GIGAスクール2期は「ストップしている」——教員・校長・起業家が語る教育現場の現在地
Japan In-depth編集部 髙橋十詠
【本稿のポイント】
・校長の半数以上が「目や心身の健康への支障」を懸念、約3割が「学習と無関係な端末利用」を認識するなど、GIGAスクール2期の教育現場で依存問題が顕在化している。
・教員側のセキュリティ設定と自治体の予算構造が、GIGAスクール構想の活用フェーズを阻んでいる。
・「禁止」ではなく子ども自身の判断力を育てる指導と、意志ではなく環境で依存を解こうとする新しい技術が、教育現場と技術界の双方から生まれつつある。
児童生徒一人一台端末が日常となったGIGAスクール2期。しかし文科省の調査では校長の半数以上が健康への支障を、約3割が学習と無関係な端末利用を懸念している。「制限」は本当に機能するのか。元教員、現役校長、起業家——立場の異なる3氏の証言から、日本の教育現場のリアルと、規制でも放任でもない「第三の道」を探る。(Japan In-depth編集部)
2026年現在、教育現場ではGIGAスクール構想第2期に入っている。GIGAスクール構想とは、1人1台端末や高速大容量の通信ネットワーク等の学校ICT環境を整備・活用することにより教育の質を向上させ、子供たちの可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」を実現することを目的とした取り組みである。児童生徒一人一台の学習用端末はすっかり日常の風景となり、重点は「どう活用するか」へと移っている。
一方で、子どものデジタル依存への懸念が現場と家庭の双方から具体的な声として上がっている。文部科学省の調査でも、校長の半数以上が「目や心身の健康への支障」を懸念し、約3割が「学習と関係ない目的での端末利用」を認識しているとされる。
本記事では、生徒指導主任や総括教諭を歴任し、進路指導にも携わりつつ教育現場に27年間立ち続けたR-あアル合同会社代表/ 元教員・須藤令子氏、都立西池袋中学校総括校長・八尋崇氏、そして、テクノロジーで依存に立ち向かう起業家、株式会社SANVIA代表・宇賀神虎乃介氏の3者を取材し、GIGA2期日本教育現場のリアルに迫る。
■一人一台端末が教育現場にもたらしたもの
吸収力のある子供たちにとって操作を覚えるのは「すごく簡単なことだった」と須藤氏は振り返る。
「興味があることを調べたり、友達同士で学び合う姿勢が増えたのは良かったと思う点です。子どもたちの学習意欲もそれに伴い深まったと思います。」
表現方法の変化についても須藤氏は以下のように述べた。
「学校は小さな社会なので、子どもたちは日々色々な考え方や感情に触れ、良いことも悪いことも互いに感じながら過ごしていきます。その中で相手の気持ちを理解し、思いを適切に伝えることがなかなか難しく、言いたいけど言えない、伝えたいけど伝わらないということもあります。」
それでも端末上でなら表現しやすく先生、生徒間のコミュニケーションが向上した反面、やり場のない気持ちを「誹謗中傷」という形で表現してしまうケースも増えたことを須藤氏は話した。
また、須藤氏は家庭の変化として「デジタル端末との距離感」を挙げた。
「導入当時はコロナ禍で、分散登校や隔離期間等、生徒が学校に来られない状況でもオンラインで授業が受けられました。親もスマホからクラスルームにアクセスできるので、連絡事項や体育祭などの様子を確認できる状態になりました。」と、生徒と保護者の双方に利点があったことを述べた。
一方で、教員は端末使用方法の研究に励む日々だったという。さらに課題提出やテストのデジタル化と並行し、端末操作が苦手な生徒向けに紙版も用意する配慮が必要であった。

写真:須藤令子氏(本人提供)
■GIGAスクール2期は、なぜ「ストップしている」のか?
