[清谷信一]【外務省にインテリジェンス能力なし】~イスラム国・邦人人質対策は児戯 1~
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
邦人二人がイスラム過激派組織「イスラム国」に拘束されて人質となり、うち一人が既に処刑されたと報じられている。この件について政府は在ヨルダン大使館に中山泰秀外務副大臣を長とする対策本部を設けて情報収集と対策にあたっている、と多くのメディアが報じている。だが実態は政府・外務省ともに右顧左眄するばかりで、この種の事態に対する対処能力が欠除しているという根本的な欠陥を指摘するメディアは殆ど無い。
問題は政府外務省にインテリジェンスがないことだ。敢えて皮肉を込めて言えば、「情報」と「知性」の双方が欠除していることだ。我が国には米国のCIA、フランスのDGSEのような対外情報組織がない。また防衛省にある情報本部もインテリジェンス機関として機能していない。
防衛駐在官も防衛省から外務省に出向して外交官の身分で仕事をしているので制約が多い。そもそも防衛省も情報収集活動は自分たちの仕事だと思っていないので、情報本部の機能を強化しようとする気がない。
このような状態で、海外インテリジェンス、特に軍事インテリジェンス活動はできない。我が国では外務省が「外交の一元化」の名のもとにすべての情報収集・分析を担っている、と自称している。だがそれは不可能だ。実際にできていないから、政府も外務省もこの手の事件、例えばペルー大使公邸人質事件、近年のアルジェリア人質事件などで右顧左眄を繰り返してきた。
アルジェリアでは外務省は情報もないのに強気に出て、派遣した外交官が現地で半日も入国が許されないという嫌がらせまでされている。そして今回も同じような醜態を繰り返している。基本となる情報がなくて、どうして正しい判断ができようか。また急場に慌てて現地の政府に情報をくれ、動いてくれと頼んでも相手が困惑するだけだ。
外交官にできるインテリジェンスは極めて少ない。例えば現地で工作員を仕立てあげて、金銭を渡して情報を収集するなどは外交官にはできない。それができるならば、諸外国でも多額の費用がかかるインテリジェンス機関など保有していない。
今に至ってもインテリジェンスに関して抜本的な見直しがなされておらず、かのフランス皇帝ナポレオン・ボナパルトは「愚者は経験から学ぶ、世は歴史から学ぶ」といったが、経験からも学ばないのが我が国の政府と外務省だ。
しかもヨルダンは中東情勢のインテリジェンスでは要の国だ。そのヨルダンでこれまでマトモな情報活動もせず防衛駐在官も置かないでいて、事件が起きたら大騒ぎをするのは無様としか言い様がない。
(2に続く。このシリーズ全3回です。)