[岩田太郎]【米国はISILを掃討できるのか?】~国民8割が武力行使賛成だが・・・~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
米国では、過激派集団ISIL(「イスラム国」)壊滅に向けた戦略策定に向け、議論が本格化している。CNNが2月16日に発表した世論調査によると、78%の回答者が「米議会は対ISIL武力行使を承認すべき」とし、反対は21%に過ぎなかった。
こうしたなか、「では、どうすれば勝てるのか」という問いに関連して、米国が過去の軍事作戦で犯した過ちから素直に学ぼうとの機運が生まれている。
思想家の故ジェームズ・バーナムが、敗北を強いられたベトナム戦争を総括した教訓を取り上げたのは、評論家のフランシス・センパ氏だ。
それによると、まず米国は、(1)必要な兵力や資源を投入する意思がないのなら、戦争に突入すべきでない。(2)明確な政治的目的の実現のために戦う敵に対して、兵力の逐次投入をすれば、負ける。
さらに、(3)米軍は「解放のための戦争」を演出するため、住民を納得させられるイデオロギー的な理論武装が必要であり、(4)「解放戦争」は、一般からの徴兵ではなく、プロの兵隊で戦った方が勝てる。
加えて、(5)米国のような大国が、兵力の劣る敵と交戦する場合は、初期段階に圧倒的火力で敵を無力化することで、後の流血やコストを抑えられる。(6)米国は、世界的にエスカレートする危険が大きい紛争に介入すべきではない。
一方、最近失敗に終わったアフガニスタン介入の教訓をクローズアップした論調もある。イラクに2回、アフガンに1回派遣された経験を持つ米陸軍の戦略家、アンドリュー・ローラー氏は、「我々の問題は、戦争当初の『暴力で敵を服従させる』という戦闘目的を見失ったことだ」と回想する。
「最初はタリバンを罰し、アルカイダを打ち破ることが目標だったのに、いつの間にかアフガニスタンに欧米式の政治・経済・社会制度を導入することが目的になった。」同氏は、「米国の弱点は、そのような変革に適していない、アフガニスタンという国を理解していなかったことだ。」と結論づけている。
同じくアフガニスタンに派遣された米陸軍のマイケル・シマンスキー退役少将も、「我が軍がアフガニスタンで失敗したのは、我々の政治制度を強制しようとするなかで、米軍がすべてのアフガン人が団結して戦う侵略者という共通敵になってしまったことだ。」と分析した。
また、シンクタンクの新アメリカ安全保障センターのリチャード・フォンテイン所長は、「米議会は、イラクからISILが追い出された後、イランの傀儡であるイラク人の民兵が代わりに、イラクの支配者になる可能性を考えているか。どうすれば、イラク内の対立する勢力が和解団結してISILが戻れないようにできるか、米国にプランはあるか。」と、米国の戦争計画の甘さを指摘した。
翻って、マサチューセッツ工科大学の国家安全保障プログラムのバリー・ポーゼン所長は、「残虐の限りを尽くすISILが正統性や住民からの信頼を失い、自滅する機会を静かに狙うオバマ大統領の勘は、当たっている。」とする。
だが、「欧米型の民主主義国家が世界中で最終的に受容される。」という米国の十字軍的信念が間違いである場合、米国が立てるいかなる戦争計画も失敗に終わる。米軍人が指摘する「戦う相手の理解不足」は、そのまま米国人の自己に対する理解の欠如なのである。
対するISILには、宗教的な「根拠」を持つ領土拡大と、機能しない欧米の制度に取って代わるイスラム法支配という明確な目標と、残忍さや神出鬼没さという冷静に計算された戦略がある。
民主主義や資本主義がうまくいかないという自己の「なぜ」を理解できずに、どうやってISILやイラクやシリアやリビアを知ることができようか。己を理解しないものに勝利はない。