【日本人もテロの標的になる時代に突入】~イスラム国は何故日本人を人質に~
久保田弘信(フォトジャーナリスト)
イスラム国が日本人2人を人質に身代金を要求
昨年、イスラム国に拘束された湯川遥菜に続き、後藤健二さんらしき人物が拘束され、2人の映像が流され、72時間以内に2億ドルの身代金要求があったようだ。
第一報から、僕の所にもマスコミ関係者から問い合わせの連絡が入る。その多くは「後藤健二の事知っていますか?」だ。名前を聞いた事あるが、お会いした事はない。
外務省は信憑性を確認中らしいが、海外での人質事件に関して、日本国内のマスコミが情報を出す時点でほぼ間違いない状態だと言える。かつて、アフガニスタンでジャーナリスト仲間の常岡氏が誘拐されたときも、関係者(久保田)が誘拐を知ってから外務省が確認を取り、日本のマスコミが情報を流すまでかなりの時間がかかった。
人命に関わる事だけに外務省は事件性がある程度明確になるまで箝口令を出す風潮がある。ましてやイスラム国はYouTube を活用していて、動画でのメッセージを送りつけて来ている。写真に比べて本人確認はかなりしやすい筈。
昨年、イラク北部の戦闘地域を取材して、ペシュメルガとイスラム国の最前線を訪れた。何が怖いって、戦闘での負傷よりも人質になってしまうこと。
米軍の支援空爆があってペシュメルガ側が圧倒的に有利な状況にあっても、前線への移動時を含め誘拐の恐怖はつきまとう。
イスラム国がモースルを制圧した事によってイラク北部クルド地域には大量の国内避難民が流入している。イラク北部にはシリア難民も大量に流入していて、地元では「石を投げればシリア難民か国内避難民に当たるよ」と冗談が言われる程の状態になっている。
難民、国内避難民支援の為に新たに日本のNGO3団体がイラクに入り、支援を開始する予定になっている。その支援金の一部はジャパンプラットフォームから各NGOに提供される。それは外務省からの資金であり、我々の税金。遠いイラクの地で日本のNGOが活動し、その資金は我々が出している。
日本人にとって無縁の話ではないから、「戦闘そのものではなく、イラク北部の現状を伝えて欲しい」とお願いしても「イラクやイスラム国のニュースをやっても視聴率が取れない」とお断りされる。
日本人が人質になったりして、初めて現地が注目され、突然ニュースが増える。しかも、そのニュースは一過性。日頃、イスラム国やシリア、イラクの現状のニュースを受け取っていない日本人には現地で何が起きていて、何故イスラム国が台頭してきたのか理解するのは難しいと思う。
イスラム国は今回の人質殺害予告の理由として、安倍首相がカイロで行った演説でイスラム国対策として約2億ドルの支援を表明したことを挙げている。
危険を承知で現地入りしているジャーナリストは誘拐されても仕方ないと言われる。確かにその通りだと思う。
しかし、イスラム国にはヨーロッパを始め世界中から支持者が集まっていて、彼等は戦闘地域であるシリアやイラクだけでなく、自国での誘拐やテロ行為にも及んでいる。もはや危険が及ぶのはジャーナリストだけではない。長年、ジャーナリストとして活動してきて、自分が日本人である事で危険を回避できたケースが多々ある。残念ながらそんな時代は終わりを告げつつあるように思う。