[宮家邦彦]【西洋のイスラム化に反対する勢力増殖中】~「醜いヨーロッパ」復活を懸念~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2015年1月19-25日)
ペギーダ(PEGIDA)というドイツの極右団体をご存じか。筆者の専門ではないが、ドイツ語のPatriotische Europäer gegen die Islamisierung des Abendlandesの略だそうだ。「西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者」などと訳される。欧州でのイスラム暴力に反対する政治団体らしいが、本格的活動を始めたのは2014年10月だ。
この不健全な響きのある民族主義的運動には、何と独仏以外にも、英国、オーストリア、スイス、イタリア、オランダ、スェーデン、ノルウェー、ブルガリア、スペインに関連団体があり、デンマーク、ポーランド、ベルギー、ロシア、チェコ、フィンランド、ポルトガル、スコットランドで設立準備中だという。あの醜いヨーロッパが復活しつつある。
〇欧州・ロシア
冒頭ご紹介したペギーダが19日にドレスデンで集会を予定していたが、警備上の理由で警察が中止を通告したそうだ。一方、同様の集会は同日コペンハーゲンでも予定されている。21-24日には恒例のダボス会議が開かれるのだが、欧州のグローバル化と極右民族主義の共存はいつまで続くのか。欧州の凋落は今後も続きそうだ。
〇アメリカ両大陸
21-22日に米国・キューバ協議がハバナで行われる。キューバが銅・マンガン・ニッケル・クロム・鉄鉱石・タングステンなど資源大国であることを知ったのは、恥ずかしながら、ごく最近のことだ。それでもキューバの人口は1200万人程度だから、オバマ政権にとっては経済的利益よりも、やはり政権末期の「実績作り」なのかもしれない。
〇東アジア・大洋州
韓国では大韓航空会長令嬢と産経新聞支局長の公判が注目されている。一方、中国では、フランスでのイスラム過激派テロを受けてなのか、対イスラム過激勢力の取り締まりが一層強化されつつある。最近の動きを見ていると、ウイグル問題が北京にとって如何に機微であるかが実に良く判る。
1月10日にはウルムチ市内の公共の場所でのブルカ禁止令が報じられ、18日には公安部が、広西チワン族自治区など中国南西部国境からの密出国容疑で昨年5月以降、ウイグル族を中心に1400人以上を検挙したと発表。ウイグルに対する厳しいメッセージであると同時に、フランスの二の舞はご免だという中国の危機感の表れでもある。
〇インド亜大陸
25日から3日間、オバマ大統領がインドを訪問する。19日にはインドのモディ首相がオバマ訪印前に気候変動の専門家と協議するそうだ。今後インドが本格的に気候変動問題に取り組むのだとしたら、実に結構なこと。但し、先日の米中合意を見るまでもなく、エネルギー浪費大国同士の合意にはあまり期待できない。これが現実である。
〇中東・アフリカ
安倍首相はイスラエルでネタニヤフ首相と会談、両首相は日本とイスラエルの投資協定締結に向けた準備交渉を早期に始めることで一致したという。日本の経済界が「アラブ・ボイコット」の影に怯えていた時代は名実ともに終わるのかもしれない。今週はこのくらいにしておこう。
いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。