高市首相「誹謗中傷動画」疑惑 伊佐進一氏が問う説明責任とSNS選挙の空白
安倍宏行(Japan In-depth 編集長・ジャーナリスト)
【本稿のポイント】
・高市首相が6月10日に答弁を訂正し、秘書の会議出席が事実上確定した。
・伊佐進一氏は「スキャンダル追及ではなく民主主義の話」として説明責任を問う。
・与党合意の公選法改正案を、伊佐氏は「最初の一歩か半歩」と評価する。
高市早苗首相をめぐる「誹謗中傷動画」疑惑が国会で続いている。当初「事務所は全く関係ない」としていた首相は、6月10日に衆院で答弁を訂正。秘書が問題の会議に出席していたことが事実上確定した。Japan In-depthチャンネルに出演した伊佐進一氏(中道改革連合)は、この問題を「単なるスキャンダル追及ではなく、SNSと選挙という民主主義の根幹に関わる話だ」と位置づける。同時に国会では、偽情報の投稿規制を盛り込んだ公職選挙法改正案の要綱に与野党が合意した。疑惑と制度設計について編集長安倍が聞いた。(Japan In-Depth編集部)
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答弁訂正で何が「確定」したのか
高市早苗首相をめぐる「誹謗中傷動画」疑惑は、首相自身の国会答弁が訂正されたことで局面が動いた。伊佐進一氏(中道改革連合)は、Japan In-depthチャンネルでその経緯を振り返った。
当初、首相側は入り口の段階で「うちの事務所は全く関係ない」「週刊誌よりうちの人を信じる」という姿勢だったという。ところが6月10日、首相は衆院で答弁を訂正。自民党からも答弁修正の申し出があり、秘書が問題の会議に呼ばれて出席していたことが事実上確定した。
「結論は、やっぱり関係があったし、会議にも出ていた、ということなんです」と伊佐氏は語る。会議では「暗号資産」という言葉が3回出てきたといい、首相に関わるトークンが話題に上っていたと指摘する。秘書本人の声とみられる音声では「それ、いいですね」というやり取りも公開されている。
一方で首相側は、会議出席を認めつつ「面識はない」とも説明した。伊佐氏はこの説明を問題視する。「何回も名刺交換した人が、面識ないと言うのか。言葉遊びですよ」。会議に同席し、トークンについて言葉を交わしていた以上、音声が本人のものでないという言い逃れは難しい——というのが伊佐氏の見立てだ。「答弁を修正した段階で、ここはさすがに言い逃れはできないと思っています」。
なぜ「説明責任」の問題なのか
伊佐氏が繰り返し強調するのは、これが単なるスキャンダル追及ではない、という点だ。
音声データの確認をめぐっても、国会では議論が噛み合わなかった。前日の昼に質問を通告していたにもかかわらず、首相からは「私も忙しい」「(有料の音声に)お金を払って見るのは嫌だ」といった答えが返り、最初の一問で時間を費やしてしまったという。「こちらが事前にちゃんと質問通告もしていた中で、入り口は誠実に対応してほしい」と注文をつける。
伊佐氏は、秘書らの参考人招致について「もちろんありだと思う」としつつ、慎重な留保も付けた。「一般人に、立法府という最高の意思決定機関の前に来てもらって議論するのは、一定、抑制的であるべきだ」「一足飛びに何でもかんでもすぐ参考人招致、というのは良くない」。国会での議論を積み上げたうえで、どうしても必要なら求める、という順序を重視する立場だ。なお、第三者委員会による調査の要求は立憲民主党側の主張であり、中道改革連合の立場ではないと整理した。
それでも伊佐氏が問題を追うのは、疑惑の構図そのものが選挙の根幹に関わるからだという。「僕は民主主義の話をしたい。選挙の話ですから」。視聴者から寄せられた「これはただのスキャンダル追及ではない。SNS規制の法案を成立させようとしている中で、総理の周辺で起こっていることだ」という指摘にも、「おっしゃる通りです」と応じた。
公選法の枠組みについても伊佐氏は触れた。金銭の授受があれば買収罪だが、松井氏側は金銭を一切受け取っていないとしている。ただし、金銭がなくても、互いの関係性のなかで一方が利益を得られるよう誘導していれば、公職選挙法上の利害誘導罪に当たりうる——と伊佐氏は説明する。もっとも、立証は容易ではないとも釘を刺した。「有罪にするぐらい構成要件を積み上げるのは、相当大変なこと」。そのうえで「これは勝手な個人の推測ですが」と前置きし、首相本人がそこまで関与しているとは思っていない、秘書が知っていてやっていた可能性はある、との見方を述べた。
公選法改正案は規制の決め手になるのか
こうした疑惑の背景にあるのが、SNSと選挙をめぐるルールの空白だ。
与野党は6月16日、公職選挙法改正案の要綱に合意した。偽情報・誤情報の投稿を禁じ、事業者に拡散防止の指針づくりや年1回の報告を求め、生成AIが作成したものにはその旨の明示を義務づける、という内容で、来週の国会提出が見込まれている。
