[宮家邦彦]【米、兵力逐次投入の愚は避けよ】~テロ多国間首脳会議開催~
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2015年2月16-22日)」
今回からシリアとイラクで問題を起こしている連中を「IS集団」と呼ぶことにする。考えてみたら、「イスラム国」などという呼称自体、全く適切ではなかった。イスラムに対しても、普通の主権国家に対しても、失礼極まりないと思うからだ。
不思議なことに、この極悪非道のIS集団に関する書物が今書店に氾濫している。判らないことだらけの筈なのだが・・・。かくも多くの専門家が日本にはいたのか。そういうお前も結構喋っているぞとお叱りを受けそうだが、流石に本は書かない、というか、私には書けない。
〇アメリカ両大陸
18日にワシントンでテロに関する多国間首脳会議が開かれる。オバマ政権がこうした政治ショーを演出するのは良いが、肝心の米軍地上戦関与の程度はどうなるのだろうか。その意味でも議会に提案した両院決議案がどうなるかの方が気になる。
2013年のシリア化学兵器問題の際のオバマ政権の対応は実に無様だった。今回もこれを繰り返すことだけは止めて欲しい。両院決議が採択されなければ、逆に米国の無能さをIS集団に晒すだけだからだ。いずれにせよ、兵力の逐次投入という愚はベトナム戦争最大の教訓である。
〇欧州・ロシア
先週のウクライナ問題をめぐる四か国協議で出た結論には失望した。ロシア問題が御専門の袴田教授から以前、「ロシアの意図はウクライナのフィンランド化だ。」という分析をお聞きしたことがあるが、実に正鵠を射ていると思う。
今回の結果はロシアの思う壺だし、現在の独仏首脳では、とてもプーチンに敵いそうもない。ロシアはこれから何度でも騒動を起こしては停戦協議を行い、譲歩したフリをして、その時点での既成事実を追認させようとし、独仏はそれを認めるしかないのだろう。
〇東アジア・大洋州
今週は日本外交が頑張っている。15-19日にはカンボジア副首相らが訪日。19日にはメコン地域官民協力・連携促進フォーラムが東京で開かれる。 東南アジアでの地道な外交が実を結びつつあるようだ。
一方、タイでは恒例の多国間共同訓練「コブラゴールド」が20日に終了するが、翌21日はインラック前首相が起訴される。昨年5月のクーデターもあり、中止や延期も検討されたが、若干規模を縮小したものの、やはり実施されたようだ。タイの軍事政権と中国に正しいメッセージを送るのは容易ではない、ということか。
〇インド亜大陸
今週は17-19日にイスラエルの国防相が訪印する。先週の経済相に続くイスラエル閣僚の訪印だ。同時期にアエロインディアという大規模な航空ショーが開かれ、米国企業トップが多く参加する。インド首相の方針変更はどうやら本物のようだ。米国とイスラエルも本気である。
〇中東・アフリカ
モスルの東西北でペシュメルガが頑張っている。恐らく現在はこのイラク・クルドの精鋭部隊がイラクとシリアで最強の軍隊だろう。イラク南部にいるイランの革命防衛隊と一回戦わせてみたい気もするが、発想自体が不謹慎なので、これ以上は言わない。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。