[為末大] 【”勝ちたい”の源泉】
為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)
とある会社の役員の方や開発の方向けに講演をさせてもらった時に、ふとある質問をされて一瞬考えさせられた事があった。質問は”どうやって勝つかというのはよくわかりましたが、そもそもなぜ為末さんはそんなに勝ちたかったんですか?”だった。
振り返ってみるとどうしてそこまでして勝ちたかったのか、それがどこから来たのか僕にもわかっているようでわからない。負けた相手やこれから勝ちたい相手の写真を部屋に貼っていて、倒した相手の写真を一枚一枚剥いでいっていくというのが僕の儀式だった。
今考えると、すこし狂っていたのかもしれないとも思う。でもあの時は勝ちたいという欲求がどうしようもなく湧いていた。僕は一番になりたかった。なんで一番になりたいのか、なってどうしたいのかもよくわからないまま、とにかく一番になりたかった。
勝ったら女の子にもてる。お金持ちになれる。有名になれる。そういうものもあったのかもしれない。でも、奥の方にあったのは僕はここにいるんだ、僕を認識させてやるんだという衝動と、そしてとにかく自分を思いっきり使い切りたいという欲求 。
引退して急に執着心がなくなって、なんとなく自分が優しくなった気がした。なるほどこれが勝負から降りるということかと思った。2年ほど経って最近、勝ちたいなと思うようになってきた。あの時のひりひりするような緊張が欲しくなってきた。
勝ちたいけれど、それは勝った状態を手に入れたいというよりも、勝とうとしている状態で生きていたいということかもしれないと思う。僕はそうすることでしか自分を確かめられないのかもしれないなという諦めもありながら。
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