦えるのかと筆者は歴代防衛大臣に質問してきたが、医官の充足率は9割を超えていると問題ないとの回答ばかりだった。であれば何故艦艇に医官が乗っておらず、部隊の充足率が低いのだ。仮に自衛隊病院から外科医をかき集めるならば自衛隊病院を閉鎖しないとならないだろう。

 

・手術台は1台だけ――護衛艦・いずも級の手術室が抱える問題

更に申せば護衛艦の手術室に欠陥がある。護衛艦の官食堂には手術室の設備があり、戦闘に際しては「戦時収容所」として機能する。だが訓練はしたことが無く、せいぜい、備え付けの無影灯の確認をする程度だ。そして本来複数の手術台が必要だがそれがない。それは同時に多数の負傷者が生じるのが常であり、多人数の負傷者を治療するために、現在手術を行っている手術台の他の手術台で次の手術の用意をして、流れ作業で処置をしていくためだ。海自の護衛艦は多数の負傷者が発生するという戦時を想定していない。

これはいずも級も同じだ。実質的にヘリ空母となったいずも級DDH(ヘリコプター護衛艦)は艦内のスペースが広く専用の手術室や集中治療室(ICU)相当の病室が設置されており、洋上での緊急手術や初期治療に対応可能とされている。防衛医科大学の「コンバットメディックの権威」である清住哲郎教授がいずもの手術室を設計した。戦時には他の護衛艦で応急処置をしたり、手術設備のない掃海艇などの負傷者を運び込んで治療し、その後陸上の病院に後送することが想定されている。

だがいずもでも上記のように同時に多くの負傷者を治療することはできない。手術室に手術台が一台しかないからだ。例えば米海軍艦艇の手術室は1つの手術室に手術台は3台備えられている。2台は常設、1台は壁に収納されている。外科医は一人でも看護師が患者を受け入れて準備をして、準備完了した患者から執刀する。8時間で20人を処置できない手術室はダメージコントロール手術用手術室とは言わない。手術室に手術台が1台というのは専門的治療のために計画手術を行う、前線から100km以上後方に開設される病院のものだ。いずもと同様な性格なフネである米海軍の強襲揚陸艦には26人も軍医がのっている。手術を待っている間に多くの隊員が命を、あるいは手足や視力を失うだろう。

更に申せば艦艇の砲側救急品についてもお粗末だ。とても最近の知見を反映したものではなく、乗員の訓練もまともに行われていない。艦艇の戦闘では被弾に際してミサイルや爆弾の破片、船の破片が高速で乗員を襲うが、止血の訓練すらまともにしていない。

 

・イランの飽和攻撃を迎撃できない理由

先述のようにイランにはいまだ多数の対艦ミサイル、ドローン、無人水上・水中艇が存在している。飽和攻撃を受ければ防げない。護衛艦にはシースパロー、スタンダードなどの対空ミサイルを搭載している。これらによる迎撃は基本1目標に対して2発発射するが、海自の艦は僅かな数しか搭載していない。出動に当たってVLSを全部これらのミサイルにするならば国内の艦隊用のミサイルは払底するだろう。本国の防衛をおろそかにしていいのか。更に近距離用のSEERAMやシースパローもあるが、飽和攻撃を受ければあっという間に打ち尽くすだろう。そしてこれらはFPVドローンなどに向いていない。

最も頼りになるのは5インチ砲と、20ミリバルカン砲とセンサーを組み合わせたCIWS(Close-in weapon system)などだ。だがCIWSもeoセンサーが搭載されて、ドローンに対処もできる最新型のBlock 1B (Baseline 2)はごく少数だ。そして多くの護衛艦は世界の海軍では標準装備となっている近接防御用のRWS(リモート・ウェポン・ステーション)を装備していない。

もっとも脆弱な護衛艦はもがみ級フリゲイトだ。対空ミサイルは近接戦闘用のSeeRAmと12.7ミリRWSが2基だけだ。そのRWSもコスト削減で自動追尾装置とレーザー測距儀を省いているので、ドローンや高速無人艇の迎撃は不可能だ。

 

掃海艇と機関銃――時代遅れの近接防御

掃海艇はもっと悲惨だ。最新の「あわじ型」艦、「えのしま型」艇は合計7隻が遠隔操作の20ミリバルカン、JM61R-MSは、EOセンサーを装備しているが、基本は機雷の処理用なので対空でどれだけ効果があるのか。しかも1門だけなので死角が大きい。それ以前の掃海艇は有人で防盾があるバルカンなので、より迎撃が難しい上に、被弾した場合操作要員の乗員の被害が大きい。

