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経済  投稿日:2015/1/28

[神津多可思]【2%のインフレ率を目指すワケ】~重要なのは長期的な物価変動~

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神津多可思(リコー経済社会研究所 主席研究員)

「神津多可思の金融経済を読む」

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近年、インフレ率の目標を設定して、その実現を目指して金融政策を行うという「インフレ・ターゲット」が世界の主要な中央銀行で採用されるようになった。その際のインフレ率のめどは、多少表現上のニュアンスに差はあるが、消費者物価で2%というのがほぼ共通になっている。

なぜ2%かという厳密な理論的根拠がある訳ではない。インフレ・ターゲット的な枠組みを相対的に早くから採用した国では、「物価の安定」を数字にした場合に、多くの人がそうだろうと思う水準が2%だったからという以上の理由はないように思う。

日本では、1970年代、80年代の2回の石油危機の後は、バブルの時でさえ3%程度のインフレ率であり、常識的な「物価の安定」の感覚は2%より低いのではないかという議論もあった。しかし、ますます進展するグローバル化の下で、日本だけ「物価の安定」の定義が違っていたのでは、なかなかデフレ・マインドが払拭できないとの判断もあったのであろう。現在、日本銀行は2%のインフレ率を目指し金融政策を行っている。

ところで、インフレ・ターゲットで目指されているのは、消費者物価全体でみたインフレ率の場合が多く、原則、生鮮食品とかエネルギーとかを除いたベースでのインフレ率ではない。これはインフレ・ターゲットが、もともと経済活動における長期的なインフレ期待を安定させ、その下で実際のインフレ率も安定させる仕組みとして生まれてきたからだと言えるだろう。

長期的には、生鮮食品であれ、エネルギー価格であれ、大きく振れることはないはずだ。私達が購入するすべての財・サービスの価格を視野に入れて、物価を安定させるよう金融政策を行う。それがインフレ・ターゲットの基本的な考え方である。

それではなぜ、日本では生鮮食品を除き、米国ではさらにエネルギーまでも除いた消費者物価がしばしば採用されるのか。金融政策は、基本的にさまざまな金融仲介のあり方に影響を与えるものであり、それにより家計の消費や企業の投資とかが変化し、それらがさらに短期的な物価の変動をもたらすと考えられる。

この波及経路をみようとする場合には、天候に作用される生鮮食品の価格とか、グローバルな需給に影響されるエネルギー価格とかは、一国の金融政策が大きな影響力を持つ分野ではないので、それらは除外したほうが良くなる。各国の金融政策が自国内の経済活動にどう影響しているかをビビッドにみようとすると、除く生鮮食品とか、さらに除くエネルギーとかのベースの消費者物価が重要になってくるのである。

さて、日銀が掲げた「2年で2%」の目標達成が、このところの原油価格の急落等から危ぶまれている。しかし、大幅であっても短期間の価格変動なら、その影響は1年も経てば前年比に出てこなくなる。日銀が掲げた目標が、デフレ・マインドの払拭のためのものだとすれば、それは長期的な時間視野において実現されるべきものであり、1年程度の期間でのインフレ率の上下の話ではないはずだ。

日本経済における長期的なインフレ期待が今どうなっているか。直接、測れるものではないので、簡単には把握できない。しかし、インフレ・ターゲットの本来の考え方からすれば、それこそが重要になる。いろいろな手法があるが、期待インフレ率は90年代に入った時点では少なくとも2%だったが、2000年代央には1%前後にまで低下したという分析が多いように思う。それが今再び2%に向かっているのかどうか。

そうした議論なしに、単に生鮮食品を除く消費者物価がいつ何%になるのかだけを論じ、黒田日銀総裁の「2年で2%」という目標が達成できる、できないと言ってみても、デフレ・マインド払拭の成否を吟味したことにはならない。より大事なのは、これからの日本経済の持続的な成長を支える方向に、今、インフレ期待が着実に変化しているかどうかの確認ではないだろうか。

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