[安倍宏行]【卑劣なテロリスト「イスラム国」真の狙い】~ヨルダン政府を通じての水面下交渉が鍵~
安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)
「編集長の眼」
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イスラム国は24日午後11時過ぎ、人質となっている後藤健二さんの静止画像と男性の音声をYouTubeに投稿し、もう一人の人質湯川遥菜さんの殺害を示唆すると共に、身代金の代わりに、サージダ・アル=リシャーウィという、ヨルダン政府に拘束されているテロリストの釈放を求めた。
サージダ・アル=リシャーウィという女性は、2005年ヨルダンの首都アンマンの複数のホテルで57人の死者を出した自爆テロの実行犯グループの生き残りである。夫はこのテロの実行犯として自爆したが、彼女は体に巻き付けた爆弾が爆発せず、拘束された。現在、死刑の判決を受け、アンマンの刑務所に収容されている。
リシャーウィ被告の弟、ムバーラク・アル=リシャーウィは、イスラム国の前身ともいえる、アル=カーイダの幹部、アブ・ムサブ・アル=ザルカーウィと関係があったとされる。(彼女自身がザルカーウィの姉妹だとする情報もある)それが事実なら、過激テロリスト集団であるイスラム国がリシャーウィ被告の釈放を要求しても不思議ではない。
テロリストが人質と引き換えに仲間の釈放を要求することは普通に行われる。彼らの要求は、身代金か、囚われている仲間を救うかのどちらかである。筆者が取材した、ペルー日本大使公邸占拠事件でも、立てこもった左翼反政府武装組織、トゥパク・アマル革命運動犯行グループのトップだったネルトル・セルパは、自分の妻を含む仲間の釈放を強く求めた。
今回、イスラム国が身代金要求をあっさり取り下げ、仲間の釈放要求に変えたことを意外とする報道もあるが、そもそも2億ドルの身代金要求は法外で現実味がなかったことから、当初から釈放要求を考えていた節がある。
イスラム国は、日本国現地対策本部がヨルダンのアンマンにあることも先刻承知の上だろう。今回も、後藤氏の動画を受けて日本国政府はヨルダン政府にリサーウィ被告の釈放を働きかけるはずで、すべて計算づくだった可能性が高い。
非戦闘員を人質に取り、卑劣な要求をし続けるイスラム国に屈することはあってはならない。身代金にしろ、仲間の釈放にしろ、一度要求を飲めばテロリストの要求はさらにエスカレートするばかりだ。
いずれにしても、イスラム国の要求は明確になった。日本政府は、ヨルダン政府を通じてイスラム国側との水面下の交渉を今必死に進めているはずだ。あらゆるパイプを使い、一日も早く、日本人人質が解放されることを祈念する。