だが伊佐氏の評価は厳しい。「最初の一歩か半歩ぐらい」「与党も含めて、お互いに合意できる最大公約数がここまでだった」。SNS上では明確なルールがなく、「政治活動」と位置づければ選挙期間中も広告を打てる現状を問題視する。「何億円とお金を使えば、それだけネットを支配できる」。かつて選挙はビラの枚数まで制限してきたのに、「SNSは何の制限もない」「無制限の荒野のようなところで、選挙のルールなしでやっていいのか」と訴えた。
量的な広告規制に踏み込めなかった理由を問われると、伊佐氏は与党の事情を挙げた。中道側は規制を主張してきたが、最大与党である自民党の合意が得られなかった、と述べた。
伊佐氏は、今後も国会で論点が残ると見る。秘書が会議でトークンについて話していたことが認められた以上、「首相の事務所との関係はどうだったのか、という論点は残っている」。来週の予算委員会の集中審議でも、必要があれば質問していく構えだ。
■本稿で触れられなかった主な論点
・定数削減(45削減)と選挙制度改革の棚上げ(25:43〜32:26 ほか)
衆院定数を465から45削減し420以下とする案について、伊佐氏は「なぜ比例だけ削るのか」と疑問を呈した。日本の議員数は人口比でみればOECD・G7のなかでも下位であり、民意を集約する小選挙区と、少数意見を反映する比例代表のバランス(伝統的に3対2)が既に崩れていると指摘する。直近の衆院選では比例得票が自民党と中道改革連合で2対1ながら議席は6対1に開いたといい、削減はさらに集約機能を強めることになる、と懸念を示した。加えて、本来先行すべき企業・団体献金や選挙制度改革の「本丸」が棚上げされたまま、SNS規制が先に動く順序への疑問も語られた(30:51〜31:30)。
・国旗損壊罪をめぐる「内面」の立証の難しさ(22:35〜25:13)
国旗を公然と損壊した場合の処罰を新設する案について、伊佐氏は「人の内面の話をどう線引きするか」という根本的な難しさを挙げた。侮辱の意図でやったのか、たまたまそうなったのかを誰がどう立証するのか、という論点だ。SNS投稿や生成物が対象外となった経緯、表現の自由への配慮、内閣委員会に法案が集中する国会日程の制約(24:00〜25:13)にも話は及んだ。
・旧宮家・皇室のあり方と「女性天皇」の議論(34:01〜38:03)
皇族数確保のため、旧宮家の男系男子を養子に迎える案で一応のまとまりをみたとされる。伊佐氏は、復帰はご本人の意思や宮家側の働きかけ次第だとしつつ、中道改革連合の案には女性天皇の今後の議論可能性を排除しない旨を残していると説明した(35:29〜35:55)。番組コメンテーターの山尾志桜里氏も「最初から排除すべきではない」と同旨を述べている(36:57〜37:17)。
【よくある質問(FAQ)】
Q.高市首相は「誹謗中傷動画」疑惑で何を訂正したのか?
A.高市早苗首相は2025年6月10日、衆議院で答弁を訂正した。当初は事務所の関与を否定していたが、秘書が問題とされる会議に出席していたことを事実上認める内容に改めた。自民党からも答弁修正の申し出があった。
Q.利害誘導罪とは何か?
A.公職選挙法が定める選挙犯罪の一つ。金銭の供与がなくても、当選などを目的に、特定の利益を与えることを示して投票や選挙運動を誘導した場合に成立しうる。買収罪が金銭授受を要件とするのに対し、利害誘導罪は「利益関係を示した誘導」を対象とする点に特徴がある。
Q.参考人招致とは何か?
A.国会の委員会が、議案や国政の調査のために、議員以外の人を委員会に呼んで意見や説明を聞く制度。証人喚問と異なり、出席や証言に法的な強制力はなく、原則として任意である。
Q.公職選挙法改正案は現在どの段階にあるのか?
A.与党が2025年6月16日に改正案の要綱に合意した段階にあり、国会への提出が見込まれている。要綱段階であり、具体的な条文や規制の詳細は今後の国会審議で固まる。
関連リンク
・公職選挙法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000100/
※記事中の「利害誘導罪」「買収罪」、また現行の第142条の7(ネット利用者は誹謗中傷で選挙の公正を害さない努力義務)など、今回の公選法改正が乗る土台。
・衆議院インターネット審議中継
https://www.shugiintv.go.jp/jp/
※高市首相の6月10日の答弁訂正や、予算委員会の集中審議を一次で確認できる。
・刑法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045
※「国旗損壊罪」が新設を目指す現行刑法(外国国章損壊罪=第92条のみで、日本国旗には規定なし)。
・伊佐進一 衆議院議員 公式サイト
https://www.isa41.net/
※ゲスト本人の一次情報。
写真)中道改革連合伊佐進一衆議院議員
ⓒJapan In-depth編集部
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。












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