複数の区で教育委員会や校長を歴任し、現在西池袋中学校の総括校長を務める八尋氏。東京都で最初に一人一台端末を導入したのは、当時八尋氏が指導主事を務めていた荒川区であった。八尋氏の実感は、スピード感としては「予想の半分以下」。それは教員が「使いこなせない」他に、厳しいセキュリティの壁があった。
生徒の端末以上に、教員用のものがセキュリティ設定でがんじがらめだという。外部リンクへの接続が厳しく制限されているため作成した資料を生徒に送ることすら困難、校長でさえノートパソコンを校長室の外で使えない。
原因は、日本の教育行政の構造にある。例えば東京都だと教員は都の職員、学校は区の施設である。区役所は内部情報が区職員以外に漏れることを懸念するため、学校自体に制限をかけようというわけだ。
「区長からすれば『なぜ都の職員のためにうちのお金を出さなければいけないのだ。子供には出すが教員に出すのは東京都ではないのか』 というわけです。しかし東京都は、”区立学校” と管理責任を区に委託しているので『区がやらなきゃダメでしょ』と。ここで折り合いがつかない。」と、八尋氏は「やりたい」に応えられない実態を明かした。

写真:八尋崇氏
© Japan In-depth編集部
■制限を強めれば、依存は解決するのか?ー育てるべき力とは
依存と制限破りの実態もあった。学習と称してゲームをする、教員が写った動画をYouTubeにアップする、女子生徒の顔写真を加工して拡散するなど、須藤氏は現場で起きた事例を列挙した。
須藤氏と八尋氏は共通して「ダメ」と禁止するだけの指導には「何の意味もない」と主張しており、自己判断、自己決定におけるリスクマネジメント力を身につけさせることに注力している。
「これ以上やったらヤバイというのは子供の方がよっぽど分かっている。」
と八尋氏。SNSを通し世界中と繋がっている現代では、膨大な情報量の中に危険な実例も含まれる。
「ちゃんとそれを正しい情報として受け取った子は手を出さない。しかし情報処理が苦手な生徒もいる。自分でそれなりに調べ、判断するというルーティンをきちんと作ってあげること。」
と、八尋氏は危険性そのものよりその先にある結末を伝えることが重要だと話した。
八尋氏が全校生徒に度々投げかけていることがある。
「(スマホやタブレットの)持ち主はあなたたちでしょう。その持ち主の言うことを聞かないようなものにしてはいけない。色々な補助はこれから先AIがやってくれるかもしれない。でも結局、如何に指令を出し意のままに動かすかということが人間には求められている。」
SNSでの誹謗中傷問題も、「”SNSのせいで”増えた」のではなく「送った人が悪いのでありスマホやタブレットが悪い訳ではない」と、いつでも根本には人間の意思があることを伝え続けている。
■災害時、デジタルネイティブの生徒たちが活躍する
西池袋中の生徒たちは、今後災害発生時に自分たちが大いに活躍できる可能性を表明している。
八尋氏によると、避難所となる学校にすぐに駆けつけられる職員は区から3名程度に限られる。これでは避難者対応が追いつかないことが想像できる。
そこで、端末操作に習熟している生徒たちなら、高齢者から子供までの人数やアレルギー情報、ベッド数等の必要情報を即座に集計し防災課に送ることができる。
また、街の防災デジタルマップの作成も生徒主体で企画しているそうだ。QRコードから地域の危険箇所などが動画で見られるようにするという案だが、八尋氏は
「本当にできるのか検証した時に、『区のサーバーの上限を超えるからやめて』と言われることになる」
とため息を漏らしていた。八尋氏は一刻も早く市区町村・都・国が連携すること、国全体として政府がしっかりと本課題に向き合っていくことを強く求めている。
■「意志」ではなく「環境」で、依存を解く
現在米国の大学に在学中で株式会社SANVIA代表を務める宇賀神虎乃介氏は、物理的にスマホ使用時間を制限し、個人時間を確保する「DeTech」(2025年10月1日サービス開始)を開発した。
DeTechは、事前に指定したアプリをロックし、物理的カードをかざすことで解除できるというシンプルで有効な仕組みだ。アプリ開発に至った経緯には自身の受験生活の経験があった。
「疲れていたらスマホをいじりながら勉強してしまう。罪悪感が生まれ生産性も落ち、スマートフォンがない時代に生まれればよかったと思うくらい嫌だった。何か方法はないかと3、4年前から考えていました」
と、宇賀神氏はどうにかスマホ脱却を模索していた当時を振り返った。

写真:宇賀神虎乃介氏(本人提供)
■既存のスマホロック製品との違い
近頃流行している、スマホ自体を箱の中に閉じ込め強制的に使用不可能にするスマホロッキングコンテナはタイマー式が主流だ。しかし、これでは緊急時に必要な連絡ツールや学習を深めるAI機能は使用できない。
それに対しDeTechは、制限するアプリを自分で選べる。従って集中力を阻害するアプリのみをロックし、その他の機能は問題なく使用できることがこれまでにない強みである。
「意志力に頼らずとも、環境の力で問題解決できるようなプロダクトを、テクノロジーの力を掛け合わせて作っていきたい。」
と宇賀神氏は今後の展望を語った。現在は教育現場に導入できるバージョンを求める声も増えており、今後は団体向けに設計し組織単位で管理できるようなアプリ開発を目指しているという。GIGA2期に、大きな力となる事業展開に期待したい。

写真:DeTechカード
■GIGAスクール構想は、これからどこへ向かうべきか?
