[三重綾子]【プレッシャー感じさせぬ錦織】
三重綾子 (New York Universityジャーナリズムスクール留学中)
テニスプレーヤー錦織圭選手の決勝戦進出に日本が湧いている。アジア男子として初の四大大会で準決勝を制した錦織選手の快挙に地元ニューヨークのメディアも大絶賛だ。
実はスポーツは全く見ない私だが、錦織選手の事は、2008年2月に行なわれたデルレイビーチ国際テニス選手権の決勝で、当時世界ランキング12位のジェームズ・ブレーク選手を下し、ツアー初優勝を果たした時から注目していた。
特に印象に残ったのは、彼が10代前半からフロリダにテニス留学をしているという事と、地元テレビのインタビューで見せた非常にアメリカナイズドされた英語インタビューでの受け答えだ。
こうした錦織選手の国際性について、ニューヨークタイムズ紙もHope for Japan, Decades after Disturbing Loss( 心をかき乱す死から数十年を経て日本にてもたらされた希望 )と題して、非常に興味深い記事を掲載している。
記事では、今から80年前、四大大会で5度の四強を達成したものの海外遠征のプレッシャーに耐えきれず、26歳の若さで自ら命を絶ってしまった、故佐藤次郎選手について触れ、錦織選手の強さは「13歳の時からフロリダに移り住み国際試合から来るストレスやプレッシャーにうまく対処する能力」(テニスマガジンの武田薫氏)と結論づけている。
記事ではまた、「屈託がなくオープンマインド(武田氏)」な錦織選手の性格が国際試合でうまく作用していると評している。
ソチの冬期オリンピックで金メダルを獲得した羽生結弦選手や、ニューヨーク・ヤンキースで活躍する田中将大選手など、日本人アスリートの国際舞台での活躍が目覚ましい。しかし日本人はこうしたスーパースターに過度な期待をかけがちだ。重度な期待は大きなプレッシャーとなり、オリンピック選手の中には、「日本に希望や夢を与えたい」など、まるで日本の全責任を負っているかのような発言も少なくない。今から46年前には、東京オリンピックの銅メダリスト、円谷幸吉選手も、プレッシャーに耐えきれずに自殺してしまった悲しい過去もある。
一度の失敗で全てが失われるかのような日本に対して、米国は失敗が許される国だ。失敗から学ぶ事が良いとされ、シリコンバレーなどでも、実は何度か失敗したスタートアップの方が投資を受けやすいという風潮がある。
錦織選手の屈託ない性格がこうした米国の文化から来ているのかどうかは分からないが、今や大変な偉業を成し遂げようとしているにも関わらず、当の錦織選手は「何が起こっているのか分からない、セミファイナルだし」と非常に明るい様子だ。
決勝は日本時間の9日朝に行なわれるが、錦織選手には、プレシャーなど気にせずに実力を発揮してもらいたい。
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