護衛艦にしろ掃海艇にしろ、他のドローン迎撃手段としては12.7ミリ機銃だ。海自では昔の不審船対処の時に場渡り的に陸自から12.7ミリM2機銃を防盾付きで導入した。だが、その後何の変更もされていない。他国ではもっと追従しやすいピントルマウントや、光学サイトなどを搭載するなど工夫がされている。M2は発射速度が遅いし、俯角で射撃すると作動不良が起こる欠点もある。防盾は正面にしかないので当然ながら被弾した際に操作要員に多大な被害が出る可能性は高い。

他国では米海軍のコールが停泊中に高速ボートに攻撃されて以降、個艦の近接防御に力を入れてきた。このため12.7ミリ機銃だけではなく、中口径機関砲を搭載したRWSを導入している。例えば米海軍ではBAEシステムズの25ミリMk38RWSを採用している。その他英海軍などでは7.62ミリの有人式ミニガンを採用している。12.7ミリより射程は短いが、単位時間当たりの発射数が多いので迎撃の可能性は高くなる。

 

・現代戦を直視できない海自の組織文化

海自はかつての帝国海軍が華々しい艦隊決戦を夢見て艦艇を装備してきたのと同じで、「地味な」自爆ボートやドローン対策などを怠ってきた。しかも戦時に多数の負傷者がでるという事実からも目を背けてきた。

そのくせ海自は自分たちの潜水艦や掃海技術は世界一だと根拠のないプライドだけは高い。だが湾岸戦争後に掃海艇を派遣したら、他国の掃海艇の方が進んでおり、旧態依然の人間が危険を冒して機雷を処理していたのは海自の掃海艇だけだった。そこで慌てて外国製の掃海システムを導入した。この話を昔、東京財団の勉強会で古庄幸一元海幕長に向けたら、途端に話題を自衛官が勲章をもらえないという話に切り替えて「逃亡」したことがあった。

自分たちの欠点を正面から見ることができないのが海自の組織文化なのだ。

このような状態で現代の戦闘に投入されれば不要な損害を出すだけだ。防衛費を二倍にしてもこのような組織文化が変わらない限り、税金をドブにすてるようなもので国防体制は強化されない。

 

FAQ

Q1:海上自衛隊の護衛艦に医官は乗っているのか?

A1:原則として乗っていない。例外的に海賊対処など海外派遣任務には医官が同乗するケースもあるが、その場合でも戦傷医療の知識を持つ外科医ではなく、小児科医など専門外の医官が充てられることが少なくない。自衛隊全体の部隊医官充足率は2割程度とされており、戦時対応は極めて困難な状況にある。

Q2:海自護衛艦の手術室はなぜ不十分なのか?

A2:護衛艦の手術室には手術台が1台しかなく、同時に多数の負傷者を処置できない構造になっているためだ。米海軍艦艇では1つの手術室に手術台を3台備え、8時間で20人以上を処置できる体制を整えている。いずも級DDHも手術台は1台にとどまり、本格的なダメージコントロール手術には対応できない。

Q3:海上自衛隊はイランの飽和攻撃を迎撃できるのか?

A3:現状では困難とみられる。護衛艦が搭載するシースパローやスタンダードなどの対空ミサイルは搭載数が少なく、飽和攻撃を受ければ短時間で撃ち尽くす恐れがある。また世界の海軍では標準装備となっているRWS(リモート・ウェポン・ステーション)を多くの護衛艦が装備しておらず、ドローンや高速無人艇への対処も難しい。

Q4:海上自衛隊のホルムズ海峡派遣は法的に可能か?

A4:「情報収集」や「演習」などの名目を用いれば、現行法制上、派遣は不可能ではないとされる。ただしいかなる名目であっても、イラン側から敵対行為とみなされ攻撃を受けるリスクがあると著者は指摘している。

Q5:海上自衛隊にRWSが普及していない理由は何か?

A5:明確な公式説明はないが、自爆ボートやドローンといった非対称脅威への対策を軽視してきた組織文化が背景にあると著者は指摘する。近接防御よりも艦隊決戦を重視する思想が装備調達に反映されてきた結果とされる。

写真)護衛艦「いずも」型 DDH “IZUMO” Class

出典)海上自衛隊ホームページ




copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."