GIGA2期では端末を「配る時代」から「どう活用するかを考える時代」へと移行している。
須藤氏は、「自分は何が得意か、何をしたいか、何のために勉強するのか、将来どうありたいか。まずはこの4つが言える人を育てるために、先生の役割はただの教育者ではなく人間を作るという意味でも重要なポストにある」と義務教育のあるべき姿を再考し、同時に、
「SNSに頼っている子どもたちは言葉を発さなかったり自己表現が難しくなってきてると思うので、沢山会話ができる環境を与え、幅広い選択肢の提供をしていけるコミュニティ作りを行っていく。教育・AI・今後のグローバルコミュニケーションを組み合わせながら、一人ひとりが自分の可能性に気づける社会づくりに取り組んでいきたい」
と、今後の活動に対する熱意を表した。
これからのGIGAスクール構想には、子ども自身が情報を判断し、行動を選択し、テクノロジーを主体的に使いこなす力を育む教育と、その力を支える制度や環境づくりの両輪が強く求められている。
【よくある質問(FAQ)】
Q1. GIGAスクール構想第2期(NEXT GIGA)は、いつから何をしているのか?
- GIGAスクール構想第2期は2024年度から2028年度までの5年間で、第1期で配備された端末の計画的更新、高速で安定したネットワーク環境の確保、教育DXの推進、ICT支援体制の強化を4本柱としている。文部科学省「教育DXに係る当面のKPI」では2025年度までに全学校で必要なネットワーク速度を確保する目標を掲げているが、2024年度に公表された調査では推奨帯域を満たす学校は2割程度にとどまっている。
Q2. 若年層のインターネット・ゲーム依存の状況を示す公的調査はあるか?
- 厚生労働省の令和6年度依存症調査研究事業(実施:国立病院機構久里浜医療センター)は、全国10〜80歳9,000名を対象に調査を実施した。全体でインターネットの病的使用疑い6.2%、ゲーム行動症疑い3.8%、若年層(10〜29歳)ではいずれも高く、2018年度調査と比較して有意な増加が確認されている。報告書は久里浜医療センターのウェブサイトで公開されている。
Q3. 学校端末利用の健康配慮について、文部科学省はどのような指針を出しているか?
- 文部科学省は「端末利用に当たっての児童生徒の健康への配慮等に関する啓発リーフレット」を作成し、「画面から30cm以上離す」「30分に1回は20秒以上遠くを見る」「寝る1時間前からはデジタル機器の利用を控える」などを児童生徒・保護者向けに明示している。「児童生徒の健康に留意してICTを活用するためのガイドブック」(令和7年4月版)も併せて公開されている。
Q4. 海外で子どものSNS利用を規制した事例はあるか?
- オーストラリアでは2025年12月10日、Social Media Minimum Age(SMMA)法が施行された。Facebook、Instagram、TikTok、YouTubeなど10のプラットフォームが対象で、16歳未満のアカウント保有を防ぐ「合理的な措置」をプラットフォーム側に義務付けている。違反時は最大4,950万豪ドル(約50億円)の民事罰。罰則は子どもや保護者ではなくプラットフォーム側に課される。eSafety Commissioner(オーストラリアの規制当局)のウェブサイトで詳細が公表されている。
トップ写真:タブレットPCと母子の写真素材(イメージ)



























