[清谷信一]【日本は対外諜報機関を創設せよ!】~イスラム国・邦人人質対策は児戯 3~
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
筆者は長年に渡って中東情勢把握のために、ヨルダンのインテリジェンス機関と親密な関係を築くべきだとことあるごとに主張してきた。その方策の一つとしては、ヨルダンが主催する特殊部隊見本市、SOFEXに自衛隊の特殊作戦群を参加させる、あるいは近年ヨルダンがオープンさせた特殊部隊の訓練施設、KASOTC(King Abdullah II Special Operations Training Center)において訓練をおこない、これを通じて同国の特殊部隊との接触を深めるべきだと述べてきた。
SOFEXは単なる見本市ではない。これには近隣諸国だけはなく、欧米や世界中から特殊部隊関係者が集まり、彼らが講演するコンファレンスや競技大会も催されるので、多くの国の特殊部隊と信頼熟成と情報交換が可能である。これは諜報機関を持たない我が国にとって得難い情報収集の機会である。だが陸自には情報収集に特殊部隊を活用しようという発想すらない。
防衛省はイラクに陸自を派遣していた2004年当時、SOFEXに自衛隊からは統幕第三室長、泉陸将補と副官、それに隣国シリア駐在防衛官が参加させていた。
自衛隊の将官が戦闘服姿で軍事見本市に参加したのはこれ以外ないだろう。だがその後イラクからも撤収もあってか、SOFEXに参加したことはない。その後もヨルダン側は何度も招待状を送ったが、外務省や陸上自衛隊幕僚監部が握りつぶし、2012年の回は君塚陸幕長が許可を出さなかった。
しかも民主党政権時にヨルダン国王が来日した際、対応したのが外務副大臣であった。明らかに民主党政権、外務省はヨルダンの重要性を認識していなかった。
我が国はヨルダンにODAを供与するなどして良好な関係を持ってはいるが、このような仕打ちをヨルダンの外交筋、インテリジェンス・コミュニティーが快く思っているだろうか。対して中国は長年SOFEXに将官を長とする10名以上の代表団を送り込んでいる。
石破茂地方創生担当相は今回の事件を受けて対外情報機関創設を検討すべきだとの考えを示した。ぜひとも対外情報機関は必要だ。だがこれが内閣調査室同様公安警察の縄張りになる可能性が極めて高い。
公安警察は国内を担当する防諜機関だが、これが対外情報機関まで牛耳るようになればインテリジェンスがすべて納税者の目が届かない公安警察が握ることになり、日本の国家権力が実質的に彼らに握られる可能性が強い。
対外情報機関は警察と人事のファイアウォールを設けるべきである。また彼らには軍事インテリジェンスの能力はないだろう。どこの国でも国内の防諜組織と対外情報組織は分けている。
対外情報機関設立以前に「外交の一元化」の名の下の海外情報の外務省の独占を見直すべきだ。まず防衛駐在官を防衛省の所管とすべきだ。その上で防衛駐在官に相応のスタッフと予算をつけるべきだ。
現在の防衛駐在官は情報収集の訓練も受けていなし、実質単なる連絡員(リエゾン)にすぎない。また特殊作戦群をインテリジェンス・アセットして認識し、これを活用すべきだ。
最大の問題は政治家の質だ。インテリジェンスで一番大事なのは政治のオーダーだ。つまりどのような情報が欲しいかいうことを政治が示さないと、いかに優秀な情報機関を作っても、彼らはどのような情報を収集するか指示されなければ動きようがない。
安倍首相は念願のNSCを創設したが、情報収集の手段もろくな分析能力もない手脚の無いダルマのような組織でしかない。今回の事件でもどれだけNSCが活躍しているだろうか。安倍首相には海外インテリジェンスの重要性を認識していないのではないだろうか。
我が国の国会議員は高邁な安全保障論を語る人はいるが、具体的な軍事的な知識やインテリジェンスを理解している政治家はほとんど皆無だ。それが故に戦後情報機関もなく、お公家体質の外務省に海外情報収集・分析を丸投げし、多くの事件があってもそれを改めようとしてこなかった。まず必要なのは政治家の意識改革である。
軍事や外交は票にならず、このため軍事・外交、それを支えるインテリジェンスに明るい議員が育たない土壌が我が国ある。例えば衆議院や参議院の比例区に一定数の軍事・外交を担当する議員に割り当てるなど、国会の改革が必要だろう。