【日本人がテロの標的になる時代】~ISIL邦人殺害事件:日本が覚悟すべきこと~
安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)
「編集長の眼」
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2月1日早朝、後藤さんを殺害したとされる動画をISIL(イスラム国)が投稿した。日本全土に衝撃が走った。やはり政府の交渉は成功しなかったようだ。ISILは「これから日本にとって悪夢が始まる」と言明したが、これに動揺してはならない。それではまさにテロリストISILの思う壺だ。
ISILは日本を標的にしている。この事実を改めて私たちは認識せねばならない。いくら、日本はアメリカや他の西欧諸国とは違うと言ったところで、テロリストには全く通じない。日本が有志連合に入っている時点で、既に標的になっているのだ。ISILは、日本の理屈が通じない相手なのだ。そういう立場に日本は置かれている。
安倍首相は「非道、卑劣極まりないテロ行為に強い怒りを覚えます。テロリストたちを決して許しません。その罪を償わさせるために国際社会と連携してまいります。」と述べた。これほど強い調子でテロリスト非難したことはかつてないのではないか。これで日本はISILと戦闘状態に入ったことが公に明白となった。
私たちはこれまで中東に対して無関心にすぎた。中東にエネルギーの大半を依存しているのに、政治家を含め日本人全体がほとんどと言っていいほどかの地にどのような問題が横たわっているのか、知らないだろう。
何故、ISILだけでなく多くのムスリムがアメリカを敵視しているのか。何人の日本人が答えられるだろうか?それはアメリカがイスラエルを軍事的にも経済的にも支援し続けているからだ。イスラエルが建国され多くのパレスチナの同胞たちが殺害され続けている。日本はそのアメリカの同盟国である時点で、敵視されても仕方ない面があった。“日本は中東圏で人道支援しかしていないのだから、アメリカとは違う“という理屈はISILには通じない。
では日本はどうしたらいいのか。まず、私たちに出来ることは、中東情勢をよく知ることだ。イスラームとはどのような宗教なのか。何故、イスラエルを敵視しているのか。シリアの内戦は何故終わらないのか。ISILはなぜ生まれたのか。日本はどれほどエネルギーを中東に依存しているのか。イスラーム世界を異質なものとして忌避するのではなく、理解をすることからすべては始まると思う。
次に、海外で安全を過信しないことだ。日本人は海外においてあまりに無防備だ。国内の安全は極めてまれなことであり、海外では通用しないことを知るべきだ。海外に出たら日本人というだけで誘拐されたりすることが現実にある、という認識を持つべきだろう。むやみに怯える必要はないが、最低限の注意を払いながら行動することが求められる。
政府は、中東に対する人道支援をさらに進めることが必要だ。日本がどのような支援をしているのか、国際社会にしっかりと広報すべきだろう。ISILの方がよほど広報戦略に長けている。メディアもそれに乗っかってISILの宣伝動画を垂れ流している。とんでもないことだ。
その上で、多くの難民を生み、悲惨な状況をかの地に生み出しているISILはじめ、中東に跋扈する極悪非道なテロ組織を非難し、国際社会の団結を呼びかけ続けねばならない。政府の情報収集能力の向上にも早急に取り組まねばならない。また、邦人保護の法整備なども早急に詰めねばならないだろう。
残念なことだが日本だけ「われ関せず」、という立場を貫き続けることはもはや不可能になった。そうした認識の下、私たちはテロが増殖・拡散し続ける国際社会の下、どう行動したらいいのか、国家レベルで議論すべきなのだ。