[渋谷真紀子]教育現場に進出する“演劇”〜日本とアメリカのいま
渋谷真紀子(ボストン大学院・演劇教育専攻)
学生時代の劇作りや観劇体験。意外と気づきを与えてくれた、クラスのチームワークをもたらしてくれたという記憶はありませんか?
それを本気でやろう!という試みが日本でも始まっています。2010年、文部科学省が「コミュニケーション教育推進会議」を設置。文化庁は「児童生徒のコミュニケーション能力の育成に資する芸術表現体験」として、芸術家と教師の連携による芸術表現体験活動を取り入れたワークショップ型の授業を展開。本物の芸術に触れる機会を増やし、未来の観客を育てると共に、体験によって情操教育・豊かなコミュニケーション教育を試みる国の支援体制が整っています。
演劇の分野では、文部科学省の委託事業として「ドラマケーション教育」と名付け、演劇(ドラマ)をコミュニケーション教育手法として普及させている団体があります。私が演出補佐をしていたキッズミュージカル「魚沼産夢ひかり」は、子供達の芸術表現により、子供達が心豊かに成長し地域が活性化することを目的に創設された、中越地震の震災復興プロジェクトです。「演劇」を教育手段として活用し、その威力を体験している人達が日本でも増えています。
私自身、「魚沼産夢ひかり」や、英語劇を教える「英語芸術学校マーブルズ」の活動を通じて、子供達の無限大の可能性と出会い広げていく喜びに病み付きになった1人です。だからこそ、本気で学び活動していきたいと思い、ドラマ教育の先進国アメリカにやってきました。アメリカ、オーストラリア、イギリスは、「劇体験」を教育手段にしている先進国です。
ボストンで学び始め、これらの国が演劇教育の先進国になった理由を改めて実感。それは、人種や階級の多様性。その為、現在進行形で人種問題や貧富の差による教育・職業格差が根強くあります。だからこそ、「コミュニケーション手段の習得」「アイデンティティ形成」「コミュニティ形成」等の、個々が最大限に輝きチームの一員として力を発揮する「生きる力」をもたらすツールが必要とされています。演劇が有効であると信じ、強い志をもって活動している人達。それをドネーションによって、団体や個人で支援する文化が日本よりも定着しています。
例えば、THE HOBART SHAKESPEAREANSというLAの団体。場所はHobart Elementary School。ほとんどはESLと言われる英語が第二か国語の生徒達。移民が増加し続けるアメリカで、貧困等による社会的弱者の子供達に、「生きる力」を与えている活動として、全世界で高く評価されています。シェイクスピアという人間の本質を題材にした劇を通じて、教養と彼らの居場所・自己表現の場を創り出し、彼らにハッピーに生きる希望と手段を与えているのです!
私も、ボストンに来て初のツアー公演が始まりました。”The Boy who loved Monsters and the Girl Who Loved Peas”という作品は、「家族の多様性」がテーマ。ボストン周辺の小学校で公演を行い、私は公演後のワークショップを企画し、実際に子供達へのワークショップをファシリテートしています!まずは、ボストンでの第一歩。
これからも沢山の出会いを大切に、”Theater for Happiness”を届けていきたいと思います。
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